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真田十勇士

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巻ノ百四十 槍に生きその七

「死にたい者だけわしのところに来るがよい!」
「抜かせ!撃て!」
「鉄砲を撃て!」
「弓矢を放て!」
 敵は飛び道具で由利を倒そうとする、だが。
 その鉄砲の弾も矢もだった。由利は鎖鎌を振って起こす風で寄せ付けない。これでは彼等も打つ手はなかった。
「鉄砲も弓矢も返すか」
「何という男じゃ」
「噂以上じゃ」
「先の戦でも強かったが」
「今はそれ以上じゃ」
「恐ろしい強さじゃ」
「わしを倒そうと思っても簡単ではないぞ」
 由利自身も彼等に言う。
「倒したければ何千もの兵を持って来るがいい」
「この男一人でか」
「その様なことが出来るものか」
 敵は彼にも困っていた、由利もまた荒れ狂っていた。
 根津が動くとだ、光が飛ぶが如くに。
 抜かれた刃が煌めきその後には切り捨てられた兵達の骸が転がっているばかりだった。その有様を見て幕府の者達も唖然となった。
「何時動いた」
「何時切ったのじゃ」
「わからぬ、具足も何もかもを切るとは」
「蕪とさえも」
 見れば兜を叩き割られこと切れている者も多かった。
「あれが根津の剣術か」
「あの様な剣術は見たことがない」
「具足も兜も断ち切るとは」
「どうしたらあそこまで出来るのじゃ」
「剣の術を極めたまでのこと」
 また数人切り捨てた根津が彼等に話す。
「そうすればこそ」
「そこまで出来るか」
「具足も兜も断ち切れるか」
「そうした光の様に動き切り捨てていくか」
「幾人も」
「この秘術はまだはじまったばかり」
 何もかも断ち切るそれはというのだ。
「まだまだお見せしようぞ」
「いかん、このままではやられるばかり」
「ここは下がるしかない」
「この者には」
 とてもだった、彼等にしてもだった。
 下がるしかなかった、それは筧に対してもだった。
 筧が両手で印を結ぶと暗雲が起こった、そうして。
 無数の雷が落ち炎が起こり氷の柱が乱れ飛ぶ、地響きが起こりそうしたもので彼の周りにいる幕府の兵達がだった。
 為す術もなく倒される、これはどうにもならなかった。
「ど、どういう術じゃ!」
「落雷に炎に氷とな」
「そして地響きまでとは」
「これは幻術ではないぞ」
「妖術の類じゃ」
「只の妖術ではありませぬ」
 筧は驚く彼等に言った。
「果心居士殿に授けられた術であります」
「あの妖術師に」
「授けられたというのか」
「そしてその術でか」
「戦うというのか」
「左様、この術を破られるのなら破られよ」
 絶対の自信を以ての言葉だった。
「拙者を倒せるものなら」
「おのれ、言わせておけば」
「だがこの男は強い」
「流石は十勇士」
「そして果心居士殿に授かった術だけはある」
 筧についてもどうにもならなかった、彼もまた戦場で鬼となっていた。
 清海の錫杖が荒れ狂う、土の術で岩を浮かばせて投げ飛ばしつつその錫杖でも多くの敵兵を倒していた。
 錫杖では一度に何人も倒す、その中で言うのだった。 
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