東方幻想探偵
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0.Jの序章/動き出す風
そこは、どこかの塔だった。そこがどこだかはわからない。
サイレンが鳴り響く中、青年二人を中折れ帽をかぶった男が迫っていた凶弾を庇い倒れた。
『おやっさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!』
そこに追い打ちをかけるが如くさらに銃弾は増してゆく。
障壁となっている階段の裏に隠れた瞬間、今まで肩を貸されていた青年はアタッシュケースを生き良い良く開く。
『悪魔と相乗りする勇気。あるかな?』
アタッシュケースの中に入っていたバックルをバックルを腰にかざしベルトを巻く。そしてUSBメモリのようなもののボタンを押す。
『Cyclone!』
「丞一さん!」
目を覚ますとそこには見慣れた少女の顔があった。
「…………おはよ。あと耳元で叫ぶな」
「揺すっても叩いてもエルボーしても起きないからじゃないですか!」
最後の起こし方は正直どうかと思うが気にちゃあいけない。彼女は東風谷早苗。俺の幼馴染で、親がいなくなってから俺が居候している守矢神社の風祝――巫女みたいなもの――だ。
「今日は京都の廃神社巡りですよ!」
蓮子さんもメリーさんもまってるんですから、と付け加え部屋から出ていった。かくいう自分も準備が済んでいないのだろう。
京都巡りと言ってもデートなんて言うそんな甘々なイベントではない。部活の一環だ。
秘封倶楽部。この世界の秘密を暴く、という所謂オカルトサークルだ。その一環で廃神社に夜でもないのに肝試しじみたことをしなきゃならんのだ。
おっと、自己紹介がまだだったな。俺は慶条丞一。私立探偵だ。
「おはよう!丞一!」
「ああ、おはよう。諏訪子」
この幼女は洩矢諏訪子。この守矢神社がまつってる神の人柱だ。目玉のついてる帽子をかぶっている。早苗の親代わりの一人だ。
「ずいぶんと眠そうじゃないか?」
「あっちについていろいろ考察してたら、な。行き方が守矢の秘術以外に分かれば秘封倶楽部としても大きな進展となる」
そしてもう一人の守矢神社の神様。八坂神奈子。いつも廻しを背負っている。
ちゃぶ台を囲んでいる二人に倣い、俺も座りトーストにかぶりついた。
「で、ありそうかい?」
「ぶっちゃけない。正攻法じゃ守矢の秘術でもない限りは無理そうだ」
いや、でもあいつなら…。
「考える暇があるなら口動かしたら?後が怖いよ」
「…………それもそうだな」
早苗の雷が飛ばないように俺も急ごう。
「急いでください丞一さん!」
「分かったからあんま走るな。あと手離して。そんな急がなくても改札は逃げたりしねーぜ?そして手離して」
「誰のせいで電車二本も逃したと思ってるんですか!」
結局あの後すべて振り切る勢いで準備したが、俺が間に合わなかった。その結果予定していた電車を二本も逃したのだ。それでもまだ五分の遅刻抑えられているのは早苗のタイムマネジメントのおかげだろう。改札を抜けロータリーへ走っていくとやはりと言ったところか、二人の女性がいた。
「すみません!蓮子さん!メリーさん!遅れました!」
「あらかじめ聞いてたから大丈夫よ早苗ちゃん。どうせまた丞一君が悪いんでしょ?」
ジト目で睨んでくる。だが、
「何も反論はない!」
スパパァン!と深緑色の「なんでやねん!」と書かれたスリッパと、「いばるな!」と書かれた守矢神社のお祓い棒が頭を叩いた。
「いつつ、すみませんねほんとに。どれくらい待ちました蓮子さん?」
「私に質問するな!」
「えぇ」
この人たちは宇佐見蓮子さんとマエリベリー・ハーンさん、通称メリーさんだ。俺らの高校の秘封倶楽部のOBの人たちで創設者だ。
マエリベリー・ハーン。通称メリーさん。後ろにいるわけではない。早苗とともに秘封倶楽部のツッコみ役だ。白と紫のツートンとナイトキャップがトレードマークだ。なぜかいつも突っ込み用のスリッパを常備してる。
もう一人は宇佐見蓮子。中折れ帽も含めたモノトーンカラーがトレードマークだ。てかこの二人は基本この色の格好をしてる。俺の親父、慶条宗一の探偵の助手をしていた。今は独り立ちしており、ある事件を片手間に追っているらしい。
「蓮子はほんの数分に来たばかりよ」
「ちょっとメリー!あんなこと言った手前かっこつかないでしょ!」
やっぱり遅刻してたか。この人が集合時間より前に来る、もとい集合時間に来ることがないからな。
「まったく、師匠が同じだと弟子の悪いところも似るんですかね?」
「まったくそうねー」
宗一さんはそんなことなかったのに、と早苗とメリーさんが呆れてそう言う。
俺も探偵としての師匠は親父だ。だが、親父は四年前にある事件を追って以来行方知らずだ。
なし崩し的に俺が親父の慶条探偵事務所を継いだ。
「まあ、ふざけるのはこれくらいにしてそろそろ行きましょう」
「ここね」
蓮子さんの車を降りしばらく歩くと廃れた無人の神社があった。まだ守矢神社の方がましだろう。何なら神社の名前が擦れていて見えないし。部首が十なのはわかるんだが、それだけだ。
「メリー。何か見える?」
「…………見えないわ。でも、境目の残り香?のようなものは感じるわ」
俺たち四人は何らかの特殊能力のようなものを持ってる。というより先輩二人はこの能力のこともあり秘封倶楽部を作った部分はあるだろう。
メリーさんの能力は『結界の境目が見える程度の能力』だ。メリーさん曰く今俺たちがいる世界の裏側とは結界で憚れているらしい。メリーさんはその境目を見ることができるのだ。
だが能力のせいで結界の中に入り込み怪物に追いかけられたという。このことに関して蓮子さん曰く『結界を操る程度の能力』に進化しているのではないかと考察していた。
「残り香、ねぇ。じゃあ、仕方ないのかしらね」
「……やけに折り合いが早いですね」
「……確かにね。でも、今は向こうにこだわっている場合じゃないのよ。今だってあいつら絡みの事件を追ってるんだから」
『Darkness』
虚空から独特のウィスパーボイスが鳴り響く。後ろを振り向くとそこには何かがいた。そう、『何か』だ。そこには形容しがたいもの、強いて無理やり表現するならば無限の闇だ。
「来ちゃったじゃない出すか。ドーパント」
『ドーパント』。ガイアメモリというUSBメモリのような物を注入することによって変化する化物だ。これが今、俺ら秘封倶楽部が追っている謎だ。まずガイアメモリがどこから流出しているかもわかってすらいないのだ。それを明かす。そしてそのために、締め上げる。
「早苗」
「メリー」
「「今のうちに逃げな(さい)」」
二人は森の方へ逃げて行った。これでいい。
「行きますよ。蓮子さん」
「ええ」
俺はL字のドライバー『ロストドライバー』を、蓮子さんはバイクのハンドル型のドライバー『アクセルドライバー』を装着する。
『Jorker!』
『Accel!』
ドライバーへメモリを差し込み、俺はスロットを倒し、蓮子さんはバイクのエンジンをふかすように右ハンドルを数回捻り最後に一回しした。
そして、俺たちはあの言葉を言う。戦うことを、命を差し出す覚悟を決めるための合言葉。
「変身!」
「変っ身!」
『Jorker!』
『Accel!』
「「さあ、」」
「お前の罪を数えろ!」
「振り切るぜ!」
「おらぁ!」
謎の闇を蹴り飛ばす。
「ハァッ!」
飛ばされたその先にいた蓮子さんのエンジンブレードに切り刻まれる。
ドーパントの能力は『周囲を闇で覆う』能力だったが、俺らは攻撃の瞬間に出る殺気だけで十分だった。それさえあれば、俺らは攻撃を察知し反撃することができる。
二対一ということもあり、やはり一方的な勝負となって行った。
「これで決めるわよ」
「もちろん」
『Jorker!Maximum Drive!』
『Accel!Maximum Drive!』
『Maximum Drive』。いわゆるところの必殺技だ。ガイアメモリの中に秘められている記憶の力を最大限に引き出し叩き込む!
「―――ライダーキック!はぁぁ、おらぁ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!りゃぁ!」
蓮子さんの空中回し蹴り『アクセルグランツァー』と俺の飛び蹴り『ライダーキック』が炸裂する。
「―――――絶望があんたのゴールよ」
俺らの後ろでドーパントが爆散する。能力によって覆われていた闇は消えて周囲が景色が元に戻った。そして体内からメモリが排出され、メモリのイニシャル部分が砕けた。これでドーパント退治の終了だ。俺たち、いや。俺ら弟子にこれを託した親父はメモリブレイクと呼んでいた。
「まったく。どっから湧いて出てるんだか」
「キリがないな」
排出されたメモリ―――――ダークネスメモリの残骸を見ながら。そうつぶやくと。蓮子さんからも同意の答えが返ってきた。
「しっかし、ずいぶんと移動したもんだ」
「まったくですよ。森の中じゃないですか」
おそらくここは、神社の境内を囲んでいた森林のどこかだろう。相手を追いかけ戦っていたらいつの間にか移動していた。
二人で溜息を吐いていると、蓮子さんの携帯から着信音が鳴る。
「どうしたのメリー?こっちはもう片づいた(ry」
『大変なの!?早苗ちゃんが消えちゃったの!?』
「早苗が消えたぁ?」
メリーさんの声のでかさと、蓮子さんの飽きれと疑問符交じりの声によって俺にも話が聞こえてきた。早苗が消えた?どういうことだ?
「迷子にでもなったんじゃないの?」
『違うのよ!?音もなく消えていたの!まるで神隠しにでもあったのかのように!』
「…………まさか、境目に飲み込まれたんじゃ」
『だから言ってるんじゃない!』
結界の境目に飲み込まれる。そんな事例は今のところ聞いたことはない。もしそんなことになっていたら探し出す手段がなくなることになる。
「わっかたわ。こっちでも探してみるわ」
蓮子さんのアイコンタクトを受け取り、早苗の携帯に電話をかける。もしかしたら、メリーさんが気付かなっかっただけで実は本当に迷子になっているだけなのかも。
そして、しばらく鳴らしていても出なかったので切ろうとしたその時だった。
「ちょっと待って、何か聞こえない?」
耳を澄ましてみると、それは
「早苗の着メロ!」
頷きあうと、音のなる方へ全力疾走で駆け出した。
しばらくして留守番電話サービスに入ってしまいまた掛け直しということをしていると再び境内に出た。そして、そして着メロの出どころの拝殿へ目を向けると、賽銭箱へもたれかかっている早苗を見つけた。
「早苗!」
俺は駆け寄ってそばに近づく。
「どう?どこかケガしてる」
「いいえ。気を失っているみたいです」
「と、いうわけよ。メリー」
後ろを振り向くとゼーハーゼーハーと普段のお淑やかさなど微塵も感じさせない肩で息をしていたメリーさんがそこにいた。
「そう。ハァ、なら、よかったわ。ハァ」
もう言葉がとぎれとぎれである。おそらく走ってきたのだろう。ロンスカでとても走るのに向いてる服装とは言えないのだが。
「てか、なんで走って逃げたのよ。私の車使えばよっかたのに」
「だったらキーを渡しなさいよ!」
確かにな。と不覚にも思ってしまった。
「…………ん、んん」
どうやら目を覚ましたようだ。二人も顔をのぞかせる。
「よっかた。目を覚ましたのね」
「早苗ちゃん!よかったぁ。心配したのよ」
目を覚ました早苗の顔には困惑の色だった。
「まったく。あまり心配かけないでくれよ早苗。諏訪子や神奈子にどやされちまう」
「ええっと、あのー」
先ほどから戸惑うような声色に俺は疑問を覚えた。いつもの早苗なら驚きはすれど戸惑いはしないからだ。
「?どうした、早苗」
「あなたたちは誰なのでしょうか」
『――――――――――は?』
きれいに全員の声が被った。
「ここはどこなんでしょうか?先ほどから早苗、早苗と私のことを呼んでらっしゃいますが私のことなんでしょうか?」
俺ら三人はしばらく呆けてしまった。
「そもそも私はいったい誰なんでしょうか?」
「…………蓮子さん。メリーさん。これって」
「メリー。もしかしたりする?あなたの専攻でしょ?心理学」
「正確には相対性心理学だけれど、ええ。もしかしたりするわ。完全にこれは記憶喪失ね」
どうやらドーパントだけでなく早苗も記憶喪失してしまったらしい。
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