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リング

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93部分:ニーベルングの血脈その二十五


ニーベルングの血脈その二十五

「手前、まさか」
「そう、そのまさかだ」
 司祭は二つの声で答えた。
「私はクリングゾル=フォン=ニーベルング」
「親玉御登場ってわけだな」
「残念だが少し違う」
「どういうことだ」
「私は。今ここにはいない。別の場所にいながら卿と話をしているのだ」
「そのからくりはもう聞いてるぜ」
 ジークムントは司祭の向こうにいりクリングゾルに対して言った。
「御前の血族の心に入り込めるんだったな」
「メーロトから聞いているか」
「そうさ。そして死んださ」
「優秀な男だったが」
 その声にいささかの惜別が込められていた。
「自ら死を選ぶとはな」
「愚かだとか言うと思ったがな」
「メーロトは我が血族だ。血族を失って悲しまない者はいない」
 クリングゾルはこう述べた。
「私であってもな」
「そうかい。メーロトもそう言ってもらえると喜ぶぜ」
 ジークムントはその言葉には素直に感謝の意を述べた。
「立派な最後だったぜ」
「そうか」
 クリングゾルはその言葉に頷いた。そしてまた言った。
「だが寂しくはならないな」
「それはどういう意味だ?」
「卿は。今ここで死ぬからだ」
「何!?」
「周りを見てみるがいい」
 クリングゾルは静かに語った。
「卿は最早死に取り囲まれている」
「どういうことだ、それは」
「提督、大変です!」
 部下の一人が声をあげた。
「どうした!?」
「周りに熱反応が。無数にあります」
「そうか、そういうことかよ」
 ジークムントはそれを聞いて事情をすぐに察した。
「あの基地にやけに兵隊が少なかったのは。こういうことだったのかよ」
「気付いてはいたか」
「まあな。まさか今ここで出て来るとは思わなかったがな」
「兵法とは相手の思わぬところを衝くものだ」
 クリングゾルは静かに言った。
「それに気付かぬとは。天才も抜かることはあるのだな」
「チッ」
「確かにメーロトは死んだ。だが一人であの世に行かせたりはしない」
「俺も一緒にってわけか」
「そうだ。覚悟するがいい。ではな」
 そう言い残して司祭、いや彼の身体を借りたクリングゾルは姿を消した。後にはジークムント達を包囲する帝国軍の姿があるだけであった。
「最後の最後で洒落にならねえ事態に陥っちまったな」
 彼は歯噛みしながらこう言った。
「囲まれちまうとはな。盆地でな」
「まさか。囮を使うとは」
「奴は戦争も上手かった」
 ジークムントは彼と同じく口惜しがる部下達に対して言った。
「特に敵を罠にかけるのがな。俺達がこうなるとは思いもしなかったが」
「どうされますか?」
 部下の一人が尋ねてきた。
「敵は上を完全に押さえています。このままでは」
「包囲殲滅されるかと」
「怖気付くんじゃねえぞ」
 だが彼はここで部下達を叱咤した。
「ここはな、覚悟を決めろ」
「は、はい」
「一点突破しかねえ。一気に仕掛けるしかな」
「ですがどのポイントに」
「待ってな」
 彼はまずは辺りを探った。上を見回す。
「必ず隙がある筈だからな。そこを突くぞ」
「わかりました」
「そこはな」
 そしてここでその敵がいる上の方から突如として光が見えた。
「!?」
「あれは一体」
 部下達もそれに気付いた。
「提督、まさかヴァルター執政官の軍では」
「シュトルツィング執政官のか」
「はい、確か執政官の軍も帝国軍と戦っていましたね」
「そしてこのナイティングに向かっていると」
「そういえばそうだったな」
 ジークムントもそれを聞いて思い出した。
「これは天の助けってやつかもな」
「どうされますか?」
「決まってるだろ」
 ジークムントの顔には会心の笑みが浮かんでいた。
「反撃に転じるぞ。いいな」
「わかりました、それでは」
「おい、派手に暴れるぞ」
 今度は周りの部下達に対しても言う。
「助かるからな、絶対にだ」
「はい!」
 部下達もそれに応えた。そしてそれぞれ銃を手に持つ。
「シュトルツィング軍の居場所はわかるか!?」
「あそこですね」
 闇夜の中に火花が見える。それだけでわかった。
 
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