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艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~

作者:V・B
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第六十六話

 
前書き
どうも、田植えから帰ってきました。泥ってなんであんなに動きにくいんですかね泥だからですねそうですね。 

 
―医務室前―
 
 
「…………で、どーゆーことか教えてもらおうか?」
 
俺と春雨は医務室の前で拓海を囲い、半分尋問のようなことをしていた。
 
拓海は最初の方は必死に目をそらそうとしていたが、今は諦めたように俺たちの方を見ていた。
 
あのあと、俺たちは女の人を医務室に運び込んだ。そこで待っていた春雨はボロボロの女の人を見て驚いていたが、最低限の処置をして、ベッドに寝かした。
 
「…………いや、まぁ、うん。確証は持てないと言おうとしてたけど、殆ど確定してるようなものだから言うね。」
 
拓海はそう前置きを置いた。どうやら、拓海にとっても意外な出来事だったらしい。
 
「彼女は、戦艦大和。三年前にこの佐世保鎮守府に異動し、沈んだと言われていた『呉の英雄』だよ。」
 
…………うーん。
 
「大和、ねぇ…………。一つ聞くけどさ、そんな『英雄』呼ばわりされるような艦娘だったのなら、なんであんなところに囚われてたんだ?」
 
つい先程の春雨の話と、さっき起こったこと。それらについてストレートに質問する。
 
「…………春雨。ちょっと席を外してくれないか。皆の朝ごはんを頼む。」
 
すると拓海は、春雨にそんなことを言った。
 
…………この時点で想像がついたが、春雨は分かってないみたいだった。
 
「…………えっと、分かりました?」
 
なぜか疑問形になっていたが、医務室の前から立ち去っていった。
 
「…………さてと、なんで囚われていたかについてだけど。」
 
拓海は春雨が廊下のかどを曲がったところで、そう切り出した。
 
「まず前提として知ってもらいたいのは、提督のなかには艦娘をただの女の形をした兵器としてしか見てないやつがいるってこと。僕の知ってる限り、今各鎮守府で提督をしている奴らの三割はそうだ。」
 
昔は八割だったらしいけどと、軽く笑いながら言った。
 
「そして、二年前にこの佐世保鎮守府に着任してきた奴は、まさしくそんなやつ…………それどころか、こんな状態を作り上げるほど、腐りきっていた。」
 
拓海は鎮守府全体を表すように手を大きく広げた。
 
「んで、だ。ここからは少し推察が入るけど、恐らく前提督は、大和を一方的に愛でたかった。世間一般で言うストーカーだね。」
 
正直、世間一般のストーカーはそこまで過激なのかと言いかけたが、スルーすることにした。
 
「でも、相手は『呉の英雄』。人間風情が敵う相手じゃない。ならどうするか…………ヒントとしては、練度の低い艦娘は、成人男性よりほんの少しだけ、力が弱い。」
 
ヒントになってないヒントだった。最早答えを言っているようなものだ。
 
「つまり、無茶苦茶な艦隊運営をしてベテランを沈めたり、他の鎮守府なんかに飛ばしたりして、練度の低い艦娘だけにした。んで、そいつらを人質にしたと。」
 
俺は答えを言った。拓海は、正解、と言ってため息をついた。
 
「そのあとは、大和をあの場所に監禁して、今に至るってことだろうね…………歪んだ愛ってのは怖いねぇ…………。」
 
しかし、そうなると分からないことが一つ。
 
「じゃあさ、なんでその無茶苦茶な艦隊運営を今の今まで続けたんだ?大和を監禁したなら、それで十分じゃないか。」
 
「千尋はさ、手に入れた一冊のピンク雑誌を、一生使うのかい?」
 
俺の質問に、拓海はすぐに聞き返した。これも、答えを言っているようなものだった。

「……たぶん、大和を監禁して、もしその事実を知る艦娘が居なくなったら…………そう考えたんだろうね。」
 
「…………下衆がっ!」
 
俺はそう吐き捨てると、壁を思いっきり殴った。壁は、拳の形に綺麗に凹んでいた。
 
「だけど、恐らくそれは大丈夫だ。ここには、三年間生き残り続けてきた艦娘が、一人だけいる。」
 
俺はそれを聞いて、少しホッとした。と言っても、それまでの何十人の艦娘は、そんな下衆野郎のせいで、意味なく死んでしまったのかと思うと、心苦しいものがある。
 
「取り合えず、この件に関しては大輝さんと話し合おうと思う…………できれば大和は、呉に帰るのが一番いいんだけどね。」
 
拓海がそんなことを呟いたときだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…………大和を見つけたのか。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その冷たい声は、突然として廊下に響いた。
 
「…………んで、どうするんだ?お前たちも、あの狂人と同じことをするのか?」
 
「…………まさか、と言っても、君は信じないんだろう?」
 
まあな、と、若葉は笑った。俺達は笑えなかった。
 
「…………一つ覚えておけ。私の目が黒い限り、大和や皆には、手を出させないからな。木曾、お前もだ。」
 
若葉は俺達をひとしきり睨み付けると、クルリと回って去っていった。
 
「…………あれか。」
 
俺は拓海に確認してみた。
 
「…………あれだよ。」
 
拓海はそう言うと、更にため息をついた。
 
「ありゃあ、相当時間が掛かりそうだね…………正直、戦力として使えたら、かなり大きいんだけどね…………。」
 
「…………どれくらいだ?」
 
俺は拓海の呟きに対して質問してみた。若葉に関しては、昨日のG事件以来、色々と思うところがある。
 
「…………君は、『魔神木曾』を天才だと思うかい?」
 
拓海は突然、木曾のことを話し始めた。
 
「…………いや、アイツは努力の天才ではあっても、戦闘の天才ではないと思うな。軍刀の扱いなら俺や天龍の方が上だし、対空は摩耶さんに負けるしな。」
 
俺はアイツが朝走ってないところを見たことがない。出撃した翌日も、朝早くから走りはじめて、誰よりも遅く訓練を終える。
 
その姿には、敬服するしかない。
 
「…………そう、彼女は『努力の天才』だ。だけど、あの若葉は…………天才なんだ。」
 
拓海は、廊下の天井を見上げた。ボロボロの天井は、雨が降ったら雨漏りするんじゃないかと思えるほどにボロボロだった。まぁ、一階だから大丈夫だけど。
 
「昨日さ、若葉は軍刀を使ってGを撃退したんだろ?しかも、腕前的には天龍以上。」
 
「おう。」
 
「でも、そうなるとおかしいんだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この鎮守府には、千尋のそれしか、軍刀が無いんだ。しかもこの五年間、軍刀の支給はなかったんだ。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
生まれて初めて、天才を目にしたのだと、今更ながら気付いた。 
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。これから僕は新人賞用の原稿を書き上げようと思います。もちろん、こちらの投稿は続けますけどね。

それでは、また次回。 
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