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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第42話

その後演習地に戻ったリィン達はミハイル少佐達にウルスラ間道での出来事を報告した。



~デアフリンガー号・ブリーフィングルーム~



「……まさか(あか)いプレロマ草とはな……」

「間違いねぇ……2年前のあの花だぜ。色は全く違っちゃいるが……」

「……そうですね。サイズ、形状共に同じです。ディーター元大統領の権力を支えた”奇蹟の力”の依代たる”花”……やはり『上位三属性』が働いていたような気配も?」

「ええ、間違いありませんわ。」

「サザ―ラント州の森でも同じような効き方でしたが……」

「……問題となるのはこの(あか)いプレロマ草が秘めている”力”ね。」

ミハイル少佐とランディがモニターに映る緋色のプレロマ草に注目している中ティオの質問にセレーネとクルトはそれぞれ答え、レンは真剣な表情でモニターに映る緋色のプレロマ草を見つめていた。

「しかもこの”幻獣”まで……」

「”幻獣”アンスルト……旧校舎地下に、ノルド高原でも出現したっていう幻獣だね。」

「ええ、魔煌兵に続いてエレボニアの化物が出現したことになります。」

「ちなみに主任教官殿よ。2年前クロスベルに現れた”幻獣”が今のクロスベルのようにエレボニアには現れていねぇのか?」

「ああ……今の所そのような報告は受けていない。」

モニターに映る見覚えのある”幻獣”にアリサが驚いている中トワの言葉にリィンは頷き、ランドロスに訊ねられたミハイル少佐は静かな表情で頷いた。



「―――シャロン、単刀直入に聞くわ。こういったことを”結社”は人為的に起こせるのかしら?」

「あ…………」

「………………」

「そうですわね。可能性はゼロではないかと。ですが結社は基本的に超超技技術的(オーバーテクノロジー)なものを追い求める傾向にあると思います。霊的な魔獣である”幻獣”や暗黒時代の魔導の産物”魔煌兵”を利用するのは違和感がありますね。」

「そっか……ありがとう。」

「クスクス、何気にとんでもない事を口走ったわよねぇ?」

「……重大な機密情報を聞いた気がするが、まあいい。だが、それならどうして今頃、”緋いプレロマ草”などが……」

シャロンの推測を聞いたレンが小悪魔な笑みを浮かべている中疲れた表情で答えたミハイル少佐は考え込んでいた。



「ふう、それにしても”三帝国交流会”と同じ時期に重なるなんて……」

「……やはり作為を感じますわね。」

「そう言えば……」

「午後に来るというメンフィルとエレボニアのVIP達はもうクロスベル入りしたんですか?」

「あ、うん、それがね――――」

クルトの質問にトワが答えかけたその時何かの機械音が聞こえてきた。



「これは………」

「この独特な機関音……まさか!」

「そ、それに……他にも聞こえてくる独特の機関音も、まさかとは思いますが――――」

「―――全員外に出てご挨拶申し上げるとしよう。」

突如聞こえてきた機械音にリィン達が驚いている中理由がわかっていたミハイル少佐はリィン達に外に出るように促し、リィン達と共に外に出た。



~演習地~



リィン達が外に出ると生徒達やアルフィンとエリゼは既に外に出て上空を見上げており、リィン達も上空を見上げるとエレボニア皇家であるアルノール家専有の高速飛行艇――――”カレイジャス”と1年半前の”七日戦役”によってメンフィル帝国の所有戦艦となった銀色の戦艦――――”パンダグリュエル”がクロスベルに向かっていた。

「な、な、な………」

「おいおい、たまげたな……」

「紅い船に銀色の大きな船………」

「真紅の飛行船はアルノール家専有であのリベールの”白き翼”の後継機で、銀色の巨大な戦艦はエレボニアの内戦中、貴族連合軍の旗艦として使われ”七日戦役”の際メンフィル帝国軍に占領されたという……」

「ええ―――”カレイジャス号”と”パンダグリュエル号”ですね。」

上空を飛んでいる二つの飛行船にユウナが驚きのあまり口をパクパクしている中、ランディとゲルドは呆け、ティオの言葉にアルティナは静かな表情で頷いた。



「!”カレイジャス”という事はまさかエレボニアのVIPは―――――」

「ええ、エレボニア政界の代表としてレーグニッツ帝都知事……」

「クロスベル側は経済界の代表としてイリーナ会長が参加なさりますわ。」

「それに、それにね……!リーゼロッテ殿下とオリヴァルト殿下がいらっしゃるんだって……!」

「うふふ、ちなみにメンフィル側のVIPはセシリアお姉さんとサフィナお姉様、そしてエフラムお兄様とエイリークお姉様よ。」

そしてクロスベルのオルキスタワーの上空に到着したカレイジャスからは小型の飛行艇が、パンダグリュエルからは天馬騎士(ペガサスナイト)竜騎士(ドラゴンナイト)の小部隊がオルキスタワーの屋上に離陸しようとしていた。



~クロスベル~



―――ご覧ください!今、カレイジャス搭載の揚陸艇が発進し、パンダグリュエルからは”空の乙女”と”空の王者”と名高いメンフィル帝国軍の天馬騎士と竜騎士の部隊が現れました!エレボニア・メンフィルのVIP達と共にタワー屋上へと向かいます!



クロスベルではオルキスタワー屋上に現れたカレイジャスとパンダグリュエルに市民達が注目している中、クロスベルの新聞社――――”クロスベルタイムズ”の記者の一人であるグレイス・リンがアナウンサーをしていた。



~オルキスタワー・屋上~



「――――まずはカール・レーグニッツ帝都知事!エレボニア首都ヘイムダルを管理する初の平民出身の行政長官であります!」



天馬騎士と竜騎士の部隊より先に到着した小型の飛行艇からはマキアスの父――――カール・レーグニッツ知事が現れた。



「あれは――――以前クロスベルに来られたオリヴァルト皇子殿下です!」

次にエレボニア帝国軍の新たな近衛兵である”衛士隊”の兵達が出て来た後オリヴァルト皇子が飛行船から姿を現して恭しく頭を下げて飛行船の出入り口で身体を横に向けて誰かを待っているとある人物達が姿を現した。



「おおっと!あの女性はリーゼロッテ姫です!失礼しました――――その後ろはかの”灰色の騎士”に降嫁なされたアルフィン殿下の代わりに”七日戦役”と内戦で疲弊したエレボニアを支える為にユーゲント皇帝陛下のご養女としてアルノール皇家に迎えられ、”新たなエレボニアの至宝”と名高いリーゼロッテ殿下です!まさに”エレボニアの至宝”と称えられたアルフィン殿下とも並ぶ天使のような可憐さです!更には、御付きのお嬢さんも相当な可憐さで――――って、ああっとっ!?今情報が入りました!リーゼロッテ殿下のお付きのお嬢さんは何とクロスベルの皆さんもご存知の”特務支援課”にも所属し、1年半前の”七日戦役”とエレボニアの内戦を終結させ、更にはディーター・クロイス元政権による”クロスベル動乱”も”特務支援課”や”六銃士”と共に解決したエレボニア、メンフィル、そしてクロスベルの三帝国の英雄であるあの”灰色の騎士”にとって従妹に当たるリーゼアリア・クレール嬢との事です!以前”灰色の騎士”の妹君であられるエリゼ・シュバルツァー嬢も”西ゼムリア通商会議”の際リフィア殿下のお付きの専属侍女長としてクロスベルを訪れましたが、今こうして再び”灰色の騎士”と親類関係であるリーゼアリア嬢もクロスベルを訪れた事からして、これも”空の女神”による運命の悪戯かもしれません!」

最後にリーゼロッテ皇女とリーゼアリアが飛行船から出て来て上品な仕草で会釈をした後オリヴァルト皇子と共にクロスベルのVIP達の所に向かった。



「次はメンフィル帝国のVIP達の紹介に移りたいと思います!まずはサフィナ・L・マーシルン元帥閣下!1年半前のエレボニアの内戦終結に大きく貢献したメンフィル帝国軍の精鋭部隊―――”特務部隊”の一員であり、メンフィル帝国軍の竜騎士軍団の長であり、またメンフィル帝国の皇女の一人でもあり、かの”蒼黒の薔薇”と”聖竜の姫君”の二つ名で有名なメンフィル帝国の竜族の双子姉妹の義理の母君との事です!―――その隣にいる女性はセシリア・シルン将軍閣下!サフィナ元帥閣下と同じく”特務部隊”の一員であり、現メンフィル皇帝の親衛隊を率いる将軍の一人であり、また現メンフィル皇帝シルヴァン・マーシルン陛下の側妃の方でもあり、更にセシリア将軍閣下は士官時代だった頃の”灰色の騎士”の担任教官であった事から”灰色の騎士”にとって恩師に当たる人物との事です!」

竜騎士と天馬騎士の部隊が降り立つとサフィナとセシリアが前に出てそれぞれ敬礼をした後クロスベルのVIP達の所に向かった。



「あのお二人はエフラム殿下とエイリーク殿下!お二人はエレボニアの内戦時、エレボニアの領土と隣接していたメンフィル帝国の領土に加えて”七日戦役”時にメンフィル帝国軍が占領したエレボニアの領土を貴族連合軍の襲撃から守り切ったメンフィル帝国軍を指揮したメンフィル皇家の方々であり、また遊撃士でありながら”自由貴族”としてメンフィル帝国から爵位を与えられたかの”ブレイサーロード”が持つ貴族の名と同じ名である”ファラ・サウリン”の名を持つ方々との事です!しかもお二人は偶然にも双子のご姉弟であられるエレボニア皇家のセドリック、アルフィン両殿下の真逆の双子のご兄妹との事です!」

更に騎士達と共に凛々しさと勇敢さをさらけ出す青年――――エフラムは軽く手を挙げ、可憐さと優しさをさらけ出している女性―――エイリークは上品な仕草で会釈をした後クロスベルのVIP達の所へと向かった。そしてグレイスは今度はクロスベル側のVIP達についての説明を始めた。



「さあ、最後に二帝国のVIP達を送迎しているクロスベル側のVIPの方々のご紹介に移ろうかと思います!まずはイリーナ・ラインフォルト会長!クロスベルの経済産業界にとってもそうですが、エレボニアの経済産業界にとってもこれ程の重要人物はいないでしょう!次にエリィ・マクダエル一等書記官!彼女はクロスベルの皆さんもご存知の2年前のD∴G教団事件、そして1年半前のクロスベル動乱を解決したクロスベル帝国の生みの親であるあの”六銃士”達と並ぶクロスベルの英雄―――”特務支援課”の一員でした!”特務支援課”解散後彼女はクロスベル帝国政府の書記官の一人になりましたが、何と僅か半年で”一等書記官”に昇進する程の才能をクロスベル帝国政府で振るっております!また、彼女はクロスベル帝国建国を期に勇退なされたヘンリー・マクダエル元議長の孫娘でもありますから、”六銃士”と並ぶクロスベル政界の代表者は彼女を置いて右に出る者はいないと言っても過言ではないでしょう!」

グレイスに紹介されたイリーナ会長は冷静な様子で、エリィは必要以上に自分の事を持ち上げるグレイスの紹介の仕方に冷や汗をかいて苦笑した後静かな笑みを浮かべて軽く会釈をした。



「ああっと!あちらの女性はメサイア・シリオス皇女殿下!メサイア殿下はヴァイスハイト陛下とマルギレッタ皇妃陛下のご息女であり、またあの”灰色の騎士”の婚約者の一人でもあります!”灰色の騎士”と協力契約を結んでいるメサイア殿下は普段は”灰色の騎士”の側にいるとの事ですが、今回クロスベル皇女として二帝国のVIPの方々と交流する為に急遽帰国され、”三帝国交流会”に参加する事になったとの事です!そしてメサイア殿下の隣にいられる方はユーディット・ド・カイエン皇妃陛下です!ユーディット皇妃陛下は1年半前のエレボニア帝国で起こった内戦の主犯である貴族連合軍の”主宰”にして”四大名門”の”カイエン公爵家”の当主――――クロワール・ド・カイエン元公爵のご息女ですが、彼女自身は妹君と共に内戦に反対し、内戦勃発後は自らの私財を投げ打ってまで内戦による被害を受けた民達の援助をし、更にはクロスベル帝国の領土となったエレボニア帝国の貴族達の権威を守る為にクロスベルの貴族となった元エレボニア貴族達の忠誠の証として自らヴァイスハイト陛下の側妃として嫁がれた方です!また、エレボニアの社交界で”才媛”と名高かったユーディット皇妃陛下の能力を見出したヴァイスハイト陛下からも重用され、その期待に応えるかのようにユーディット皇妃陛下は様々な実績をあげ、更にはクロスベルの領土と化したエレボニアの領土の”総督”と同時に”カイエン公爵家”の当主代理を務めているまさに”才媛の中の才媛”の御令嬢であり、元エレボニア帝国の貴族でありながら新興の国家であるクロスベル帝国にこれ程貢献し続けている人物は彼女を置いて右に出る者はいないでしょう!最後にユーディット皇妃陛下の隣におられるお嬢さんはキュア・ド・カイエン嬢!名前から既に察していると思いますがキュア嬢はユーディット皇妃陛下の妹君であられ、また将来”カイエン公爵家”の当主に内定している御令嬢です!現在は帝都クロスベルに建設されたばかりの”サティア学院”の高等部に通われ、学生達のまとめ役である”生徒会長”を任せられるという姉君のように学生の身でありながらも既にその身に秘めている才能の一端を見せているとの事です!」

グレイスのアナウンスと共にカメラを向けられたメサイアとユーディット、そして学生服を身に纏っている橙色の髪の娘――――ユーディットの妹であるキュア・ド・カイエンはそれぞれ上品な仕草で軽く会釈をした。



~港湾区~



「あ、あれがリーゼロッテ皇女殿下……まさに天使じゃないか……!」

「オリヴァルト皇子様もかなりハンサムよねぇ!」

「そう?私はメンフィル帝国のエフラム皇子様の方が凛々しいから、そちらの方が素敵に見えるわよ?」

「いやいや、凛々しさで言えばサフィナ元帥も負けていないぞ!それも凛々しくありながらも、可憐さもある!まさに物語とかで出てくる理想の女性騎士じゃないか!」

「それにエイリーク皇女様もそうだけどセシリア将軍もそれぞれ可憐で、同じ女性の私達も羨むような素敵な女性よね………」

「あの女性がメサイア殿下………初めて見たけど、本当にマルギレッタ皇妃陛下のご息女なのか?確かに容姿は似ているけど、親娘というよりも姉妹のように見えないか?」

「何だ、君は知らなかったのか?メサイア殿下はお二人の養子だから直接血が繋がった親子じゃないから、マルギレッタ皇妃陛下と姉妹のように見える若すぎる親娘に見えてもおかしくないぞ?まあ、メサイア殿下があそこまでマルギレッタ皇妃陛下と似ているなんて、凄い偶然だが……」

「マクダエル市長の孫娘のお嬢さんも立派になったのう………市長も今のお嬢さんの姿を見れば、きっと誇りに思うじゃろう……」

「父さん……その言い方だとマクダエル議長が既に亡くなっているような言い方だから、マクダエル議長とお嬢さんに失礼になるぞ……マクダエル議長は今も壮健で、クロスベルに建国された学院の学院長を立派に務めておられる話をもう忘れたのか?」

「ユーディット皇妃陛下とその妹さん……二人とも元エレボニアの大貴族の御令嬢でありながら、自分達が貴族である事を理由に威張っているエレボニアの貴族達と違って、私達のような平民にも気さくに接しているって噂を聞いて本当かどうか怪しんでいたけど、実際にこうして二人の顔を見ると本当にそう思えてきたわ……」

「うわ~……!まさかリーゼロッテ殿下までいらっしゃったなんて………!マキアス君のお父さんが来るのは何とか掴めてたけど……」

「ええ―――情報収集については完全に後手に回ってしまいました。………そもそも”三帝国交流会”もそうですが今回の僕達と第Ⅱ分校の”交換留学”はあまりにも不透明な部分が多すぎます。何とか突破口を見つけて監査業務を始めないと……!」

市民達が街に設置されている巨大なモニターに映る各国のVIP達を見て騒いでいる中驚いている様子のライナーの言葉に頷いたマキアスは真剣な表情を浮かべた。



~東通り~



「にーたん。お姫様達キラキラねー。」

「た、確かに可愛いけど……」

「フン……メンフィルはともかく、エレボニアはしょせんクロスベルの敵ネ。何を考えてわざわざまたクロスベルに来たのか知らないケド、どうせ”西ゼムリア通商会議”のようにクロスベルで悪だくみをする為に来たに決まっているネ。ま、どうせ悪だくみをした所で”六銃士”やロイドさん達が何とかするに決まっているから、エレボニアの悪だくみも無駄に終わるだろうネ。」

「やっぱ半々……いや、4:6で印象悪いなぁ。」

「うん……でも、仕方ないよ。ちょっとずつでもお互いわかり合えばいいんだけど……」

「せやな……ウチも負けへんでぇ!!」

一方東通りでは時折聞こえてくるクロスベルの市民達のエレボニアのVIP達に対する厳しい意見を聞いていた商人の女性――――トールズ本校の卒業生であるベッキーと看護婦――――トールズ本校の卒業生でありヴィヴィの双子の姉でもあるリンデはそれぞれ複雑そうな表情を浮かべ

「フフ……ゲストも来たみたいね。”道化師”に”火焔魔人”、そして”彼ら”も来ている筈――――本来の配役(キャスト)は変更されて置き換わってしまい、脚本(シナリオ)も”イレギュラー”の存在で”彼ら”にとっても予想外の方向に進み続けている。どうするのかしら、リィン君―――それにエマ?」

街道の出入り口付近で様子を見守っていた黒髪の女性は怪しげな笑みを浮かべていた。



~中央通り~



「あのおっきいフネ、怖いの……」

「だ、大丈夫だよ……あの船はクロスベルと仲がいいメンフィル帝国の船なんだから……」

「それにもしエレボニアが何か悪い事をしようとしてもロイド兄ちゃんたちがいればぜってー食い止めてくれるぜ!」

「……本当なのか?アイツがその為にルーレに出張しているってのは?」

「うん………間違いないみたい。」

子供達が不安がっている中ある人物の知人達はある人物について話し合っていた。

「………………」

「ふみゃあ……」

一方その様子を”インフィニティ”の屋上で見守っていた仮面の男は黙っていたが、自分を警戒している黒猫――――”インフィニティ”どころか”特務支援課”の分室になる前から住み着いているコッペの頭を撫でてコッペを宥めていた。

「………同居人の留守でも守っているつもりか?さて……”蛇”どもがどう動くか。そして”イレギュラー”どもがどう介入してくるか。トールズ第Ⅱとやらの手並み、拝見させてもらうとしようか。」

そして立ち上がった仮面の男は空を見上げて呟いた。



~同時刻・デアフリンガー号・3号車~



「ひゃっほう!リーゼロッテ姫ばんざーい!」

「ま、まさか新皇女殿下まで……」

「オリヴァルト殿下……!うわぁ~、久しぶりに見たよ~!」

「レーグニッツ帝都知事にRFグループのイリーナ会長、メンフィル皇家の双子の殿下達、”特務部隊”の一員であったメンフィル帝国の元帥と将軍、それにマクダエル元議長の孫娘にカイエン公爵令嬢姉妹か。」

「し、しかもリィン教官と常に一緒にいるはずのメサイア皇女殿下まで参加していらっしゃるなんて……!」

「それにサフィナ元帥っていう女騎士があの”特務部隊”の一員で、セシリア将軍っていう女将軍がリィン教官の恩師とはねぇ……」

「女性の将軍クラスでエレボニアで思い浮かべるとしたら”七日戦役”で戦死なされたオーレリア将軍閣下ですが、お二人から感じられる雰囲気はオーレリア将軍閣下とは全然違いますね。」

「ハッ……中々の大盤振る舞いじゃねーか。」

「(フフ……お久しぶり、ですね。それにキュアさんと普段はオルディスに滞在していらっしゃるユーディお姉様までオルキスタワーにいらっしゃっているのは好都合ですわ………何とか”交渉”する機会を作れるとよいのですが……――――あら?)――――もしもし、ミュゼですがどなたで――――え。…………」

同じ頃3号車に備え付けているモニターで各国のVIP達の様子を見た生徒達が騒いでいる中アッシュは不敵な笑みを浮かべ、ミュゼは静かな笑みを浮かべた後真剣な表情でモニターに映るユーディットやキュアを見つめていたが自身のARCUSⅡから通信の音が聞こえて首を傾げた後その場から離れて通信を開始し、通信相手を知って驚いた後一瞬で表情を戻して何者かとの通信を再開した。

(やはり殿下の側に兄上の姿はいないか……―――当然だな。今頃第七機甲師団は……それに”カレイジャス”が来ているのに艦長である子爵閣下があの場にいないのも恐らくは帝国政府の意向によるものなのだろうな………)

「…………………」

「?どうしたの、ユウナ。」

「ユウナさんにとっての憧れである”特務支援課”の一員であったエリィさんもあの場にいるのに、何故そのような複雑そうな表情をするのでしょうか?」

「あ、うん、まあ……エリィ先輩があの場にいる事が嬉しいのは事実だけど。(………あの場にマクダエル議長がいないって事はやっぱりマクダエル議長はもう、クロスベルの政治に関わるつもりはないのかな……?それにどうして”六銃士”やリセル教官があの場にいないのかしら……?)」

一方クルトは複雑そうな表情をし、クルト同様複雑そうな表情をした自分の様子に気づいて訊ねられたゲルドとアルティナの問いかけにユウナは苦笑しながら答えた後複雑そうな表情である人物を思い浮かべた後ある人物達の意図を考えていた。

「フフ、お兄様やリーゼロッテが来ることまでは想定していたけど、まさかリーゼアリアまで付いてくるなんて、貴女も驚いたんじゃないの?」

「………別に。あの娘がリーゼロッテ殿下の御付きの侍女になった事は手紙で知らされていたから、私は最初からあの娘が来ることも想定していたわ。」

苦笑しながら問いかけたアルフィンの問いかけにエリゼは冷静な様子で答え

「……その、エリゼ。貴女達シュバルツァー家とリーゼアリアの実家同士の関係でリーゼアリア達に思う所があるのは仕方がないかもしれないけど、せめてリーゼアリア自身とは直に会って話してお互いの誤解を解くべきではないかしら?確か婚約の件はリーゼアリアのご両親の独断で、リーゼアリア自身は寝耳に水な話でその話を貴女達との手紙のやり取りでようやく知ったとの事でしょう?」

「…………………そうね。実際に会って話す機会ができれば、考えておくわ。」

自分の様子を見て複雑そうな表情で話しかけたアルフィンの言葉を聞いて少しの間黙り込んだエリゼは静かな表情で答えた。



~2号車・ブリーフィングルーム~



「ふふ、まさかリィンの従妹のお嬢さんも来てるなんてね。うーん、新皇女殿下もそうだけど、アルフィン殿下やエリゼさんに負けないくらい綺麗よねぇ。」

「はは……そうだな。しかし連絡が付かないと思ったらこういう事だったとは……」

「フフ、それにフランツさんも先月の宣言通りエフラム様達の護衛としていらっしゃっていますわね。ちなみにフランツさんの隣にいるお兄様やフランツさんの同年代に見える女性騎士はもしかして……」

「ああ……俺やステラの同期で、フランツと婚約を結んだアメリアだ。」

「ちなみにアメリアお姉さんはエイリークお姉様の親衛隊の隊士なんだけど、本人の希望で婚約を機にエイリークお姉様の御付きの侍女になる為に現在は侍女としての教育を受けている最中との事よ。」

「ほう?分家とはいえ皇族の親衛隊士になれたのに、何でその地位を捨ててわざわざ侍女になるんだ?」

ブリーフィングルームにあるモニターで各国のVIP達の様子を見ているリィン達が話し合っている所に割り込んだレンの補足の説明が気になったランドロスはリィン達に訊ねた。

「みんなも知っての通りメンフィル皇家のお世話をする専属使用人は使用人としての能力だけではなく、戦闘能力も求められるわ。その為ある程度の戦闘能力があり、式典等の会場内を警備する関係で上流階級に対する礼節も教育される親衛隊の隊士達が戦場に出る事が嫌になったり、結婚を機に戦場から離れたい等年齢による身体の衰えや病気以外の理由で親衛隊から離れて新たな職に就きたい人達にも紹介される職の一つとして、メンフィル皇家専属使用人もその一つなのよ。専属使用人は戦闘能力は求められるけど、それは平時の際の護衛に必要なだけあって、実際に”戦場”に出る事は求められていないからね。―――ま、中にはリフィアお姉様みたいに専属侍女を”戦場”にまで連れて行く変わり者もいるけどね♪」

「ハハ………それにしても実際にリーゼアリアの顔を見るのは本当に久しぶりだな……13―――いや、14年ぶりになるな。」

レンの説明を聞いたその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中乾いた声で苦笑していたリィンは懐かしそうな表情を浮かべた。



「え……リィン君、リーゼアリアさんとはそんなにも長い間会った事がなかったの?」

「会った事がないというよりも、”会えなかった”というべきですかね?トワ先輩も父さん――――シュバルツァー家が俺を養子にした件でエレボニアの社交界から追放された事情は知っていますよね?実はリーゼアリアと長い間会えなかった理由はその件も関係しているんです。」

「へ………どうしてその件が関係してくるの?」

トワの疑問に困った表情で答えたリィンの答えを聞いたアリサは呆けた声を出した後訊ね

「………恐らくゴシップで騒がれ、社交界から追放されたシュバルツァー男爵閣下と親類関係である事で自分達までシュバルツァー家と同じようにみられる事を恐れたリーゼアリア様のご実家が、シュバルツァー家との縁を切った為、男爵閣下のご子息であり、ゴシップの理由となったリィン様とリーゼアリア様のご実家がリーゼアリア様とリィン様を会わせないようにしたからではないでしょうか?」

事情をすぐに察したシャロンは言い辛そうな表情で自身の推測をリィンに確認した。

「あ…………」

「ええ、まさにその通りです。実際父さんがエレボニアの社交界から追放された時を機にそれまであったリーゼアリアの実家――――クレール子爵家との交流はなくなりましたし、俺とエリゼはリーゼアリアと手紙でお互いの近況を報告し合っていましたが、それも無くなりましたから。」

「お兄様………で、でも内戦終結後お兄様の活躍を知ったリーゼアリアさんのご実家も再びリーゼアリアさんとお兄様とエリゼお姉様の手紙による交流をお許しになったのでしたわよね?」

シャロンの推測を聞いたアリサが呆けた声を出して辛そうな表情を浮かべている中静かな表情で答えたリィンの様子を心配そうな表情で見守っていたセレーネはその場の空気を変える為にリィンに訊ねた。

「ああ……内戦が終結してから1ヵ月後くらいか……その頃にリーゼアリアからの手紙が来て、手紙にも長い間叔父さん達に俺達に手紙を出す事を固く禁じられていて出せなかった事に対して手紙を読んでいる俺の方が心配になってくるほどの謝罪の言葉が書いてあったから、多分リーゼアリア自身は叔父さん達と違って俺達との交流を続けたかったんだと思う。」

「そっか……それじゃあ、演習の間に実際にリーゼアリアさんと会って話す機会ができるといいね。」

「ええ……まあ、見ての通りリーゼアリアはリーゼロッテ殿下の御付きの侍女としてきていますからその関係で忙しいでしょうし、俺達も特務活動で忙しいから、多分会う機会はないと思うのですが……」

リィンの答えを聞いたトワは安堵の表情を浮かべた後リィンを見つめ、見つめられたリィンは苦笑しながら答えた。



「……ですが、リィンさんが”七日戦役”や内戦の件で有名になってから再び連絡を取ってくるなんて、幾ら何でもあからさま過ぎませんか?」

「おい、ティオすけ……察してはいてもさすがにストレート過ぎねぇか、その聞き方は?」

するとその時ティオはジト目でリィンに訊ね、ティオの質問の仕方にランディは疲れた表情で指摘した。

「いや……実際ティオの言う通りなんだと思う。リーゼアリア自身はともかく、叔父さん達は”七日戦役”と内戦の件で”公爵”に陞爵する事が内定しているシュバルツァー家との縁を前以上に深くしたいという考えを持っているようだしな。現に俺がユミルを留守にしている間に叔父さん達が連絡もなく父さん達を訊ねてきて、今まで一方的に自分達がシュバルツァー家と絶縁し続けた事に対する謝罪をしてその謝罪の証として俺とリーゼアリアの婚約を提案してきたそうだ。」

「ええっ!?そ、そんな事があったの!?」

「謝罪をしてくるタイミングがあまりにもあからさま過ぎて、婚約が”謝罪の証”なんて(てい)の言い理由である事が見え見えよねぇ。」

「ま、内戦で”貴族連合軍”が負けた事で、今のエレボニアの貴族達の立場は悪くなる一方だからな。大方他の貴族達のように自分の所の娘を”灰色の騎士”に嫁がせる事ができれば、その娘の産んだ子供達がシュバルツァー家の縁者―――つまり、メンフィル帝国で貴族として自分達の家を存続し続けられるから婚約を提案したんだろうな。」

「そいつは………」

「”尊き血”とやらを大事にしている他のエレボニアの貴族達から責められない為に自分達も一緒になってリィンさんをバカにしていたのに、そのリィンさんが出世して自分達の立場が悪くなるとそんな事を提案してくるなんて、その厚かましさに呆れを通り越して感心しますね。」

リィンの説明を聞いたアリサが驚いている中レンは呆れた表情で呟き、ランドロスの推測を聞いたランディは目を細め、ティオはジト目で呟いた。



「……まあ、貴族同士の繋がりはどうしてもお互いの損得も関係してくるからな。ただ、問題は叔父さん達が婚約を持っていた件でエリゼが相当怒っていて、その怒りをリーゼアリアにまでぶつけないかちょっと心配なんだよな……」

「え………何でその件でエリゼが怒ったのかしら?」

複雑そうな表情で呟いたリィンのある言葉が気になったアリサは不思議そうな表情でリィンに訊ね

「うふふ、アリサお姉さん達にも以前エリゼお姉さんは幼い頃からリィンお兄さんの事を慕っていて、リィンお兄さんの件で両親がエレボニアの社交界から爪弾きにされた件に対してエレボニアの貴族達や皇族達に対して内心怒りを抱いていた話はしたでしょう?で、当然その怒りはリィンお兄さんの件で絶縁したリーゼアリアお姉さんの実家にも向けられているのよ。確か、婚約の件を提案した時その場に偶然帰省していたエリゼお姉さんも同席していて、シュバルツァー男爵夫妻が返事をする前にエリゼお姉さんが断って叔父夫婦を追い払ったって話でしょう?」

「はい………わたくし達はその場にいませんでしたが、後から聞いたテオ様達の話ですとテオ様達も初めて見る程の怒りをエリゼお姉様は見せていたそうですわ。」

「あのエリゼ様がご両親も初めて見るほどの”怒り”を見せるとはどのような怒りだったのでしょうね?」

「まあ、お嬢やセティちゃんと同じ笑顔でメンフィル皇帝の跡継ぎの娘すらもビビらせて大人しくさせる程の威圧感をさらけ出せるエリゼちゃんの本気の怒りなんだから、それこそ叔父貴やクソ親父が見せる怒りよりもよっぽどおっかねぇ怒りなんだと思うぜ?」

「クク、笑顔で雑魚共を気絶させる程の威圧感をさらけ出せるルイーネが見せる怒りよりも凄まじいかもしれねぇな。」

「お二人とも、茶化す空気ではない上例えにする相手が色んな意味で間違っていると思うのですが。」

レンに話を振られて複雑そうな表情で答えたセレーネの話を聞いたシャロンが考え込んでいる中からかいの表情で呟いたランディと不敵な笑みを浮かべたランドロスの推測にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ティオはジト目で指摘した。

「ハハ………―――ちなみにアリサたちはイリーナさんと合流するのか?」

「私はしないけど、シャロンはそうね。」

「この後、会長の視察などにお付き合いする予定です。」

その後、アリサとティオたちは演習地とリィン達に別れを告げて一足先にクロスベルへと戻り……トワ達も、それぞれのクラスの演習課題をこなすべく動き始め、リィン達特務科”Ⅶ組”は東クロスベル街道の”幻獣”の出現地点を調べる為に特務活動を再開した――――




 
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