空に星が輝く様に
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242部分:第十七話 姿の見えない嫉妬その十五
第十七話 姿の見えない嫉妬その十五
「それと合わせたらもうお腹一杯でしょ」
「ああ、確かにな」
「これで満足しときなさい」
津島はほぼお袋さんだった。
「返事は?」
「わかったよ」
「はいでしょ、はい」
やはりお袋さんである。
「言葉はちゃんと言うこと」
「わかったよ、はいだな」
「そう、返事は一言よ」
「何か最近俺ボロクソだな」
「尻に敷かれてる」
椎名がそんな彼をぽつりと一言で評した。
「恐妻家」
「何かそれって凄く嫌だな」
「ところがそうでもない」
椎名は今度はこう話すのだった。
「恐妻家は世の中を平和にする」
「そうなのか?」
陽太郎が今の椎名の言葉に突っ込みを入れた。
「そんなの初耳だけれどな」
「私が今作った言葉」
そうなのだというのだった。
「だけれど事実だから」
「何でだよ」
「女は戦争とか血生臭い争いはあまり好きじゃない」
だからだというのである。実際に女性が君主だったり国を預かっている場合はだ。無用な戦争は起こらない傾向にある。中国でも呂后や則天武后の時代には無闇な戦争は起こっていない。宮中は血生臭かったがそれでもだ。
「だから」
「それでなのか」
「そう。別に女が偉いとは思わないけれど」
それはないというのだ。
「それでも。男だけが偉いとバランスが悪い」
「むしろ多少尻に敷かれてる方がか」
「男は何だかんだで好き勝手するし」
椎名の今の言葉にはこう返す陽太郎だった。
「何かそれて田嶋陽子みたいだな」
「私はあそこまで馬鹿じゃないつもり」
「それは違うか」
「違う。あれは完全に女上位主義者」
それに過ぎないというのである。
「男上位主義が入れ替わっただけ」
「だよな。あのおばさんはな」
「斉宮もわかること」
「わかるよ。はっきり言って俺あの人嫌いだしな」
「ああ、俺も」
「私も」
それは狭山と津島と同じだった。
「何かああした風に言うのってな」
「言ってること滅茶苦茶なことばかりだし」
「それは馬鹿だから」
椎名はまたその学者をばっさりと切り捨てた。
「言っていることは全部間違ってる」
「全部かよ」
「そう、全部」
まさに駄目出しであった。
「多少尻に敷かれてもそれはバランスのうち」
「だからいいっていうのか」
「そういうことなんだな」
陽太郎と狭山もそれで納得するのだった。
「成程なあ」
「まあわかったかな」
「多少わかってくれるだけでいい」
椎名はまた二人に話した。
「だから女の子の尻には敷かれるべき」
「ってことか」
「わかったわね」
狭山に顔を向けて言う津島だった。
「あんたも」
「ああ、わかったよ」
狭山は少し面白くなさそうな顔で応えた。
「まだ釈然としないけれどな」
「尻に敷かれるだけでなく世話も焼いてもらえる」
椎名はここでも言った。
「バランスは本当に取れている」
「じゃあ俺もか」
陽太郎は月美が作ったその弁当を食べながら述べた。
「そうなるのか」
「えっ、それって」
暫く黙っていた月美もここで声をあげた。
「私が陽太郎君を」
「ってなるのか?」
「言い換えると尽くす」
だが椎名は尻に敷くというのをこう変換してみせた。
「そういうこと」
「尽くすのね」
「つきぴーは尽くす娘」
その月美を見ながらの言葉であった。
「それも何処までも」
「よっ、この幸せ者」
「憎いね」
ここで狭山と津島がコンビになって陽太郎を囃す。
「美人で頭がよくてお嬢様でしかも性格もいい」
「凄い娘に会ったじゃない」
「だよな。俺こんな幸せでいいのかな」
陽太郎はかなり本気になってこう言った。
「料理も美味いしさ」
「斉宮はその幸せを守る義務がある」
椎名はその陽太郎にも言うことを忘れなかった。
「そしてつきぴーも」
「だからこその幸せか」
「斉宮のやるべきことはそのつきぴーを幸せにすること」
「それか」
「そう、それ」
まさしくというのである。
「わかった?」
「ああ、わかった」
陽太郎も確かな顔で頷いた。
「それはな。よくわかったよ」
「わかったらいい。それじゃあ」
「ああ、俺やるぜ」
弁当を食べながら言葉に気合を入れる。
「月美の為にな」
こんな話をしていた秋のはじめだった。陽太郎は自分の為すべきことを見つけた。そしてその為に強く決意もしたのであった。そんな秋だった。
第十七話 完
2010・8・14
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