魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第165話「ランスターの弾丸」
前書き
一応張ってあった伏線の回収。
なお、前回でようやく優勢に持って行ってます。……すぐにでも互角に持ち込まれそうな程度ですけど。
ちなみに、優輝が参戦すると同時に、結界を張っているため周囲への被害は減っています。
そうじゃなかったら戦闘場所を中心として京都や他の県に甚大な被害ががが……。
=優輝side=
―――……それは、まさに破壊の星の光だった。
「……つくづくやばいな……!」
極光が撃ち込まれ、帝が放った剣ごと守護者を飲み込んだ。
普通であればもう決着がついたと確信できるほどだろう。
……尤も、大門の守護者相手では、確信などできるはずもないが。
ドンッ!
「……いない……?」
砂塵に隠れられては厄介だと思い、軽く霊力を撃って砂塵を払う。
しかし、着弾地点に守護者はいなかった。
あるのは地面に深々と突き刺さった巨大な剣だけだ。
「―――ッ!?」
姿がない。それは、一見すれば倒し切ったと思えてしまうだろう。
だけど、違う。椿と葵の知識と経験を憑依させている今ならわかる。
そう、この状況は―――!
―――“戦技・隠れ身-真髄-”
「『司!!防御しろぉっ!!!』」
『ッ―――!!』
―――“Barrière”
それは、咄嗟の判断だった。
司に対しての指示なのも、身体強化の原因だから狙われるだろうという推測だけ。
でも、それは当たっていた。
ギィイイイイイン!!
「っぁ……!?どこから……!?」
「はぁあああっ!!」
ギギィイン!!
司が張った障壁で、不意打ちの一撃は防げた。
だが、追撃はそうはいかない。
だから、転移魔法で援護に向かった。
「ッ!」
追撃の刀を防いだ瞬間、瘴気の触手が僕を襲う。
身を捻り、跳躍を駆使してそれらを躱す。
―――“火焔旋風-真髄-”
「(目晦まし!?しまった……!)」
守護者は霊術で砂塵を起こし、再び姿を隠した。
すぐさま霊力で砂塵を払うが、やはりそこに姿はない。
「―――――」
普通に気配を探った所で見つからない。
しかし、悠長に位置を探る暇もない。
司が不意打ちを凌げたのは、狙われる確率が高かったのと、対策が出来たからだ。
次に司以外が狙われたら、まずい。
「そこだ!!」
―――“弓技・瞬矢”
椿の経験と勘を活用し、木々に向けて矢を放つ。
直後、僅かに気配の揺らめきと人影を見つけた。
「『奏!なのは!』」
即座に近くにいた二人に呼びかける。
もし僕が矢を打ち込んでいなければ、どちらか片方が狙われていたのだろう。
「っ……!」
「そこ……!」
なのはが魔力弾を、奏が直接守護者を狙う。
しかし、気づかれたとわかった守護者は、そんな二人に見向きもせずに別の場所へ向かう。
「(何がなんでも各個撃破するつもりか……!)」
司を潰せなかったから、次は近接戦で厄介な奏となのはを狙った。
片方でも潰せば僕からみても厄介な連携はなくなるからだ。
……本当に、あれは阿吽の呼吸とも言えた。父さんと母さんのコンビと同等以上だった。
「(次に向かうとすれば……!)」
思考を巡らせる。
僕は司の援護に入った時点で優先度は下がっているだろう。
蓮さんと陰陽師である黒髪の人は気配を消して隠れた事に気づいてからは二人で背中合わせになって警戒している。
あれなら不意打ちで即座に殺される事はないだろう。
……逆に、他を助ける事も出来ないが。二人も歯がゆくしているし。
「(狙うとしたら、織姫と呼ばれた式姫と……あの土御門の先祖の人か。距離的に近いのは……!)」
その二人も警戒はしている。
しかし、織姫さんの方は若干戸惑いもあるみたいだ。
そりゃあ、突然戦法を変えて、尚且つ誰が狙われるかわからない状況だからな。
蓮さんと陰陽師の人は互いに近くにいたから戸惑いが少なかったのだろう。
「(帝は空を飛んでいるから狙われる確率は低い。だったら……)」
マルチタスクを使い、一気に結論を導き出す。
同時に、転移魔法で織姫さんの所へ飛ぶ。
「『帝は武具で身を守れ!司!遠くにいる弓術士の援護を!』」
『お、おう!!』
『了解!』
帝も守護者の戦法に終始戸惑っているようだ。
……さすがに、あんな強さに加えて暗殺者も真っ青な戦法を取られたらな。
「っ!!」
ギィイイイン!!
転移直後に刃が織姫さんへと迫る。
準備しておいた魔力弾で牽制し、割り込んで刀を受け止める。
「(重い……!!)」
椿と葵の力が加わっているというのに、意味がない程の力だ。
同じ人間だったとは思えないな……!
「はぁっ!」
―――“慈愛閃光-真髄-”
「ッ……!」
織姫さんから放たれた閃光を、守護者は間一髪避け……。
―――“戦技・隠れ身-真髄-”
……再び、姿を晦ました。
「……助かったわ」
「まだです」
「……そうね」
まだまだ戦いは続いている。
織姫さんとすぐに背中合わせになり、周囲を探る。
「(一体、どうやってなのはの魔法を……)」
周囲を警戒しながら、マルチタスクでなのはの魔法を凌がれた訳を探る。
司の重力魔法に、帝の宝具、そしてなのはの魔法だ。
逃れるのも防ぐのも不可能に近いはずだが……。
「(……いや、違う)」
ふと、そこで気づく。
司の魔法は、天巫女の力で行使したとはいえ、やはり魔法でしかない。
つまり、術式は存在する。
「(詰めが甘かった……!まさか、寸での所で術式が瓦解するなんて……!)」
おそらく、守護者は最初は障壁に加えて瘴気を使って防いでいたのだろう。
その時に、帝の宝具と僕の魔法によって、重力魔法の術式が瓦解。
なのはの集束砲撃が放たれた瞬間に、重力の檻が崩壊して、避けたのだろう。
「(用意周到にしたのが、裏目に出るとは……!だけど、今は……!)」
結論が出た所で、思考を目の前に集中する。
正面からただやりあうのは分が悪いと判断したから、この戦法を守護者はとっている。
各個撃破を狙いつつ、無駄な消耗を避けて回復させているのだろう。
どうにかして止めたいが……。
「(対策は……炙り出すか、周囲の障害物を全てなくすぐらいしか……!)」
炙り出しならともかく、障害物をなくす……つまり周囲を焦土にするレベルで焼き払わないといけないのは至難の業だ。
魔力結晶はまだあるから、僕でもやろうと思えばやれる。
……だが、それをする際の“隙”を守護者は絶対に逃さないだろう。
「(それでも、やるしかないか。適任なのは……)」
気配を探っても探し出せない。
幸い、帝以外は全員二人一組になったから多少の不意打ちは対処できる。
帝も、武具だけは守護者の脅威に引けを取らないから、その武具で身を固めれば対処は間に合うはずだ。
「(司か……帝だな)」
そして、炙り出しや周囲を焦土にするのに適しているのも、この二人だ。
司はジュエルシードの力が、帝はFateの宝具が使える。
なのはでも構わないが、彼女の場合は隙が出来るからな。
それなら、タイムラグが少ない二人の方がいい。
「(でも、その懸念を守護者がしていないはずがない)」
放とうとすれば、絶対に止めに来るだろう。
隙を突いて倒すことは出来なくとも、妨害は出来るだろうからな。
「『司!帝!結界を壊さない程度に全て薙ぎ払え!辺り一帯を更地にすれば隠れようがないはずだ!』」
『っ!?優輝君!?』
「『このままではジリ貧だ!』」
今は凌げていても、このままだと絶対にやられる。
相手はあの守護者だ。二人一組程度ではまとめて倒されるだろう。
『っ……わかった!』
『帝君!?』
『炙り出すにしても、やるっきゃねぇだろ!』
『……そうだね』
よし、これで二人が辺り一帯を更地にしてくれる。
だけど、当然だがこのままでは僕ら魔導師はともかく他の人らは巻き添えを食らう。
チャンスは僅かな時間しかない、か。
「『リヒト』」
〈『既に皆さまの座標は特定済みです。いつでも可能かと』〉
「『オーケー』」
魔力結晶を取り出す。
後ろにいる織姫さんが何をするのか気にしているが、今は無視するしかない。
「ッッ……!」
マルチタスクで限界まで処理速度を上げる。
リヒトのサポートを受けてなお、負担は大きい。
当然だ。転移魔法を、遠隔で、さらに複数並行使用しているのだから。
自分だけの転移魔法ならともかく、それが遠隔で他人に、しかも複数はきつい。
それだけじゃない。転移直後のための魔法も人数分用意しているからな。
「っ、これが魔法ね……」
〈転移魔法と浮遊魔法。なるほど、“アレら”を回避するためだね〉
自分も含めて全員を上空に転移させる。
同時に、皆に浮遊魔法をかける。
こうしないと魔導師以外は落ちてしまうからな。
……それにしても、陰陽師の人はデバイスを持っていたのか。
「全員で固まっていた方がいいからな。幸い、向こうが身を隠しているおかげで隙があった」
〈短時間でこの人数を、しかも遠隔で転移させ、さらには直後の浮遊魔法も準備。……君、相当な負荷がかかっているんじゃないかい?〉
「そうなの!?」
彼女の持つデバイスに指摘され、司が驚いたように声を上げる。
奏となのはも同じように驚いて僕を見ていた。
「……このくらい、憑依の恩恵で何とかなる。それより、司、帝!早く!」
「う、うん!」
「よし……!」
転移した事で若干遅れたけど、すぐさま二人は行動を起こす。
司はジュエルシードを用いた天巫女の魔法を。
帝はデバイスを同じ名前の最強の宝具を。
……と言っても、帝は飽くまで元ネタから取った“特典”というだけだがな。
「させない!!」
「はぁっ!」
―――“刀奥義・一閃”
ギィイイイン!!
妨害として飛んできた矢を、僕と蓮さんで弾く。
非常に強力な矢だったけど、逸らすぐらいなら何とかなった。
「光よ、闇を祓え!!」
「唸れ、エア!!」
―――“Sacré clarte”
放たれる極光に、纏わりつくように帝から力の奔流が放たれる。
あの武器から放たれる力は、本来なら世界を裂く……つまり僕が張っている結界程度だったらいとも容易く破られてしまう程だ。
それを、敢えて破らないようにしつつ、司の砲撃に合わせた。
―――“弓技・朱雀落-真髄-”
―――“紅焔-真髄-”
―――“海嘯-真髄-”
「っ……!」
「守り切れ!」
―――“扇技・護法障壁”
―――“Fortissimo”
―――“Hyperion Smasher”
―――“慈愛閃光”
―――“剣技・烈風刃-真髄-”
―――“刀奥義・一閃-真髄-”
―――導王流弐ノ型“霊魔穿撃”
一筋の矢と、二つの霊術に対し司と帝以外で対処する。
さすがにここまでやれば普通に打ち消せたが、それでも強力なのが分かった。
「見つけた……!」
司と帝が撃ち終わった直後に砂塵を吹き飛ばすように御札を地面に投げつける。
すると、いくら気配を絶っていても見つける事が出来た。
「転移!」
全員を纏めて地上に転移する。
二人の砲撃のおかげで大きなクレーターが出来て、木々はなくなっていた。
障害物がなければ、何とかなるだろう。
「(でも、障害物がなくなったという事は、空を飛べない人達は不利になる。守護者も同条件だけど、あんな規格外だったらあまり意味はないだろう)」
そう。木々があったからこそ躱せる攻撃もある。
僕ら魔導師は空が飛べるから大丈夫だが、他の人たちはそうはいかない。
木々がない分回避も難しくなるだろう。
「(それに、守護者も色々対策を施し……て………)」
そこまで考えて、血の気が引く。
あの時、守護者は攻撃に消極的だった。
暗殺的な戦法をしていただけといえばそれだけだが、もう一つ理由は考えられる。
守護者は、霊術による身体強化が可能だ。
そして、身を隠しつつ僕らをずっと警戒させ続けた。
これが、意味する事は……!
―――“速鳥-真髄-”
―――“扇技・神速-真髄-”
―――“斧技・瞬歩-真髄-”
―――“斧技・鬼神-真髄-”
―――“剛力神輿-真髄-”
「ッ―――!?」
それは、既に見たことのある霊術だった。
驚愕したのは、その霊術の“質”。
時間をかけた分、今までの同じ霊術よりも、明らかに効果が上に見えた。
「くっ……!」
そう思ったのも、一瞬遅かった。
ある程度距離は離れていたはずだ。
それが一瞬で詰められ、土御門の人……澄姫さんに狙いを定めていた。
「(そうか!さっき、身体強化の霊術を霧散させていた!だから優先的に……!)」
答えに辿り着くも、このままでは間に合わない。
せめて自力で致命傷は避けてほしいと思いつつ、援護のために駆ける。
「っ、ぁああっ!?」
バチィイッ!!
せめて守護者の身体強化を解除しようとしたのだろう。
しかし、それはカウンターの如く放たれた霊力の放出によって防がれてしまう。
それどころか、その放出で澄姫さんは吹き飛ばされ、遠くの地面を転がった。
「(一撃……!?)」
確かに、身体強化を打ち消す支援は厄介だし、所謂バフのような霊術を多用するというのなら、一番最初に潰すべきだろう。
だとしても、まさか防御ついでの一撃で戦闘不能になるとは思わなかった。
「織姫さん!」
「っ、ええ!」
織姫さんに呼びかけ、治療を任せる。
その間の時間稼ぎは……。
「はっ!!」
「シッ……!」
―――“Delay-Dectet-”
「ッ……!」
―――御神流奥義之歩法“神速”
「はぁっ!!」
蓮さん、奏、なのは、僕が近接戦で行う。
司、帝もすぐに援護のために空に飛びつつ魔力弾を放ち、陰陽師の人も澄姫さんの分をフォローするように距離を取って弓矢と霊術で援護してきた。
ギギギィイン!!
「ッ……!?」
「くぅっ……!?」
だが、援護は全て躱され、そこをついて攻撃したのにも関わらず、全員がその力に押されて後退してしまった。
「まだ……!」
ギィイン!!
導王流をフル活用し、守護者の攻撃を受け流す。
しかし、あまりにも早い。速すぎる。
その上攻撃も重く、受け流しても腕が痺れてダメージを受ける。
「(常に重心を、体を動かし続けろ。決して“芯”を捉えられるな)」
導王流において基本にして最重要な事だ。
体の芯を捉えた攻撃でさえなければ、理論上導王流は全ての攻撃を受け流せる。
この場において僕だけ後退を防げたのもこれのおかげだ。
ギギィイン!!
「ぐぅぅ……!」
……でも、だからと言って何とかなる訳ではない。
後退を防いだ。……言い換えれば、そこまでだった。
反撃に出ることもできないし、今のように連撃が繰り出されればダメージを受ける。
「(早く、鋭く、重い。こんなの、神降しをしていなければ対処できないぞ……!)」
「っ!」
「くっ……!」
体勢を立て直した皆が再度足止めに入るも、あまり意味はなかった。
何せ、僕らの攻撃を防御する合間に、霊術を織姫さんの方に放っていた。
おそらく、澄姫さんを治療させないためだろう。
「(この守護者、僕や司が転移魔法をいつでも使えるのをわかっているのか……!)」
これほどまでの速さを持つなら、そのまま直接織姫さんに攻撃できるだろう。
なのに霊術で牽制しかしないのは、僕や司が転移魔法で割り込めるからだ。
普通に追っても追いつかなくても、これなら追いつける。
そして、割り込むことで生じる時間で再び転移魔法が使える。
そうなればイタチごっこ、千日手だ。
……尤も、その上で僕や司がやられれば意味がないけどね。
「(それに、牽制だけでも危険だ)」
守護者の扱う霊術はどれも強力だ。
術式を見た限り、安定もしっかりしているから手加減もできるようだけど。
逆に言えば、それだけちゃんと制御できているということ。
それは応用もできるという証明に他ならない。
その場合、織姫さんを遠距離から仕留めることも可能なのだろう。
「っ……!!」
ギィイイイン!!
「(考える、暇もないか……!)」
僕が思考を巡らす間にも、戦いは続いている。
守護者が武器を振るう度に、誰かが吹き飛ばされる。
辛うじて防御自体はできているため、吹き飛ばされるだけだが。
キキキン!!
「ッ!」
「……ようやく、掛かった!」
―――“Sacré clarte”
もちろん、僕らも何も策を用意していない訳じゃない。
少なくとも、バインド自体は通じるんだ。例え、拘束時間が短くとも。
だから、それを利用して僕となのは、奏でバインドを設置。
帝は拘束系の宝具を利用して拘束を試みる。
同時に、司が砲撃魔法を放った。
「これ……っ!?」
―――“森羅断空斬-瘴-”
“これで”と、言葉が続かなかった。
いくら速くても回避は不可能だと思った。
事実、守護者は回避しなかった。
……代わりに、全てを切り裂く斬撃を放ったが。
「ッ……!」
―――“模倣:護法霧散”
その一撃は、まさに森羅万象全てを切り裂けるものだった。
だけど、それに驚いても僕の動きは……“これ”は止まらない。
澄姫さんの術式を解析し、模倣。一から組み立てる時間はないため、そのままコピーして魔法として放った。
パキィイイイイン!
その術式は、確かに守護者に対して発動した。
これで、あの驚異的な速さと力は打ち消せただろう。
「っ、ぐうっ!?」
だが同時に、僕は生成したレイピアの防御の上から瘴気の触手に吹き飛ばされた。
さらに、司自身は躱したものの、さっきの斬撃が結界を破壊していた。
「(まずい、更地から元の地形に……!)」
結界の外は結界内を破壊する前の状態そのままだ。
このまま、守護者に同じ手を取らせる訳にはいかない。
「行かせない……!」
「ッ……!」
―――御神流奥義之歩法“神速”
すぐさま奏となのはが足止めに入る。
同時に蓮さんと陰陽師の人も援護する。
「(今ここで決定打を!)」
攻撃を受けたダメージで体が痛む。
これだと、直接切りかかるよりも別の方法を取るべきだろう。
……その“手段”は、既にある。ずっと、残ってあった。
「(術式は……残っている。後は、足止めを……!)」
「ぉおおっ!!」
「っ!?」
ギィイイイン!!
突如、守護者の後ろから誰かが切りかかった。
鎧を着て、鬼のような角が生えているが……。
「悪路王!?」
「治癒は済んだ。吾も混ぜてもらおうか……!」
悪路王……椿たちから聞いたことがあるような……。
まぁ、陰陽師の人が驚いていたものの、味方のようだ。
それに、今ので充分な隙ができた。
「捕縛!!」
バインド、創造した鎖、椿の能力による蔦。
そして、僕の言葉に続いて皆が放つバインド。
それらによって、守護者は拘束された。
瘴気であっさり破られるだろうが、一歩遅い。
「っ……!」
僕は既に、その“銃型のデバイス”を構えているのだから。
「(使わせてもらいますよ、ティーダさん……!)」
そう。それは、今となってはティーダさんの形見とも言えるデバイス。
あの時、大門の守護者と対峙しても最期まで手放さなかった、ティーダさんのストレージデバイスだ。
「頼むぞ、“ミラージュガン”」
それがなぜここにあるのか。
それは、僕が神降しをして戦いに赴く前に―――
―――「クロノ、一つ頼みたい事が」
―――「なんだ?」
―――「ティーダさんのデバイス、僕が使っていいか?」
―――「使いどころが限られるけど、もしかすると……」
―――「……わかった。だが、壊さずにな?それは今や形見扱いなんだからな」
―――「わかってる」
……そう言って、借りてきたのだ。
「(狙うはただ一点。ティーダさんが命と引き換えに打ち込んだ箇所……!)」
いくら忘れ形見とはいえ、普通であればリヒトを使う方がいいだろう。
なのにティーダさんのデバイスを使うには訳があった。
それは、このデバイスに記録されていた映像を見た時。
ティーダさんは死を覚悟した上で、次に戦うであろう誰かのために、命と引き換えに捨て身の一撃を守護者に与えていた。
「(寸分違わず当てる。並の射撃の腕前だと成功しない。……だが!)」
その傷により、守護者の体には一つの術式が埋め込まれていた。
本来なら瘴気で術式を壊されていただろう。
しかし、自身の体を瘴気で洗い流すなど、守護者にとっては今更だった。
少なくとも、今まで僕が知る戦いで守護者は瘴気で体内の術式を破壊していない。
「(今なら……!)」
今、守護者はバインドによって拘束されている。
少なくとも、今撃てば回避はされないだろう。
他に問題があるとすれば、その弾が打ち消されないか。
回避は無理でも、反撃をしてくるのが守護者だ。
生半可な威力の攻撃では簡単に打ち消されてしまうだろう。
「(……でも、そんなのは関係ない……!)」
しかし、それがどうしたと言うのだ?
ティーダさんは、死ぬのが分かっていてなお、こうして傷を与えようとした。
勝てないと分かっても、“次”に繋げるために最期までダメージを与えようとした。
……僕だって同じだ。この力量差、覆して見せる!!
「フォイア!!」
一つの魔力弾が放たれる。
それは一直線に守護者へと迫る。
「っ……!」
だが、その瞬間。瘴気にバインドが蝕まれ、拘束が解けてしまう。
同時に、僕が魔力弾を加速させる。
速度の違いを見せる事で、回避をさらに難しくする。
これで、守護者は迎え撃ってくるはず……!
ギィイン!!
「(霊力を伴った攻撃に対する策。魔力弾を覆うようにバリアを展開する、所謂多重弾殻射撃……!いくら霊力に打ち消されやすくとも、二重構造なら通じる)」
だが、相手は大門の守護者。
それすらも上回るように、魔力弾を切り裂いて来る。
「(さらに、その二重!!)」
でも、それは想定の内だった。
先に放った魔力弾は、僕が創造魔法で模倣した魔力弾。
本命のティーダさんが遺した術式による魔力弾は、その後ろに隠れている……!
多重弾殻射撃に加え、魔力弾で魔力弾を隠す隠し弾による二段構え。
これなら、どうだ!
「ッ……!?」
ギィン!!
死角からのその魔力弾に、守護者の顔が強張ったのが見えた。
そこからの斬り返しで反応したのは確かに見事だけど、僕の誘導操作の方が早い。
外側の弾殻は削り取られたが、本命の魔力弾は届いた!
「がっ……!?」
「……“ランスターの弾丸に貫けないものなんてない”。……決して敵わないと悟った魔導師の、最期の置き土産だ」
寸分違わず、魔力弾がその箇所へと命中する。
位置としては、守護者の腹辺りだ。
そして、そこに残っていた術式が起動する。
ドンッ!
「っつ、ぁ……!」
非殺傷設定なんて一切考慮していない術式だ。
その効果は、単純に魔力が炸裂するというもの。
だが、その炸裂する位置が、ティーダさんが最期に撃ち込んだ箇所。
つまり、体内から炸裂するのだ。
これなら、例え守護者でも大ダメージだろう。
「っづ……」
……そして、そこまでやってようやく。
守護者は、その場に膝をついた。
炸裂した腹と、口から血を流し、刀を支えに倒れまいと踏ん張っている。
そこを、僕らは容赦なくバインドで拘束する。
―――ようやく決着だと、誰もが思った。
後書き
戦技・隠れ身…自身に対する敵視を大幅に減らす。本編では、気配を周囲と同化させる事で身を隠す。暗殺にもってこいなスキル。
海嘯…水属性の単体攻撃。使用回数で最大五回攻撃になる。渦潮のように相手を巻き込み、攻撃する。
霊魔穿撃…霊力と魔力を合わせ、防御と攻撃の両方の効果を持つ衝撃波を放つ技。霊魔相乗をしていなくとも放つことは可能である。
ミラージュガン…ティーダが使っていたストレージデバイス。奇しくも後にティアナが持つデバイスと同じ“ミラージュ”が入っている。
多重弾殻射撃…アニメ三期の三話でティアナが使用している。簡単に言えば二重構造の魔力弾。本命の魔力弾そのものを通すための応用技術。
隠し弾…暗殺教室より抜粋。弾の後ろに弾を隠し、対象にとって死角を生み出す高等技術。なお、誘導操作が出来る魔力弾の場合、銃弾よりも比較的簡単に行える。
優輝、何気に鈴の名前を知らないために地の文ではずっと“陰陽師の人”呼ばわりです。
隠し弾は暗殺教室でしか見たことがない言葉ですけど実際にあるんですかね……?
ps.どうやってなのはのSLBを凌いだか一切描写されていなかったので追記。
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