獣篇Ⅲ
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34 安易に博打には手を出さない方がよいことがある。
部屋に入ってきた万斉は、わたしの顔色を見て、表情を変えた。
_「晋助?零杏?どうしたのでござるか?大丈夫でござるか?」
_「ええ。大丈夫ですわ。心配をおかけしてすみません。」
_「まァ、いろいろあってなァ。一段落ついたから、良かったけどな。」
_「そうか、ならばよいのだが。零杏、決して無理はせぬようにするでござる。」
_「…ええ。ありがとうございます、万斉先輩。」
置いておくから、ゆっくり飲むでござるよ、と言ってテーブルにスープを置いたあと、万斉は部屋を立ち去った。
万斉が去ってから、テーブルの上のスープに手を付けた。と言ってもまだ、晋助は私を抱えたままである。
_「いつまで抱えるの?」
我ながら、悲しくなるくらい掠れた、弱々しい声だった。
_「そうさなァ。永遠でもいいぜェ?」
_「フフ)そう。ならお願いしようかしら?」
スープに口をつける。
優しいコンソメ味だ。
_「スープを飲んだら、華蛇に麻酔薬を打たなきゃ。もう少しで到着だったかしら?」
_「そうだ。着いたらオレがサポートにつくから、安心して続けろ。」
テロリストが意外と優しいことが、ちょっと面白い。
_「分かったわ、ありがとう。」
スープを飲み終えた私は、カップを食堂のレーンに置き、晋助と一緒に華蛇の待つ牢獄へ向かった。
***
必要な道具を持って牢獄へ行くと、
先程よりももっと窶れた姿で未だに華蛇は賭博をやっている。
_「私、確か彼女の賭けに勝ってからあんなことが起こったのよね?」
_「確か、そうだったなァ。オレは負けたが。あれは勝っても負けてもどっちにしろ不幸なことが起こる、呪いの博打ってやつじゃァねェか?」
_「縁起でもないこと言わないでよ。まさにさっき、私が死にかけたんだから。…さ、じゃあ彼女に麻酔薬打つから、少しばかり手伝ってね。」
と言って、私は牢獄の鍵を開け、
華蛇の側に腰かける。
小さく呪文をかけて動作を止めた隙に、麻酔薬を打った。打ち終わってから時間を解放する。もちろん忘れよの呪文も忘れずに。
_「よし、もう打ったから大丈夫。あとどれくらいで着きそう?」
_「もうすぐじゃねェのか?」
すると、春雨の船とのドッキング体制が整い、今からゲートを開ける準備を行います、という館内放送がかかった。
_「本当に着いたのね。」
と言って手錠を取り出すと、彼女の両手首にかけた。
かけ終わったところで、ドアの方がガヤガヤし始めたので、そろそろ係の者が到着する頃だろう。すると、ごっつい男たちがやって来て、私たちに告げた。
_「大変、お疲れ様でした。どうもありがとうございます。では、元第四師団団長をこちらの牢へ移しますので、しばしお待ち下さい。」
晋助の方を向く。しばし考え私は言った。
_「…ついでですから、我々も見ていていいですか?どっちにしろ時間がございますので。」
_「そうですか。では、いいですよ。付いてきて下さい。」
と言って、私たちを案内してくれた。
***
華蛇を無事、春雨の牢に入れ神威に連絡を取った。
_「もしもし、こちら零杏。あなたのお望み通り元第四師団団長を連れてきたわ。今はもう、春雨の牢に入ったわよ。」
すると、神威から応答があった。
_「もしもし?こちら神威。零杏、ありがとうネ。今から会える?」
晋助がその言葉に少し反応するように、般若のような顔で私の方を見る。
_「オイ、…」
_「いえ、残念ながらまだ会えないわ。私たち、あなたたちの上司にご挨拶しなくては。会えるなら、その時になるわね。」
_「そうか。残念だヨ。零杏があんな阿保提督に会う、だなんて、勿体ないヨネ。まぁ、いいさ。その会合が終われば会えるんだろ?」
チラッと晋助の方を見る。
相変わらず般若のような顔だ。
_「うーん。連れが許可してくれたら、ね。」
_「連れ、ってあの鬼兵隊のお侍さんのこと?」
_「晋助のこと?」
_「そうそう。」
_「まー、そうね。そういうことになるわね。」
で?どうかしら?と晋助に尋ねる。その答えは意外にもyesだった。
_「あ、良いって。良かったね、神威。」
零杏、無理はするなよ。と釘は刺されたが。そういえばいつぞやか、神威が晋助の名を聞いた時のエピソードを聞かせてくれたのを少し、思い出す。
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