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デート・ア・ライブ〜崇宮暁夜の物語〜

作者:瑠璃色
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誘い



「ふぅ、疲れたぁ」

陸上自衛隊・天宮駐屯地の一角に位置する格納庫にあるロッカーに、白塗りの片手剣《アロンダイト》を格納し終え、ベンチに座りながら暁夜は呟いた。彼の視界には、ワイヤリングスーツにCRユニットを纏う女性達が映っていた。 整備待ちの者、CRユニットを解除する者等。今回、『AST』に負傷者は出なかった。 というのも、CRユニットを纏う彼女達が到着するよりも前に、暁夜が『プリンセス《精霊》』に遭遇し消失させた。これが真実だが、上の人間には表上、撃退という内容で報告しなければならないと、燎子が嘆いていたのを聞いたことがある。ただ、この報告の前にあった『ナイトメア』と呼ばれる精霊を討伐した回数は『AST』のエースと同等だ。ちなみに『ナイトメア』の討伐数や能力は、DEMのお偉いさんと暁夜、ASTのエースしか知らない。要するに極秘情報なのだ。

「そうえば、あのままアイツ置いてっちまったけど大丈夫かなぁ」

オレンジの缶ジュースのプルタブを開けて床を見つめる。と、頭に影が差した。視線を上にあげると、CRユニットを解除し、ワイヤリングスーツを脱いだ折紙が、下着姿で目の前に立っていた。

「上も白か」

暁夜はどこぞの童貞よろしく赤面するわけでも、目を逸らすわけでもなく、平然な表情でボソリと下着の色を呟く。一応、彼が座っているベンチはAST隊員のロッカールームの中の設備だ。となれば必然的に、下着姿でロッカー室に戻ってくるのも不思議ではない。ただ、折紙以外のAST隊員は、ちゃんと着替えを持って更衣室に向かっている。その件については何度も折紙にお願いしている訳だが、毎回返事をするだけで実行しようとしない。しかも、決まってその時の言い訳が-、

「ごめんなさい。忘れてた」

という言葉だ。恐らく、否、何度聞いた言い訳に、ついには折れ、今となっては誰一人、折紙を注意する者はいなくなった。他にも理由はあり、折紙の家に住んでいることで下着姿や全裸を見たことのある暁夜からすれば、見慣れてしまったのだ。

「ちょっと、今日は寄り道して帰るから。 先に帰っててくれ、折紙」

「どこに行くの? 何時に帰ってくる? 夕飯は何時にする?」

「学校に忘れモンしたんだ。すぐには帰ってくるよ。 夕飯は帰ったらすぐ食べるから、家着く前には連絡するよ」

暁夜はそう言って、空の缶ジュースをゴミ箱に捨て、歩き始めた。

「分かった。 家で待ってる」

その言葉を背に、暁夜はロッカー室を後にし、来禅高校がある方向へと向かった。



天宮市にある来禅高校の教室。 既に時刻は午後四時あたり。シェルターに避難していた生徒や教師達は既に帰った後だ。窓の外を軽く覗くと、相変わらず荒々しい地の獄のようなクレーターが強調されていた。見慣れて来たとはいえ、憎悪が消えることはない。暁夜は教室の扉を開け、中へと入る。少しだけグチャっとなっている教室を見渡し、後ろのロッカーから忘れ物の財布と鍵を取り出し、懐にしまう。

「よし、帰るか」

暁夜は大きく欠伸をした後、教室を出て、廊下を歩き、階段を降り、下駄箱で、室内シューズから靴に履き替えていると、

「いきなりすみません。 崇宮暁夜さんですね?」

「人に名前を聞く前にアンタらが先に言えよ。常識だろ?」

「申し訳ありません。ここではなんですので、場所を移させてもらってもよろしいでしょうか?」

「ここで名乗れよ。 見ず知らずのアンタらの言葉に、はいそうですか、なんて言うわけねえだろ。それでも名乗らないってんなら、警察でも呼ぶか?」

暁夜は、黒い服を着た巨漢二人の真ん中に立つ金髪の男性に、携帯をチラつかせながら煽る。金髪の男性は小さく溜息をつくと、

「では、少々手荒ですがお許しください」

「は? なにいっ--」

その言葉を最後に、暁夜と三人組の男達は、下駄箱前から姿を消した。

数秒後、

次に視界に映ったのは、淡色で構成された機械的な壁に床だ。 暁夜はなんとなく、スペースオペラなんかに出てくる宇宙戦艦の内部や、映画で見た潜水艦の通路を思い出した。隣には先程、暁夜に話しかけてきた金髪の男性と黒い服を着た巨漢二人の姿があった。

「これは・・・拉致ってことでオッケーか?」

「いえいえ、滅相もございません。私達は貴方様を歓迎したのです。色々と聞きたいこともあるかもしれませんが、私についてきてください」

金髪に長身の男性が、執事のような調子で軽く礼をする。 そして、巨漢二人を連れて歩き始めた。暁夜は小さく溜息をつき、金髪に長身の男性と巨漢二人の間に挟まれながら面倒くさそうな表情で歩きはじめる。

そして、どれくらい歩いた頃だろうか。

「・・・ここです。崇宮暁夜さん」

通路の突き当たり、横に小さな電子パネルが付いた扉の前で足を止め、金髪に長身の男性が言った。 次の瞬間、電子パネルが軽快な音を鳴らし、滑らかに扉がスライドする。

「さ、お入りください」

金髪に長身の男性が中に入っていく。 暁夜もその後に続いた。

「なんだ? ここ?」

そして、扉の向こうに広がっていた光景に、首を傾げる。 一言で言うと、船の艦橋のような場所だった。 暁夜がくぐった扉から、半楕円の形に床が広がり、その中心に艦長席と思しき椅子が設えられている。 さらに左右両側になだらかな階段が延びており、そこから降りた下段には、複雑そうなコンソールを操作するクルー達が見受けられた。 全体的に薄暗く、あちこちに設えられたモニタの光が、いやに存在感を主張している。

「司令。崇宮暁夜さんをお連れしました」

金髪に長身の男性が声をかけると、こちらに背を向けていた艦長席が、低いうなりを上げながらゆっくりと回転した。

そして。

「ご苦労。 もう下がっていいわよ、神無月。 そして--」

『司令』なんて呼ばれるには少々可愛らしすぎる声を響かせながら、真紅の軍服を肩掛けにした少女の姿が明らかになった。

大きな黒いリボンで二つ二括られた髪。小柄な体躯。どんぐりみたいな丸っこい目。 そして口にくわえたチ○ッパチ○プス。

「歓迎するわ。 ようこそ、《ラタトスク》へ」

と、可愛らしい少女が不敵に笑った。

「おいおい。 冗談はよせよ。なんでこんな所に、士道の妹がいんだよ」

暁夜は無駄に大仰なリアクションをとった。それに対し、『司令』と呼ばれた少女は、チ○ッパチ○プスの棒を口から抜いて、笑った。

「へぇ、よく覚えてたわね。 改めて自己紹介といきましょうか。私はここの司令官、五河琴里よ」

「はぁん。 要するに、司令官ごっこって所か? そんな事のためだけに俺は拉致られたと? アンタらのお遊びに」

不機嫌な表情を浮かべ、暁夜は後頭部を掻く。しばしの沈黙。その沈黙を破ったのは、暁夜ではなく琴里だ。

「ふぅん。お遊びねぇ。 逆にあなたに聞きたいのだけれど、こんな手のかかるごっこ遊びがあるかしら? 」

「--まぁ、そうだろうな。 で? 俺に用ってのは?」

分かってましたよ、と手のひらをブラブラと振る暁夜。

「ありがとう。 じゃあまずは--精霊の事について知ってる?」

「知ってるぜ。 恐らく、あんたら以上に。 けど、悪いな。 その件については、お偉いさんに口止めされてんだ。 ほかの質問にしてくれると助かる」

口元に人差し指を当てて、暁夜はウインクする。それに対して、琴里は苛立ちを募らせていく。

「じゃあ次の質問。 貴方は、何者?」

「何者・・・かぁ。 そんなの決まってんだろ。 一般市民様だよ」

大きな欠伸を噛み殺して、適当に答える。

「これが最後の質問よ。 貴方はなぜ、CRユニット無しで精霊と互角に戦えるの?」

この情報こそが琴里の知りたい事なのだろう。暁夜はその考えを見透かし、適当にはぐらかす事にした。

「あれだ、あれ。まぁ、人には色々あんだよ。 色々な」

緊張感もクソもない態度の暁夜。 琴里は我慢の限界だと言わんばかりに、

ダン!

と床を靴底で叩いた。半端ないほどにご立腹である。

「おいおい、拉致られた俺が言うことじゃないと思うんだけどさぁー。人様にあれこれ質問するよりも先にアンタらの事や『ラタトスク』について説明しろよ。 それ次第では、答えてやるよ。 琴里ちゃん♪」

そう告げてヘラっと笑う暁夜。立場をわかっていない行動と態度に、《フラクシナス》内の人々は唖然とする。大して、琴里は青筋を立てて、苛立ちのこもる声で告げた。

「ええ、教えてあげるわよ! 耳の穴かっぽじってよーく聞きなさい! 」

「その前に、椅子に座っても構わないか?」

「ええ、いいわよ。神無月。 彼に椅子を持ってきて」

琴里は、金髪に長身の男性、神無月恭平にそう指示する。暫くして、椅子を持ってきた神無月にお礼をし、暁夜は腰を下ろす。それを確認した後、琴里は説明を始めた。

「私達は《ラタトスク》。 精霊を殺さず空間震を解決するために結成された組織よ」

「精霊を殺さず? そんな方法があるなら、こんなにも犠牲は出ていないはずだ」

「ええ、そうね。でも、私達には秘密兵器があるのよ」

「・・・」

暁夜は眉をひそめて考えを巡らせた。精霊を殺さない二つ目の対処法、そんなものを思いつくような馬鹿みたいな組織があるとは想像していなかった。だが、彼女は秘密兵器があると言った。 なら、それを聞くべきだろうと暁夜は考えた。

「・・・で、その秘密兵器ってのはどんな代物なんだ?」

「残念だけど、貴方が思っているような代物じゃないわよ。 ましてや、物ではないかしら」

「物では無い? って言うと、ロボットか?」

「それも違うわ。 正解は--貴方もよく知っている人間よ」

琴里はそう言って、チ○ッパチ○プスの口にくわえていた部分の方を突きつけて、フフンと笑った。 その言葉に、暁夜は瞬時に誰の事かを理解する。それは許されることではない。暁夜に教えることは禁句とされる人物の名前だ。

「まさか--本気なのか? お前は、それで平気なのか? 琴里」

「ええ、平気よ。 それにもう、本人から許可は降りたもの」

そう告げたタイミングで、見計らった様に、背後の扉がスライドする音が聞こえた。そちらに顔を向けると、制服姿の士道が立っていた。暁夜はすぐさま、士道に駆け寄り、胸倉を掴んだ。

「なぁ、士道。 俺の質問に答えろ。琴里(アイツ)が言っている精霊を殺さずに救う秘密兵器ってのはお前の事でいいのか?」

「あ、あぁ」

暁夜の言葉に士道は揺れる瞳をこちらに向け、首を縦に振った。その頷きに対し、暁夜はギリッと下唇を噛み締める。チクッとした痛みが生じ、唇の皮が裂け、血が流れる。ただ、それに気を止める暇はない。それ以上に思考がドス黒い怒りの感情に塗りつぶされていく。

「・・・けるな」

暁夜からボソリと小さな声が漏れた。

「・・・え?」

「・・・ッけるな!! 精霊を救う? なんの力も持たない一般人のお前が? どうやって! また、お前はそうやって精霊を救うのか? 助けるのか?」

暁夜の口から怒りの感情をのせた言葉が滝の如く吐き出されていく。

「・・・あぁ、そうだ。 暁夜が俺を心配してくれるのはありがたいと思ってる。 でも、俺はあの子を助けたいんだ!例え、それで死んだとしても、それよりも助けれなかったことの方が死ぬことより辛い!でも最も辛いのは、お前が・・・親友が!その手で、あの子を殺す事なんだよ!!」

士道は自身の胸倉に伸びている暁夜の腕を掴んで、そう叫んだ。その言葉は、暁夜にとっては重く心にのしかかるものだ。あの時の末路はもう見たくない。それでも、士道は、何があっても精霊を救うと宣言した。

「・・・ッ。 好きにしろ」

暁夜は舌打ちし、椅子に座る。そして、視線だけを琴里に向け、話の続きを促す。

「怒り心頭なところ悪いけど、安心なさい。士道は特別なのよ。そうそう簡単に死んだりしないわ」

「その根拠は?」

鋭い刃のように目を細め睨む。しかし琴里は不敵に笑うと、肩をすくめる仕草をして見せてきた。

「まぁ、理由はそのうち分かるわ。 それよりも士道がどのようにして精霊を救うかの点を説明するわ」

琴里はそう言って一度を間を開ける。

「--精霊との対話よ」

「対話? それならいつも俺がしてる事だが?」

「残念だけど、貴方がやっている対話とは別のやり方よ」

「・・・俺とは違う対話?」

言うと、琴里は小さく笑みを浮かべた。

「それはね」

そして顎に手を置き、

「精霊に--恋をさせるの」

ふふんと得意げに、そう言った。

・・・・・・。

しばしの間のあと。

「・・・・は?」

どんな言葉が返ってくるのかと思えば、お巫山戯も甚だしいクソみたいな内容に暁夜は苛立ちのこもった瞳で琴里を見る。

「それが精霊を殺さずに救う方法って事か?」

「ええ、そうよ。ただ、貴方が思っているように、士道じゃなくてもいいのでは?という考えは否定させてもらうわ。 何故なら、この方法は士道にしかできないことだからよ」

「--話はなんとなく理解したが、なぜ俺をここに呼んだ?」

「決まってるでしょ。 貴方にも私達を手伝って欲しいのよ」

琴里は真剣な眼差しで暁夜を見る。暁夜は椅子から立ち上がって、口を開いた。

「悪いが、お断りだ。 俺は精霊を救わない。誰がなんと言おうと、『精霊』を全員殺す。例え、それで親友(おまえ)やこれまで培ってきたいろんな人達との関係が消えるとしても、俺はやめない。お前も言ってただろ。 助けれなかったら後悔するって。 だから、俺はアイツらを殺す」

悪いな、と最後に士道に謝って、悲しげに微笑んだ。

「そういう訳だから、帰してくれないか? 同居人が待ってるんだ」

「そう、残念。貴方ほどの戦力がいれば、もう少し楽に精霊の力を封印する事ができると思ったのに。 まぁ、いいわ。 神無月、彼をお願い。 後、これ一応、受け取ってもらえる」

琴里は残念そうにそう告げて、インカムを暁夜に渡し、神無月に指示する。暁夜はそのまま神無月に連れられ、部屋を退室して行った。
 
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