リング
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99部分:イドゥンの杯その五
イドゥンの杯その五
「竜」
「そうです。黒く巨大な竜が。バイロイトを破壊してしまったのです」
「一体どの様な竜だ」
「黒く、巨大な竜です」
「それは今聞いた」
「それだけでなく。口が開くとバイロイトのコアが大きく揺れ動き」
「うむ」
「そしてコアから全てを破壊したそうです。僅かな生存者からの報告によれば」
「帝都を守る艦隊は何をしていたのだ」
「攻撃を加えても。無駄だったそうです」
家臣はそう言ってその首を空しそうに横に振った。
「残念ながら」
「何ということだ」
トリスタンも呆然としていた。
「そして陛下は。御無事なのか」
「陛下も」
また首を横に振った。
「脱出こそできましたが。そこにいたニーベルングの艦隊により」
「そうか。陛下まで」
「そしてニーベルングは新たな国家の設立を宣言しております」
「彼を頂点にする新たな帝国のか」
「はい。彼はこのノルン銀河の所有を宣言しております。そしてそれに逆らう者には死を与えるとも」
「簒奪王朝を立てるというのか」
「まだ皇帝にはなっておりませんがおそらくは」
「馬鹿を言え」
トリスタンはそれを拒否する言葉を出した。
「簒奪者に国を治められるか」
「ですがニーベルグにはその竜があります」
「うむ」
「そして己が艦隊も。その力は隔絶しておりますが」
「とりあえず今は情報を集めよ」
トリスタンはすぐに決断を下そうとはしなかった。
「まずは中立を宣言する。よいな」
「ハッ」
「とりわけその竜に関する情報を知りたい」
「やはりそこに何かが」
「あるかも知れない。頼むぞ」
「わかりました」
家臣は頷いた。そしてすぐに大規模な情報収集が開始されたのであった。
その結果銀河の情勢等もわかった。情勢は混沌としていると言ってよいものであった。
「多くの勢力がその動向を決めかねているようだな」
「はい」
家臣の一人であるホッターが答えた。
「まずチューリンゲン王家は公爵であるオフターディンゲン公が中立的立場をとっておられます」
「うむ」
「ニュルンベルグのシュトルツィング執政官も」
「あの二人は中々の切れ者らしいな」
「はい。とりあえずは情報を集めているようです。ニュルンベルグへの道は遮断されました」
「防衛の為だな」
「おそらくは」
「そうしてとりあえずの混乱から守るか。彼らしいな」
ヴァルターのことは知っていた。若いながらも優れた政治家であると聞いている。
「他にも中立を宣言している勢力は多々あります」
「今一番多いのではないか」
「その通りです。皆状況を見極めようとしているようです」
「すぐに帝国になびくわけではない、か」
「ニーベルングは彼等に対して有利な条件と影に武力をちらつかせて味方につくように言っていますが」
「上手くはいっていないのだな」
「はい。そして敵対する勢力には」
「武力を、か」
「さしあたって彼に反旗を翻している勢力は三つあります」
ホッターは報告した。
「まずはブラバント司令官の艦隊です」
「叔父の仇を取る為か」
ローエングリンの叔父はバイロイト崩壊の時に皇帝と共に戦死しているのである。甥である彼がその仇を取ろうと考えるのは当然であるように思われた。
「そしてワルキューレです」
「海賊達だな」
「はい。彼等は自分達の勢力圏に入って来た帝国軍に対して積極的に攻撃を仕掛けているようです。また帝国軍の惑星のも攻撃を計画しているとか」
「それはまた過激だな」
「首領であるジークフリート=ヴァンフリートの考えのようです」
「ヴァンフリート」
「御存知ですか?」
「名前だけはな。近頃急激に勢力を伸ばしていたが」
「若いながらも優秀で、しかも海賊とは思えない位の気品の持ち主だとか」
「立派な男なのだな」
「そういう話ですね。実際に会ったことはないので確かなことまでは言えませんが」
「そうか。そして最後は」
「はい」
ホッターは最後の勢力について話をはじめた。
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