真田十勇士
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巻ノ百四十一 槍が折れその一
巻ノ百四十一 槍が折れ
家康はその数と鉄砲に弓矢、そして槍で以て幸村と彼の軍勢と止めようとしていた、それは真田の軍勢も見ていた。
それでだ、幸村の傍にいた筧が言ってきた。
「殿、大御所殿の軍勢ですが」
「見事なものじゃな」
幸村も駆けつつ筧に応えた。
「その守りは」
「鉄砲に弓矢、槍にと」
「我等を寄せ付けぬな」
「しかもその数たるや」
今度は伊佐が言ってきた。
「我等を圧倒しております」
「普通に攻めては押し返されまする」
海野は眉を顰めさせ幸村に話した。
「間違いなく」
「ここはどうされますか」
穴山も駆けている、その手には今も鉄砲がある。
「一体」
「若し攻められるならば」
清海は楽しそうに己の得物を振ってみせつつ言った。
「この時こそですな」
「攻める」
幸村の返事はこの一言だった。
「ここまで来て退くことはないであろう」
「ですな、確かに」
霧隠は幸村のその返事に笑みで応えた。
「これまでこの時を待っていました」
「ではですな」
根津も刀を手にしている、その刃は今も白銀に輝いている。
「これより我等一丸となり」
「敵陣に攻め込みますな」
望月も拳を振るわんとしている、戦うその意図は明らかだ。
「今より」
「ではこれより」
由利も笑う、敵の大軍を目の前にして。
「攻め込みましょうぞ」
「我等の力の全てを使いますぞ」
猿飛はそのつもりだった、今こそ己の全身全霊を使い戦うと決めていた。
「そしてあの堅固な守りを突き崩します」
「このまま普通に攻めてもじゃ」
幸村は十勇士達全員に話した。
「あの鉄砲と弓矢と槍の数じゃ」
「だからですな」
「我等の数では退けられますな」
「そうなってしまいますな」
「間違いなく」
「ここはお主達とじゃ」
それにだった。
「拙者の力でな」
「十一人の力で」
「それで攻めて」
「まずは敵のあの守りを突き崩す」
「そうしますな」
「そしてじゃ」
幸村はさらに言った。
「それからじゃ」
「大御所殿を」
「あの方の御首を挙げましょうぞ」
「あの大軍を突き破り」
「そうして」
「そうじゃ、そうする」
こう言ってだ、そしてだった。
「これよりな」
「わかり申した」
「では」
「再び術を使いまする」
「そしてそのうえで」
「斬り込みまする」
家康の陣にとだ、こう言ってだった。
幸村は己の軍勢を勢いを殺すことなく突き進ませた、今まさに家康自身が率いる軍勢が鉄砲と弓矢を構え。
槍衾に守られたうえで一斉に攻撃を仕掛けようとした、まさにその瞬間にだった。
十勇士達は己の術、渾身のそれを放った。水に鉄砲、風に岩それに木の葉と毒の霧、炎に雷にとあらゆるものが一点に放たれた。
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