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176部分:第十三話 家へその十


第十三話 家へその十

「そうだったんだ」
「お姉ちゃんからいつも聞いてます」
 また純朴にばらす心美だった。
「斉宮さんのことは」
「それでなんだ」
「毎日言ってますよ」
 にこりと笑ったうえでだ。聞かれていないことまで話してみせた。
「にこにことして」
「ちょっと心美」
 言われている月美は弱り果てた顔になっていた。その顔で溜息をつきながら言うのであった。
「あのね」
「あのね?」
「お部屋に戻って」
 言うのはこのことだった。
「もうね」
「お部屋に?」
「もういいから」
 多くは言わなかった。そしてそれは正解だった。
「帰って。漫画読むなりお勉強するなりしていて」
「じゃあお勉強するね」
 心美が選んだのはそちらだった。
「とりあえず宿題終わらせて予習しておくから」
「そうしておいて。それじゃあね」
「うん。じゃあ斉宮さん」
 陽太郎にも笑顔で話す。
「また宜しく御願いします」
「うん、それじゃあ」
 別れの挨拶は礼儀正しくであった。心美はぺこりと頭を下げてそのうえで部屋を退出した。陽太郎はここで壁にある時計を見た。するとであった。
「あっ、もういい時間だね」
「五時ですね」
「これで帰らせてもらうよ」
 こう月美に話した。
「これでね」
「御夕食は」
「ああ、気を使わなくていいよ」
 笑ってそれはいいとした。
「別にさ。そこまではね」
「そうですか」
「うん、だからこれでね」
 また言うのであった。
「帰らせてもらうよ」
「わかりました。それじゃあ」
「月美、どうしたの?」
 いいタイミングで真奈美の声が奥からしてきた。
「何かあったの?」
「斉宮君が帰るの」
 こう母に答えたのだった。
「これで」
「帰られるのね」
「送っていっていい?」
「そうしなさい」
 こうしたやり取りが陽太郎にも聞こえる。
「是非ね」
「わかったわ。それじゃあ」
 こう扉に顔を出してやり取りをしてからだ。そのうえでまた陽太郎のところに戻って話をするのだった。その顔は少し寂しそうではあった。
「今からですよね」
「うん、長居したら悪いしね」
「そんなの気にしなくていいんですよ」
 陽太郎にこんなことも言ってきた。
「別に」
「そういう訳にはいかないよ」
 陽太郎は図々しい人間ではなかった。だからこう言ったのだ。
「それはさ」
「そうですか」
「だからこれでね」
 陽太郎が笑顔でこう話した。
 
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