リング
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91部分:ニーベルングの血脈その二十三
ニーベルングの血脈その二十三
「ジークムントか」
「ああ」
ジークムントはその男の声に応えた。
「久し振りだな」
「そうだな」
男はそれに応えた。爆風の後の煙が消え姿が見えてきた。そこには金色の長い髪と同じく金色の瞳を持つ長身の男が立っていた。黒い詰襟の軍服を着ている。
「メーロト」
ジークムントはその男の名を呼んだ。
「俺がここに来た理由はわかっているな」
「勿論だ」
メーロトはその言葉に対して頷いた。
「ナイティングまでの戦い。見事だった」
「大したことはねえよ」
ジークムントは言う。
「あの程度な。どうってことはねえ」
「相変わらずの天才ぶりか」
「御前を倒す為にな。やったんだ」
そして彼はまた言った。
「あの時の借りを返す為にな。そしてここまで来た」
懐に手を入れた。
「覚悟はいいか」
そしてそこから銃を取り出す。メーロトの胸に照準を合わせる。
「俺を裏切った罪、今償ってもらうぜ」
「償いか」
「そうだ。まさか命乞いをするつもりはねえよな」
「安心してくれ。今更そんなことはしない」
彼はすっと笑ってこう言った。
「それよりも。早く撃ってくれ」
「妙なことを言うな」
自分を殺してくれとは。頭がおかしくなったのかと思った。
「俺に殺して欲しいのか」
「そうだ」
そしてメーロトもそれを認めた。
「御前に撃たれるのなら本望だ。早く撃ってくれ」
「撃ち返したりはしねえのか」
「それもない」
彼は首を横に振った。
「早く。俺を殺してくれ、御前のその手で」
「・・・・・・どうも腑に落ちねえな」
そのメーロトの態度を見て思わずこう呟いた。
「あの時俺を撃っておいて。どういうことだ」
「あれは俺の意志ではなかった」
彼は言った。
「あれは。クリングゾル様の御意志だった」
「クリングゾルの」
「そうだ。クンドリーは我が姉」
「何っ!?」
ジークムントはそれを聞いて思わず声をあげた。
「御前等・・・・・・姉弟だったのか」
「そう。そして姉も俺もニーベルングの一族だ」
「クリングゾルの奴と同じなのかよ」
「俺の本当の名はヴェーゼンドルクではない」
彼はまた言った。
「メーロト=フォン=ニーベルング。これが俺の本当の名前だ」
「何てこった。ニーベルングの一族だったのかよ」
「そうだ。今まで隠していたがな」
「そして何で俺を撃ったのがクリングゾルの意志だったんだ?」
「クリングゾル様は我等の長だ」
メーロトは言った。
「そして。我等の心の中でさえ」
「どういうことだ!?」
「我々は。クリングゾル様のコントロールを受けているのだ」
「何っ、まさか」
「そうだ。あの時俺を撃ったのは俺の意志ではない」
「クリングゾルの奴の意志だったってのかよ」
「そのことについては済まないと思っている」
「何てこった」
ジークムントはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「それじゃあまるで。あいつの奴隷じゃねえか」
「我等ニーベルング族は全てそういう運命だ」
彼は言った。
「全てを。クリングゾル様に捧げる」
「御前の意志に関係なく、か」
「だがもうそれにも疲れた」
メーロトは俯いてこう述べた。
「俺はもう。駒でいることに疲れた」
「どうするつもりなんだよ、それじゃあよ」
「撃ってくれ」
ジークムントに顔を向けて言った。
「俺を。御前に撃たれるのなら本望だ」
「俺にか」
「そうだ。その為に来た筈だな」
「ああ」
彼もそれを認めた。
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