タールート王
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第一章
タールート王
ユダヤの王タールートはこの時国の次の王になることになる娘である王女の婿を探していた。当時ユダヤには名だたる勇者と賢者が揃っていた。
だがその勇者そして賢者の誰もがサウルに娘の婿つまり次の王になるかと言われると恐縮して言うのだった。
「いえいえ、私はとても」
「私なぞでは及びません」
「私以上に相応しい者がいます」
「あの者しかいないかと」
「私もそう思います」
「私なぞがどうして彼を差し置いて」
こう言って引き下がってある者を推挙するのだった、その推挙する者はダーウードといったタールートも彼のことは知っていた。
見事な長身と逞しい身体つきに彫のある整った顔に巻き毛の髪の毛がよく似合っている。聡明なだけでなくとてつもない怪力を持っていて。
どの様な鐵も油の様に柔らかくして曲げてみせた、そのうえで鉄で服に見えるものを造ってタールートに見せて言ったのだ。
「鎧というものを造りました」
「鉄で造った服か」
「そうなります、鐵で身体を守っているので」
それでというのだ。
「矢も刀も防ぎます」
「そうなのか、それを着て戦場で戦えばな」
「我がユダヤの兵達はこれまで以上に戦えます」
「傷を受けることがないからな」
「では王よ、これからは」
「その鎧を造ってだ」
タールートはすぐに決めた、そのうえでダーウードに答えた。
「兵達に着せて戦の場に出よう」
「わかりました」
「しかしだ」
ここでこうも言ったタールートだった。
「そなたの力だから鉄を曲げることも出来るが」
「鍛冶職人でないとですね」
「鉄をどうにか出来ない、だからな」
「そのことはもう承知しています、職人達にです」
「鎧の造り方を教えるか」
「そう致します」
こう言って実際にだった、ダーウードは鍛冶職人達に鎧の造り方を教えた。そうしてユダヤの兵士達は鎧を着て戦う様になりさらに強くなった。
彼自身戦場に出て巨人ジャールートを倒した、このことでユダヤの軍はさらに進むことが出来た。しかも彼の声は類稀なまでの美声で。
彼がアッラーを讃える歌を歌うとだった。
「またあの者の歌を聴いてだな」
「鳥達が寄っています」
「ダーウードのところに」
「そうなってきています」
「そうだな、あの者の声は美しい」
タールートも玉座で聴き惚れて言うのだった。
「これ以上はないまでにな」
「全くです」
「あの者の歌の美しいこと」
「あそこまで美しい声はないです」
「見事なものです」
「強く聡明なだけなく歌もよいとはな」
タールートも頷くことだった、そしてだった。
彼はユダヤの全ての勇者と賢者が彼こそがということもありダーウードを王女の婿つまりユダヤの次の王とした、すると。
ダーウードは国の政においてその聡明さと学識を使ってそうしてだった。ユダヤを一層栄えさせた。だがその様子を玉座で見てだ。
タールートは自分の妻である王妃に二人だけになった時に囁いた。
「皆ダーウードを見ているな」
「はい、あまりにも見事なので」
「そうだな、しかしだ」
「しかし?」
「私についてはどうだ」
怪訝な顔になってそのうえで自分に問うた。
「王である私のことは」
「貴方のことは」
「そうだ、私は王なのだぞ」
つまりユダヤの主だというのだ。
「その私を忘れていないか」
「ユダヤの民達は」
「そうなのではないのか」
こう言うのだった。
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