真田十勇士
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巻ノ百四十三 それぞれの行く先その三
「幼い子を殺すのはな」
「出来る限りですな」
「したくない」
「それもまた血生臭いですな」
「だからじゃ」
それ故にというのだ。
「右大臣殿の子もじゃ」
「殺しませぬか」
「どのみち逃げるであろう、ではな」
「見逃すのですな」
「薩摩まで行かせてやれ」
こう言うのだった。
「そこで余生を送らせてやるのじゃ」
「右大臣殿共々」
「そうしてやれ、わかったな」
「はい、では父上に約束します」
秀忠は家康以上に律儀な男だ、その律儀さをここで出した。あえて自ら約束すると言ってみせたのだ。
「それがしも右大臣殿は殺しませぬ」
「その様にな」
「しかもそれがしにとっても娘婿」
「己の娘婿を殺してはな」
「やはり天下人としては」
例え公にそうなってもというのだ。
「実際にそうしては」
「そうじゃ、何も力もなくなればな」
「見逃すということですな」
「その配慮もせよ、天下に奸悪を為している訳でもない」
秀頼、彼がだ。
「ならよいのじゃ」
「奸悪の輩ならばですな」
「どういった者でも誅せねばならぬ」
家康は秀忠にこの話もした。
「それが我が子でもな」
「それも天下人の務めですな」
「今異朝は大層乱れておるというな」
明、おの王朝はというのだ。
「あちらの帝はどうにもならぬらしい」
「何でも政をなおざりにし後宮に耽り」
「二十年も朝議に出ずに己の贅沢に耽っているという」
「周りに妙な者達もいて」
「宦官がな、本朝にはおらんが」
日本にはこの去勢された者達はいない、異朝のものを色々取り入れてきたがこれは取り入れなかったのだ。
「その者達がその暗愚な帝の周り多くいるが」
「今の異朝の帝や宦官の様な者達は」
「己の子でも誅するべきじゃが」
天下人としてというのだ。
「しかしな」
「そうでないならば」
「それはしない」
断じてというのだ。
「例え敵であってもな」
「では」
「うむ、右大臣殿はその様にな」
「その子も含めて」
「死んだ様にせよ、あと真田じゃが」
家康は幸村のことも話した。
「偽の首であったがな」
「それでもですか」
「死んだと天下に知らせるのじゃ」
秀忠にこうも言うのだった。
「その様にな」
「真田は死にましたか」
「そうじゃ」
そういうことにするというのだ。
「よいな」
「しかしそれでは」
「後はわしに任せよ」
「真田のことは」
「あと後藤又兵衛もじゃ」
彼もというのだ。
「おそらくまだ生きておるが」
「あの者についても」
「死んだということにしておく」
「そしてですな」
「あの者達との決着をつける」
家康自身がというのだ。
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