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87部分:ニーベルングの血脈その十九


ニーベルングの血脈その十九

 そこを拠点としてさらなる進撃に移った。だが帝国軍の抵抗は予想以上に少なかった。
「妙だな」
 ジークムントはすぐにそれに気付いた。
「何かおかしくねえか」
「といいますと」
「帝国の奴等だ。少な過ぎる」
「我々の宇宙からの攻撃で戦力をなくしたのでは」
「あの程度の攻撃でか?」
 ジークムントはそれには懐疑的であった。
「ここはこの周辺の帝国軍の最大の軍事拠点だったな」
「ええ」
「それがこの程度か。おかしいとは思わねえか?」
「言われてみれば」
「何かある。気を着けろ」
「はい」
 部下達はそれに従いその進撃を慎重なものにシフトさせた。それと共に情報収集に重点を置いた。その結果かあることがわかった。
「やはりこの惑星に帝国軍はあまり残ってはいないようです」
「そうなのか」
「いえ、元々兵は少なかったようです」
 どうやらこの基地は元々補給基地としてのみ使われていたらしい。それが報告でわかってきたのだ。
「ですから。戦闘は激しくなかったかと」
「ふん」
「ですが一つ問題があります」
「それは何だ?」
「ここにヴェーゼンドルクもいる模様です」
「メーロトもか」
「はい。どうやらあの戦いの後ここに落ち延びていた様です」
「成程な、道理で姿が見えなかったわけだ」
 ジークムントはそれを聞いて呟いた。
「ここにいやがったとはな」
「彼等は今ここにアルベリヒ教の司祭と共に潜伏している模様です」
「アルベリヒ教のか」
 その教団のことはジークムントも知っていた。この銀河においては非常に珍しい一神教であり、そして帝国の上層部に信仰されている宗教だ。クリングゾル=フォン=ニーベルングはこの教団を国教にしようと目論んでいるという噂もある。これもまたジークムントが知っていることであった。
「はい。如何為されますか」
「それでメーロトの奴は何処にいるんだ?」
 彼はその問いに答えるかわりにこう問うた。
「ここから北に向かった山地にいる様です」
「山にか」
「そうです」
「わかった。じゃあ行くぞ」
 彼は一言こう言った。
「行かれるのですね」
「その為にここまで来たんだ。違うか?」
「いえ」
 その通りであった。それを否定することは出来なかった。
「精鋭部隊を連れて行く」
 ジークムントは次にこう述べた。
「山岳戦に長けた連中を集めてくれ」
「それなら山岳連隊がいますが」
 参謀の一人であるヴェンコフが述べた。
「山岳連隊か」
「はい。あの部隊ならば山岳戦の専門ですし。丁度いいかと思います」
「わかった。ではその連中を連れて行こう」
「はい」
「俺が直接指揮を執る。奴がいるからな」
 その赤い目が光った。
「御前達はここで護りに徹してくれ。いいな」
「はっ」
 こうしてジークムントはその山岳部隊を率いてメーロトのいると思われる山地に向かった。彼等は皆精悍であり、逞しい顔付きをしていた。ジークムントは彼等を見てまずは大丈夫かと思った。
「この連中なら大丈夫か」
 彼はメーロトのことを知っていた。艦隊戦だけでなく地上戦にもまた長けていた。だからこそ警戒しているのである。
「おい」
 その部下達に声をかけた。
「わかってると思うがな」
「はい」
 部下の一人が逞しい声を返してきた。
「メーロトは侮れるものじゃねえぞ」
「わかっております」
 そして彼は素直に答えた。
「だからこそ我々を選んで下さったのですね」
「その通りだ」
 ジークムントは強い声を返した。
「あいつのことは俺が一番よく知っているつもりだ」
「提督御自身が」
「そうさ。ずっと一緒だったからな」
 一瞬その赤い目が遠くを見た。
「軍に入る時もな。一緒だった」
「そうだったのですか」
「士官学校に入った時だ」
 彼は言った。
 
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