僕のヒーローアカデミア〜言霊使いはヒーロー嫌い〜
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遊びは全力が大事
駅前。会社員や大学生が駅にぞろぞろと入ったり出ていく中、高校生男女合計10人だけは駅に入ることもなく、邪魔にならない付近にいた。
「よォ、桜兎。 怪我大丈夫か?」
「いきなり倒れて、心配したんですのよ」
「お前、マジやばかったからな!オールマイトが来てくれたから助かったけど、少しでも助けが遅かったらあのデカい敵にオイラ達殺されてたからな!?」
「結果、皆無事だったんだから桜兎を責めるのはやめなよ」
「耳郎ちゃんの言う通りよ、峰田ちゃん」
「そ、それに、桜兎君があの敵を足止めしてくれたおかげで、外部からの救援が間に合ったんだしさ!」
「そうだぜ、峰田! 俺はあの一発で両腕へし折られてダウンしちまったけど、緋奈が頑張ってる姿を見てた。 あれはマジで男らしくてかっこよかった!」
「うんうん! 緋奈ちゃんは頼りになるからね!」
「さっすが、緋奈ちゃん!」
と、麗日を除く全員が緋奈に各々言葉をかける。それに対し、困ったような笑みを浮かべる緋奈。
「そ、それよりもさ、早く遊びに行こうよ」
即座に話を切り替えて、上鳴達を促す。
「まぁ、それもそうだな。こっからはUSJの事なんて忘れて、楽しもうぜ!」
上鳴のハイテンションな声に、ハイテンションで返し、木椰区ショッピングモールへと向かうことにした。
『木椰区ショッピングモール』とは、いろんな人達の要望に対応できるように最先端の店舗や技術を兼ね備えた何でもござれの県内最大のショッピングモール。 10時頃という事もあり、多くの客が行き交っていた。
「お前ら、朝飯食ってきたか?」
先頭を歩く上鳴が顔を後ろに回して尋ねる。その問に対し、首肯したのは五名。横に振ったのは四名。
「それならちょうど良かった」
上鳴は、何故かガッツポーズをとり、スタスタと歩いていく。 緋奈達はとりあえずその後を追う。暫くすると、オシャレなカフェに辿り着いた。
「このカフェ、なんだけどよ。なんと言霊ヒーローのカグヤがおすすめしてるパンケーキが美味いらしいんだよ!」
「ええ!? あ、あの、カグヤが!?」
上鳴の言葉に、緑谷が驚く。その驚きは他のメンバーにも伝染した。ちなみに、緋奈にとっては驚くようなことでもない。むしろ、嫌悪感が募るだけだ。
カグヤこと、桜兎 言葉は、人に対してあまり関心を持たずあまり笑顔を見せないプロヒーローと思われるが、実は大のスイーツ好きだ。特にパンケーキが大好物で、パンケーキ特集の番組には必ず出ているほどにパンケーキ好きなのだ。緋奈も昔は観ていたが、両親を嫌いになってからは観ていない。
「あんま驚かねえんだな、桜兎」
「あ、ううん! お、驚きすぎて顔に出なかっただけだよ!」
緋奈は慌てて言い訳する。
「んだよ、それ! 面白すぎだろ!」
上鳴はゲラゲラ笑って、緋奈の肩に腕を回した。
(合わせないと。 周りに)
緋奈は心の中で自分に何度も言い聞かせて、笑った。ヒーローが嫌いだと、ヒーローを志す上鳴達にバレてはいけない。この秘密は、卒業するまで隠し通さなければならない。卒業した後は、両親の元で働けばいい。相棒も沢山いるって聞くし、自分の出番は来ないはずだ。
「んじゃ、入ろうぜ」
「こういったお店は初めてですので、ドキドキしますわ」
「あはは、そんな緊張しんでもええよ。八百万さん」
「プロヒーローおすすめって聞くと気になってくるな!」
「そ、そうだね、切島君!」
「けろっ。 久しぶりのパンケーキ楽しみだわ」
「まぁ、みんなが食べるなら」
「オイラも」
「お腹すいてきたー!」
「早く入ろー!」
口々にそんなことを言いながらカフェに入り、店員に案内された席に腰を下ろし、飲み物とパンケーキを頼む。因みにテーブルは二つ。
一つめのテーブルには、麗日、緋奈、八百万と向かいの席に、蛙吹、緑谷、切島。
二つめのテーブルには、峰田、上鳴と向かいの席に、芦戸、耳郎、葉隠。
「そうえば、桜兎」
「ん?どうしたの、上鳴君?」
「いや、何度見てもお前の両親がアトノアとカグヤなんて信じられなくてさ」
上鳴がそう答えると、緑谷と峰田が、
「やっぱりそうだったの!? 桜兎君!」
「そ、そんな話、オイラ聞いてねえぞ!? 桜兎!!」
各々の違う感想を大声で叫んだ。その後に、店員から注意され、峰田と緑谷は頭を下げた。
「っで、それ本当なのかよ? 桜兎」
「なんだ峰田、お前知らなかったのか?」
切島が首を傾げると、
「逆に何でお前らは知ってんだよ!!」
机を叩くブドウ頭。
「はぁ? てか俺達だけじゃないと思うぞ? それ知ってんの」
「そうよ、峰田ちゃん。 緋奈ちゃんのご両親の簡易的なプロフィールは、ヒーロー名鑑に載っているわ」
上鳴の言葉に、蛙吹が答える。確かにヒーロー名鑑には、緋奈のご両親が載っている。大半のプロヒーローは本名は載せたりしないのだが、あの二人は載せている。なぜそうしたのかよく分からないが、こちらに迷惑のかかるようなことはやめて欲しい。小中と友達や先生に『言霊ヒーローの息子』だと言われてきたからうんざりだ。
「ま、まぁ、隠すようなことでもないしね」
緋奈は、あはは、と笑う。
「どおりで個性が似ていると思ったんだ。でもアトノアとカグヤは、対象の操作で気絶することはない。多分、桜兎君はまだうまく制御できていないということ・・・ブツブツブツ」
「やめて、怖いわ。 緑谷ちゃん」
「ある意味、才能やね」
緑谷のブツブツモードに、蛙吹と麗日が言葉をかける。 それに緋奈達は同意するように、うんうん、と首を縦に振る。やがて、注文したパンケーキと飲み物が運ばれてきた。
「ほら、緑谷。 パンケーキ来たから食えって」
「ご、ごめん!」
ブツブツモードの緑谷の背中を切島が軽く叩いて、食うように促す。既に他のメンバーは食事を開始していた。
「んだこれ、クソうめぇ!!」
「さすが、プロヒーローおすすめのお店ですわね」
「けろっ♪」
「うんまーい!!」
「こんなうめえぇのかよ!このパンケーキ!!」
「なにこれ! 普通にうまい」
「こんな美味いパンケーキ初めて食べたよ」
メープルシロップたっぷりのパンケーキに、ホイップクリームをつけて口に含む度に、緋奈達は幸せそうな笑みを浮かべる。その後は、黙々とパンケーキを食していき、
「ふぅ〜、食った食ったぁ!」
「じゃあ、次行くか」
「うん、そうだね!」
お腹いっぱいになった緋奈達は、お会計を済ませてカフェを出る。
「なぁ、上鳴。 つぎどこ行くんだ?」
「あー、とりあえずゲーセン?」
切島に上鳴はそう答える。そして、ゲーセンまでの道先を、他愛のない会話をしながら歩くのだった。
❶
ショッピングモール3Fのゲームセンター前。
「ここのゲーセン、リニューアルされてんじゃん!!」
上鳴が興奮したように、入口前の上に掛けられた『更に進化したNewゲームセンター!!』という看板を見て大声を上げた。かくいう、緋奈も興奮していた。というのも、彼は台のゲーム好きだ。家には昔のゲーム機から最新のゲーム機まで揃っている。どれもこれも親から貰った生活費とお年玉を貯めて買ったものだ。
「まずどれやるー?」
「そーだなぁ。全員でやれるもんっつうとなぁ」
「おい、お前ら! アレとかどうだ!? アレなら全員で出来るぞ!!」
ゲームセンター内で歩き回っていると、峰田が大声を張り上げて、とある場所を指差した。 緋奈達はそちらの方に視線を送ると、
「巨大な車?」
上鳴がそんな言葉を零した。確かに彼の言っている事は合っている。峰田が指差したゲーム機器は、巨大な車の窓やら扉などに真っ赤な血と手形の付着したデザインのホラー系VRゲームだ。
「ほら、ここに12人までOKって書いてあるしよ! やろうぜ、このゲーム!」
「いいけど、峰田は俺らと同じ席な」
一人鼻息荒く興奮している峰田に、切島が緑谷と自分を指さした後、そう言い放つ。その瞬間、
「何でカフェん時といい、ゲームといい、男同士で座んなきゃなんねえんだよ!? オイラだって、女の子の脇チラやへそチラ、うっかり見えるパンチラ、運がよけりゃあ、横ち--」
「それ以上はやめろ」
とんでもない変態発言をつらつら並べる峰田の頭を、切島が叩いて止めさせる。そして、
「ほら早くいこーぜ」
「あ、あぁ。 悪ぃな、緑谷」
「う、うん。 僕は気にしてないから大丈夫だよ」
切島は緑谷に謝って、ホラー系VRゲームの巨大な車に乗り込む。 席順は、
最前席を、切島、峰田、緑谷。
中央席に、上鳴、耳郎、芦戸、蛙吹。
後部座席に、八百万、緋奈、葉隠、麗日。
「くぅ!? 桜兎のクソリア充め!イケメンなんて滅びやがれ!!そうすれば必然的にオイラがイケメンになるのに!!」
「少しは黙ってろよ、お前」
「お、落ち着いて、峰田君」
最前席は落ち着きがなく、
「ちょーやべぇ! ホラゲとかぜってぇおもし--ちょ、待っ!? 耳郎! おまっ、つねんなって! いた、いただだ!?」
「う、うるさい! い、イヤフォン目にぶっ刺すよ!?」
「響香ちゃん、怖いの苦手ー?」
「落ちいて、耳郎ちゃん」
中央席は、上鳴がホラゲが終わるまで生きているか心配で、
「怖いのは苦手ですが、ヒーローたるもの幽霊程度に恐怖してはいけませんわ」
「ワクワクドキドキ!!」
「うー! 早く始まんないかなー!」
「う、うち、怖いの苦手」
温度差の激しい後部座席。
ホラー系VRゲーム『ゾントピア』。 巨大な車のデザインをしたボックスの中で、それぞれの席にあるVRゴーグルを利用して行う大人気ゲームだ。 タイトルが変なのは気にしない様にしている。ストーリー設定は、『プレイヤーが探検家となり、『理想郷』と呼ばれる廃都市に突如現れた化物の謎を解く』というものだ。 人数分の百円玉を入れる事でプレイができる。
「全員、お金入れたか?」
最前席の切島が後ろを振り返り尋ねる。
「ちょっと待ってくれ。 ほら、さっさと金入れろって、耳郎!」
「う、うるさい! バカ! ちょ、か、勝手に手を動かさないでよ!? い、いや、まっ--」
投入口にお金を入れたくない耳郎に殴られながら、上鳴は無理矢理、手を動かし投入口に金を入れ、強引にVRゴーグルをかけさせた。
「よ、よし。 俺らはもう準備おっけーだ」
「そ、そうか」
「さりげなく腕を触るなんて羨ましすぎんだろ!? オイラなんて、オイラなんて・・・どう頑張ってもむさ苦しい男どもの腕しか触れねえんだぞ!!」
「いちいち叫ぶな、峰田」
上鳴と耳郎の取っ組み合いに食いつく峰田の頭をチョップして黙らせる切島。 そんな騒がしい最前席と中央席と違い、後部座席では、
「明かりが欲しいですわ」
「真っ暗ってどいう言うこと!?」
「真っ暗だー!」
「まだ真っ暗やん」
既にVRゴーグルをかけて準備万端の緋奈達。最前席と中央席に座る切島達はそんな彼らを見て、なんというか申し訳ない気持ちになり、無言でVRゴーグルをかけ、最前席に設置されている視点変更と移動操作と選択を押すためのコントローラーを真ん中の峰田が掴み、スタートのボタンを押した。
そして、短めのオープニングが流れた後に、ゲームが始まった。
廃都市の中を自由に歩き回ることが出来、時折、謎かけがあり、それを解くことでこの先に進むのに役立つアイテムを獲得することが出来る。
「おお! アイテム落ちてんぞ!!」
「おい、峰田。 拾ってみろよ!」
切島と上鳴に促され、峰田は、コントローラーを使って床に落ちているアイテムを拾う。なんかテッテレテーとか変なBGMが流れた後に、視界にアイテムの詳細と名前が現れた。
『錆びたピッケル』・・・一回使用したら壊れる。 ダメージ1を与える。
「・・・雑魚じゃねえか!?」
「あわっ、お、落ち着いて、峰田君! ああーっ!?」
コントローラーを使って、錆びたピッケルをぶん投げた峰田に、緑谷が、何でそんなことを、みたいな声を上げた。と暫くして、飛んでいった錆びたピッケルの方向から、獣の唸るような声が響いてきた。
「な、何かこ、声、聞こえない?」
「いっ、痛い痛い! つねんな!」
「大丈夫よ。 落ちいて、耳郎ちゃん」
「犬でしょうか?」
「いやいや、あれは狼だね」
「そ、そんな冷静に声当てようとしなくていいから!?」
耳郎に二の腕をつねられる上鳴と、それを宥める蛙吹、冷静な態度で獣の唸り声が何なのかを当てようとする八百万と緋奈、そんな二人にツッコミを入れる麗日。
「ね、ねぇ。 これ逃げたほうが--」
「何言ってんだよ、緑谷! 男なら立ち向かうべき場面だろ!! って事で進め、峰田!」
「うっせえんだよ、ムサいがぐり!? オイラは逃げるぞ! わざわざ死ににいく馬鹿と心中なんてごめんじゃボケが!?」
「誰が、ムサいがぐりだ!? ド変態ブドウ頭!?」
切島と峰田は罵倒しながらコントローラーをガチャガチャと動かす。 それに伴い、視点が色んなところに移動して気持ち悪くなってくる。特に緋奈はすぐに酔うため、絶賛、青ざめた表情をしていた。
「あっ、ちょ。 まじ・・・吐きそう」
「お、お二人共! コントローラーを離してください!」
「ひ、緋奈ちゃんが吐いちゃうよ!?」
「ひ、緋奈ちゃん、大丈夫!?」
その二人の声にいち早く反応した緑谷が
「切島君! 峰田君! 落ち着いて!!」
二人に向かって大声を張り上げた。
「あ、あぁ。 悪ぃ、つい熱くなっちまった」
「んだよ、緑谷。オイラの邪魔すん--」
「落ち着け、峰田」
クールダウンした切島と違いヒートアップ状態の峰田を黙らせるために、上鳴が頭を叩いた。 そして視点が戻り、吐き気が回復した緋奈は八百万の肩に頭を預けて休憩していた。
「おっし。 気を取り直してすす--」
切島がそう言ってコントローラーを握り、背後を振り返った瞬間、
『GU...GURRRRRUUUAAAAA--』
頭に錆びたピッケルが突き刺さり、腐った肉に包まれた屍人が、涎だらだらのギザギザの牙を光らせて、獣の唸るような声を上げていた。しかも超至近距離。
「い、いやあああぁぁぁぁああああ!!」
「ぐえっ!? ちょ、首しまっ--」
「お、落ちいて、耳郎ちゃん!?」
世界の終わりのような悲鳴を上げた耳郎に首をホールドされる上鳴を助けようと、止めに入る芦戸。 因みにその混沌は後部座席でも起こっていた。
「あ、あんなおぞましいもの、は、初めて見ましたわ」
「むぐっ!? んっ、んんッ!? 」
「・・・ひゃんっ!? ひ、緋奈ちゃん!?」
「もう、うち無理」
怯える八百万に正面から抱きしめられ顔が胸に埋まり悶える緋奈と、その緋奈の動かす手が運悪く胸に触れ声を上げる葉隠、そして顔を真っ青にした麗日。 どちらかと言うと混沌いうより楽園かもしれないが、緋奈にとっては混沌に近い。
結局、屍人に殺され、ゲームオーバーで、幕を閉じた。
「あー、まじビビったな、最後!」
「し、死ぬかと思った」
「はぁ・・・はぁ・・・」
「意外と怖かったわ」
各々感想を零しながら、ゲーセンを出る。
「んじゃ、疲れたし解散にするか?」
「うん、そうしよっか。 明日から学校だしね」
上鳴の解散に同意する。
「じゃ、俺はこっちだから」
「俺達はこっちだから、ここで解散だな」
「オイラも」
「僕も」
切島、上鳴、峰田、緑谷はそう言って、帰っていく。途中まで同じ帰り道の、緋奈、八百万、芦戸、葉隠、麗日も、楽しく話をしながら家に帰るのだった。
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