恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS
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第六十九話 徐庶、徐州に来るのことその九
そのうえでだ。また言うのだった。
「御主は知っていてくれたか」
「はい、ですから普通なのでは?」
「そう思うが。知っていてくれたのは夏洸淵殿だけだった」
彼女だけだった。本当にだ。
「気付いたら幽州の牧は袁紹になっていたのだ」
「誰も公孫賛殿が牧だと気付かなかったな」
それを話す関羽だった。
「実は私もかなり忘れていた」
「そうだ。忘れられていたのだ」
完全にだ。忘れられてしまってだ。
そのうえでだ。気付いたらだったのだ。
「私は宮廷に直々に牧に任じられたのだぞ」
「任じたのは誰だったのですか?」
「大将軍だった」
処刑されたと言われている何進である。
「あの方が直々にだ。私の異民族討伐の功を認めて下さってだ」
「そして大将軍はそのことをですか」
「完全にだったのですね」
「奇麗さっぱり忘れてしまわれていた」
まさにだ。完全にだったのだ。
「私の顔を見ても気付かれなかった」
「大将軍ってそんなに物忘れ激しい人だったの?」
馬岱は首を傾げさせながら話す。
「自分で牧に任じたのに?」
「あまりにも影が薄いからだ」
趙雲がそのことを指摘する。
「だからだ。忘れてしまわれていたのだ」
「それだ。無論隣国の袁紹もだ」
その彼女もだというのだ。
「何度会っても忘れるのだ。曹操でさえもだ」
「けれどなんですね」
「黄里ちゃんは」
「よく知っていてくれた。私は嬉しい」
また泣いてだ。そうして話すのだった。
「我が生涯に一片の悔いなし!」
「ああ、その台詞駄目だろ」
馬超がそのことを指摘する。
「それ行ったら死ぬぞ」
「うう、そうか」
「そうして死ぬ旗を自分で立てるのはよくないのだ」
張飛は眉を顰めさせて言った。
「本当に死んでもおかしくないのだ」
「私にはその危険があるのか」
「あるわね」
神楽がずばりといった口調で指摘した。
「そんな空気がするわ」
「そうか。では気をつけないとな」
「そうですね。お腹を切られたりとか何かにはねられたりとか」
「首を切られたりとか」
軍師二人がこんなことを話す。
「そうなったらです」
「大変ですから」
「どれも嫌な死に方じゃのう」
厳顔がその死に方を聞いて言う。
「白蓮殿も難儀なことじゃ」
「妙にあの張角に縁も感じるのだ」
公孫賛はこんなことも言う。
「あの娘に切られるのではないのか?」
「そこまで言われるともう」
「ごちゃごちゃになってしまいますけれど」
孔明と鳳統がそれはと言って彼女を止めた。
「ですからもうです」
「そうしたことは忘れて」
「うむ、飲むか」
公孫賛はあらためてだ。そちらに考えを向けるのだった。
そのうえでだ。彼女はこう周りに話した。
「折角徐庶殿も加わってくれたしな」
「あっ、私はですね」
「御主は?」
「真名で呼んで下さい」
徐庶からだ。笑顔で公孫賛に話すのだった。
「黄里と」
「呼んでいいのか?」
「はい、どうぞ」
その笑顔でまた本人に話す。
「呼んで下さい」
「わかった、それではだ」
「はい」
「呼ぶぞ」
公孫賛も笑顔になってだ。徐庶に話した。
「黄里。そしてだ」
「そして?」
「私の真名も呼んでくれるか」
こう徐庶に告げた。
「そうしてくれるか」
「公孫賛さんの真名をですね」
「そうだ、呼んでくれ」
笑顔で告げる。
「是非な」
「わかりました。それでは」
「うむ、それではだ」
「白蓮さん」
にこやかに笑って。徐庶は公孫賛の真名を呼んでみせた。
「あらためて御願いしますね」
「わかった。それではこれからな」
「はい、これからもずっと」
「そしてですね」
「いいでしょうか」
軍師二人がだ。周囲に話す。
「私達もよかったら」
「公孫賛さんと黄里ちゃんの真名を呼ぶことにしませんか?」
こう周囲に提案するのだった。
「それでどうでしょうか」
「御二人はそれでいいですか?」
「ああ、いいぞ」
「是非呼んで下さい」
二人は淀みのない笑顔で孔明と鳳統に応えた。
「真名でな」
「これから御願いします」
「わかったのだ。それならなのだ」
張飛が最初に応えた。
「白蓮だったのだ?」
「そうだ、やっと言ってくれたな」
「それと黄里なのだ」
「はい、そうです」
二人でだ。張飛に対して応える。
「宜しくなのだ」
「こちらもな」
最後に公孫賛が微笑む。そうしたのである。
そんな話をしてだ。徐庶は劉備の下に加わった。劉備の下にまた一人人材が加わった。それがまた大きな力となるのである。
第六十九話 完
2011・3・17
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