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真田十勇士

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巻ノ百四十一 槍が折れその二

 攻撃が放たれたその場所がまるで無数の大砲に撃たれた様に吹き飛んだ。そこに幸村の軍勢が一斉にだった。
 幸村を先頭に雪崩れ込む、幸村は二本の槍を振るいつつ黄色い具足と陣笠の徳川の足軽達を薙ぎ倒しつつ言った。
「大御所殿、今よりそこに参る!」
「真田殿か!」
「まさかご自身が来られるとは!」
 騎馬武者、幕府の腕に自身のある旗本達が愛馬と共に幸村の前に来た。
「その心意気お見事!」
「まさに天下の豪傑!」
「しかしここは通す訳にはいかぬ」
「我等が相手を務める!」
 こう言ってそしてだった、幸村に向かうが。
 幸村は二本の槍を彼等にも振るった、そうして幕府の腕自慢の旗本達も倒していき敵の軍勢をさらにだった。
 攻め立てた、守りを突破された幕府の軍勢にその幸村を止めることは出来なかった。
 彼等は次々と倒された、そこに十勇士達と赤備えに六文銭の兵達の攻めを受けてだった。
 幕府の軍勢は崩れた、これには家康も驚いた。
「何と、わし自ら率いる幾万の軍勢がか」
「守りを破られました」
「そしてさらに攻められ」
「そのうえで、です」
「こちらに迫られています」
「この様なことは三方ヶ原以来じゃ」
 家康は驚きを隠せないまま言った。
「この様なことは、しかし」
「相手は赤備え」
「武田のそれですな」
「真田家も武田家の家臣」
「そして赤備えを継いでおりまする」
「そうじゃ、赤備えにじゃ」
 まさにと言う家康だった。
「またしてやられるか」
「大御所様、ここはです」
 大久保が家康に言った。
「我等が食い止めまする」
「そうしてくれるか」
「決して本陣には寄せませぬ」
 家康がいるこの場所にはというのだ。
「ご安心下され、ですが」
「それでもじゃな」
「若しもの時は」
 その時のこともだ、大久保は家康に決死の顔で話した。
「お逃げ下され」
「この場からか」
「はい、そうされて下され」
 こう言うのだった。
「そして何とかです」
「生きてか」
「大御所様さえ生きておられれば」 
 例えこの本陣まで幸村が来ようとも、というのだ。
「我等は勝ちです」
「そうじゃな、わしが討たれるとな」
「それで戦は負けです」
 幕府のそれになるというのだ。
「最早、しかし」
「それでもじゃな」
「大御所様が生きておられれば」
「幕府の勝ちじゃな」
「後は真田めを討ち取り」
 そうしてというのだ。
「この難を逃れられます」
「だからじゃな」
「ここはです」
 まさにというのだ。
「いざとなれば」
「逃げてじゃな」
「生きられて下され」
「天下人が敵に背を向けるのは名折れ」
 その名声そして面子に傷が付く、家康はこれが幕府の威信に大きく関わることがわかっていた。だがそれでもだった。
 今自分が死んでは幕府が危うい、この戦にも敗れる。そのこともわかっているからこそだった。家康は大久保の言葉に応えた。 
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