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202部分:第十五話 抱いた疑惑その六


第十五話 抱いた疑惑その六

「それは」
「レディーファースト」
 椎名は言った。
「それ」
「レディーファースト?」
「特につきぴーみたいな娘には」
 そうするというのである。
「だから」
「それでなの」
「そう。レディーファースト」
 椎名はまたこの言葉を述べてみせた。
「それ」
「有り難う」
「お礼はいい」
 それはいいとした。ここでもだった。
「それに私達友達じゃない」
「友達でもそれでも」
「つきぴーは謙遜し過ぎる。それもよくない」
 また言う椎名だった。
「もっとおおらかに構えていい。そっちの方がいい」
「けれど」
「できなくてもいいけれど意識しておくといい」
 そうだというのだった。
「このことは」
「おおらかになの」
「優しくおおらかに」
 こうも話した。
「もっともつきぴーは元々優しいけれど」
「有り難う」
「その優しさはあいつにも絶対に伝わる」
 それはだというのだった。
「だから安心していい」
「絶対なのね」
「そう、絶対」
 断言であった。
「あいつはそういうのは絶対に伝わるしわかるから」
「そう。じゃあこれからも」
「動かなくていいから頑張る」
 動かないということは念押しだった。
「そういうことで」
「うん、じゃあ」
 こんな話をしたのだった。そうしてだった。
 陽太郎は陽太郎でだ。二学期になってクラスでまた狭山達とあれこれ話していたのであった。その内容は最初はとりとめもないものだった。
「それで御前等この夏は」
「ああ、いつも通りだよ」
「本当にね」
 二人はこう陽太郎の問いに答える。赤瀬も交えて陽太郎の席の周りに集まっている。そのうえで話をしているのである。
「別にな」
「本当にこれまでの夏も同じよ」
「同じっていうと?」
「だからよ。何かだべっててな」
「図書館とか喫茶店で」
 場所だけは様々らしい。
「お互いの家で宿題したりゲームしてな」
「それだけよ」
「おい、お互いの家に行ってたのかよ」
 陽太郎はそのことに驚いて問うた。
「それって凄いんじゃないのか?」
「幼稚園の頃からだけれどな」
「それがどうかしたの?」
 二人は全く自覚していなかった。そう、全くである」
「親も普通に入れるしな」
「家族みたいなものよ」
「何か全然緊張ないんだな」
 陽太郎はそこまで聞いて少しがっかりとした。少なくとも期待したものを聞けなくて残念に思っている自分に気付いたのである。
「そんなものか」
「そうだよ、何せ幼稚園の頃からずっと一緒なんだぜ」
「もうね」
「キスとかはないか」
「何だそりゃ」
「食べられるの?」
 返答はこんなものだった。
「そんなのねえよ」
「私達の間にはね」
 こう答えが返ってきた。
 
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