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タールート王

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第二章

「そうなっていないか」
「それは仕方ないのでは」
「仕方ないというのか」
「はい、次の王でしかもあれだけの人物です」
 王妃は難しい顔になっている夫である王に言った、かつては整っていた顔も今は顔の皺が多く深くなっていてしかも髭には白いものも混ざっている。
「ですから」
「あの者ばかりが見られてか」
「注目されることもです」
「当然なのか」
「ですから」
「私があれこれ思ってもか」
「仕方ないことかと」
 こう夫に言うのだった、だが。
 当のタールートはダーウードばかり人の目が集まっていることに妬ましいものを感じていた。それで彼を疎ましく思いはじめていた。
 それである日だ、彼はダーウードに言った。
「そなたにやって欲しいことがある」
「といいますと」
「近頃東に恐ろしい者達がいる」
「確かあのジャールートよりも大きな巨人達がいますね」
「そうだ、あの者達がこのユダヤに迫る前にだ」
 まさにその前にというのだ。
「全員倒してもらいたいのだ」
「そうしてユダヤの憂いを取り除く」
「そうしてもらいたいがいいか」
 こう言うのだった。
「そなたの手によってな」
「わかりました、ではすぐに出陣します」
 ダーウードはタールートにすぐに答えた。
「そしてそのうえで」
「巨人達を皆倒してくるか」
「そうしてきます」
「よく言った、しかしだ」
 内心の悪意を隠してだった、タールートは出陣するダーウードにこう言ったのだった。
「そなた一人で行って欲しい」
「私一人ですか」
「そうだ、今北も南も敵がいる」
 それでというのだ。
「彼等への備えに軍は置いておきたい」
「それで、ですか」
「そなた一人で行って欲しい。ただしだ」 
 王はこうも言った。
「危うくなれば逃げ帰っていいからな」
「巨人達からですか」
「そうしていいからな」
 流石に死ぬと良心が咎める、それで生きていて欲しいとも思ってこう言ったのだ。
「別にな」
「いえ、必ずです」
「巨人達を倒してくるか」
「約束します」
 是非にと言うのだった。
「王に対して」
「そう言うか、しかし言っておこう」 
 悪意と良心が複雑に混ざる中でだ、タールートはダーウードに語った。
「そなたは無理をすることはないのだ、一人で行くのだからな」
「それでなのですか」
「逃げてもよいのだ」
 逃げればそれだけダーウードの名声が落ちる、そうすれば王である自分がまた注目される。こう考えての言葉だった。
「わかったな」
「いえ、必ずです」
 それでも言うダーウードだった。
「私は巨人達を倒してきましょう、彼等の首を全て持って来ます」
「首をか」
「はい、倒した証として」
 まさにそれでというのだ。
「王の前に持って参上します」
「それがそなたの約束か」
「アッラーの僕として約束は必ず果たします」
 こう言ってだった、ダーウードはたった一人で出陣した。誰もがその出陣に流石に今度ばかりはと思った。 
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