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僕のヒーローアカデミア〜言霊使いはヒーロー嫌い〜

作者:瑠璃色
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USJ in 山岳ゾーン⑵

「中身ぶちまけたから、逆に気持ち悪い」


屍のように倒れふす(ヴィラン)達を縛りながら、緋奈は土気色の顔で呟いた。

「今度からは、バスに乗る前に酔い止めの薬を飲むように心がけてくださいね。緋奈さん」

同じく(ヴィラン)を縛る八百万が心がけるように念押しする。

「ほんとそうしなよ。今回みたいに面倒事増やされるの嫌だからね」

「め・・・面目ない」

耳郎の言葉に、緋奈はシュンとする。確かに、実践時にリバったり、気を抜いたりするのはいけない。 それを分かっていながら、行動に移せないのが緋奈の欠点でもある。

「さて、皆さんとの通信手段を見つけませんと」

「あ。 それなら上鳴の・・・って、ジャミングされてるんだっけ」

「そういう上鳴君は何処に・・・」

「おい、お前らが探してんのコイツだろ?」

緋奈達の背後からそんな声がかけられた。そちらに視線を向けると、

「手ぇ上げろ。 個性は禁止だ。 使えばコイツを殺す」

片方の手から電気を迸らぜながら、もう片方の手で、あほ面の上鳴を掴んだ(ヴィラン)がそこにはいた。

「上鳴さん・・・!!」

「やられた・・・!!完全に油断してた・・・」

「せっかく、気分よくなってきたのに」

(ヴィラン)の言葉に緋奈達は両手を上げて、無抵抗の意を表す。

「同じ電気系個性としては、殺したくはないがしょうがないよな」

「ウェ・・・。 ウェ〜〜〜イ・・・」

「全滅させたと思わせてからの伏兵・・・。 こんな事も想定できていなかったなんて・・・」

「電気系・・・! 恐らく轟さんの言っていた通信妨害してる奴ね・・・!」

「あのー、は、吐いても構いませんか? ・・・うぷっ」

土気色の顔で(ヴィラン)に懇願する緋奈。 ヒーローの卵であろうものが、(ヴィラン)に懇願など恥ずかしいことかもしれないが、緋奈にとってそんな薄いプライドはない。吐きたい時は吐く。寝たい時は寝る。食べたい時は食べる。そういった事をするのに、プライドはなんの役にも立たない。プライドで飯は食えないし、排泄も出来ないし、吐き気も治らない。

「駄目だ。適当な事言って、何かするに決まっている。 あまり俺を舐めるな、ガキ」

「マジお願いしま・・・うぇっ、おうぇ……ッ」

(ヴィラン)に拒否られると共に、限界に達した緋奈は本日三度目のリバースを始めた。もう既に食ったものは吐き出し尽くしたため、胃液だけが吐き出される。

「ちっ。緊張感のねえガキだな。まぁ、いい。 そっちへ行く。 決して動くなよ」

不快そうに表情を歪め、緋奈達にそう命令する。

「・・・上鳴もだけどさ・・・電気系ってさ、『生まれながらの勝ち組』じゃん?」

「何を・・・」

唐突に喋り始めた耳郎に八百万は困惑する。

「だってヒーローでなくても、色んな仕事あるし引く手数多じゃん。 いや、純粋な疑問ね? なんで(ヴィラン)なんかやってんのかなって・・・・」

耳郎は自身の体で隠すようにプラグをスピーカー内蔵ブーツに繋ごうと試みる。が、

「気づかれないとでも思ったか?」

「ウェイ!?」

バチバチと電気を迸らせた手を上鳴の顔に突きつけて、(ヴィラン)は告げた。

「くっ!!」

「子供の浅知恵など馬鹿な大人しか通じないさ。 ヒーローの卵が人質を軽視するなよ。 お前達が抵抗しなければ、このアホは見逃してやるぜ?」

(ヴィラン)は殺意の篭った瞳で、緋奈達を睨み、

「他人の命か、自分らの命か・・・! さぁ・・・動くなよ・・・」

告げた。 それは、実践を経験したことのない卵達にとって、どうしようも無いほどに重圧のかかった言葉だった。 最善の選択を選ぶ勇気も覚悟も薄れ消えゆく。最初から(ヴィラン)に勝てると思っていたのが間違いだった。勘違いしていた。雑魚ばかりだと調子に乗った結果がコレだ。

「【人質を離せ】」

凍りついた空気の中、その声は聞こえた。

「は? 何言っ・・・ぐぅ? 手、手が勝手に・・・!?」

先程まで上鳴を掴んでいた手が離れる。(ヴィラン)が自らの意思で外した訳ではなく、意思に関係なく外されたのだ。(ヴィラン)がそれに驚くのは仕方の無いことだ。何故なら、緋奈が見せたのは風を操るということだけで、別にそれ以外は何も出来ないとは言っていない。

「あまり潜入感に囚われすぎると、足元をすくわれるよ、(ヴィラン)

緋奈はそう言って、

「【そのまま抵抗するな】」

再び禁じ手である『対象の操作』を使用する。

「ちっ。 最初から騙されていたのはお前らじゃなく俺だったって訳か。訂正だ。 さすがはヒーロー志望のガキ共だ」

(ヴィラン)は緋奈が具現化したロープで捕縛される中、そう賞賛の声を口にした。

「は・・・はは。要望で冷却機能付けといて正解だったね。これなかったら、意識飛んでたよ」

緋奈は弱々しい笑みを浮かべて、山壁に背中を預け座り込んだ。吐きすぎたことによる疲労感と禁じ手使用による副作用で、スタミナをごっそりと持っていかれたため、動く事もままならない。

「た、助かりましたわ、緋奈さん」

「ちょっと、アンタ大丈夫!?」

「ウェ・・・。 ウェ〜〜〜イ・・・」

緋奈に駆け寄り声をかけてくる八百万達。

「う、うん。 そ、それよりも早くみんなと合流しないと・・・」

フラフラとした足取りで立ち上がろうとするが、起き上がることが出来ない。すると、

「私が背負いますわ。 乗ってください、緋奈さん」

「私達がアンタを守ってあげるから、行こう」

「ウェ〜〜〜イ」

八百万がかがみ、緋奈を背負った。そして、あほ面の上鳴を支えながら耳郎が音を振動させる小剣を手に告げる。

「う、うん。 ありがとう、皆」

緋奈はそうお礼を言い、瞼を閉じた。 
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