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真田十勇士

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巻ノ百四十二 幸村の首その六

「しかしな」
「それでもですな」
「今の攻めはですな」
「独断であっても」
「それでもですな」
「よい、昨日のことは許そう」 
 家康は笑って笑みをこう言った、そしてだった。
 家康はそのままだ、忠直に攻めさせた。そしてその次の報も入った。それは彼の攻めに加わった以上のことだった。
 忠直の率いる越前兵達が家康の前に参上して一つの首を持って来た、服部はその首を見てその眉をぴくりと動かした。
 だが彼はすぐにその眉を戻した、それで何も言わなかったが。
 越前の者達が強い声でだ、家康に言った。
「大御所様、真田殿の首を持ってきました」
「今ここに」
「真田源次郎殿今ここに」
「持って来ました」
「まことか?」
 家康は越前の者達の言葉に思わず聞き返した。
 そしてその己の前に出された首を見てだ、周りの者達に問うた。
「この首間違いないか、わしはあの者の顔はよく知らぬ」
「これは」
 幸村をよく見てきた幕臣がいた、その幕臣がその首を間近でまじまじと見てからそのうえで家康に述べた。
「真田殿です」
「間違いないか」
「はい」
 そうだと言うのだった。
「これは」
「そうか、ではな」
「はい、真田殿をです」
「我が孫の者が打ち取ったか」
「そうなりまする」
「そうか、ではあ奴には褒美をやろう」
 家康は笑みを浮かべてだ、その忠直に後で天下の茶器初花をやることにした。そうしてであった。
 軍勢をさらに攻めさせた、そうしていってだった。
 大坂方の軍勢をさらに攻めてこの日の戦は勝ちで終わった、だが。
 軍議で諸大名に明日城攻めをすると命じた後でだ、服部に言われた。
「大御所様、真田殿ですが」
「あの首はか」
「はい、おそらくですが」
「偽物か」
「影武者かと」
 こう言うのだった。
「どうやら」
「そうか、ではか」
「真田殿はです」
「死んではおらぬか」
「そうかと、どうも戦の場でですが」
 服部は家康にさらに話した。
「真田殿は七人おられたとか」
「七人とか」
「これは七耀の術を使われたかと」
「それはどういった術じゃ」
「不動明王の奥義の一つでして」
 こう前置きしてだ、服部は家康に話した。夜の本陣の奥には今は二人だけである。それで服部も話スのだ。
「それを極めると分け身の術も使える様になり」
「身体が七つにか」
「分かれてです」
 そうしてというのだ。
「一度に七つの場所で考え動くことが出来ます、しかしご本人は一人」
「後の六人は分け身か」
「そうした術です、しかしまさか不動明王の奥義を窮めるとは」
「そうした者がおるとはか」
「流石におらぬと思っていました」
「そこまでの奥義であったか」
「はい、しかし真田殿はその奥義を使われ」
 そしてというのだ。
「今日は戦われていたのでしょう」
「道理で恐ろしい戦ぶりであった」
「そうですな、まことに」
「そしてまだか」
「生きておられるかと、ですから明日は」
「城攻めになるが」
「真田殿が城におられれば」
 その時はというのだ。
「非常に厳しい戦いになると、しかし」
「明日あの者は城にはおらぬか」
「おそらく右大臣殿をお救いする為に動かれるかと」
 戦ではなくそちらにというのだ。 
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