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リング

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73部分:ニーベルングの血脈その五


ニーベルングの血脈その五

「こんなにあったのかよ」
 ジークムントはノートパソコンに入れられたその膨大なファイルを見て言った。
「予想以上でしたか」
「ああ、それも遥かにな」
 戸惑いながら言葉を返す。
「ノルン銀河全てについて出されているといっても過言じゃねえな、これは」
「その中でも特記すべきことだけを出したのですが」
「それでこれか。それだけ今この銀河がややこしい状況にあるってことだな」
「そうですね、そしてその中心にいるのが」
「あいつってわけだな」
 ここでジークムントの目が光った。
「ニーベルングの奴が」
「あの男に関するデータは残念ながら」
「殆どないってわけか」
「かっての経歴とアルベリヒ教の司祭長でもあるということだけしか」
「アルベリヒ教か」
「はい。それが何か」
「いや、少し気になることがあってな」
 ジークムントは考えながら述べた。
「メーロトの奴も。アルベリヒ教を信じていた」
「そうだったのですか」
 アルベリヒ教とはこのノルン銀河にある宗教の一つである。決して大きな宗教組織ではなく、銀河においては主流ではない。そして破壊の神を崇める一神教であるとされている。一神教はノルン銀河においては極めて少ない。そうした面からもかなり異端な教義を持っていた。
「そしてニーベルングがその教団の司祭長でもあるなら」
「やはりメーロト=フォン=ヴェーゼンドルクはニーベルングと深い関係にあるということでしょうか」
「だろうな。だから今軍を率いてあちこち動き回っている」
「はい」
「アルベリヒ教についてわかってるのはこれだけか」
「残念ながら」
 ファイルに入っていたのはあまりなかった。ジークムントはそれを一通り見終わった後でそれを聞いた。
「そうか、ならいい。いや、待て」
「他には何か」
「このパルジファル=モンサルヴァートって男だけどよ」
「はい、彼が何か」
 メルヒオールはそれを受けて顔をあげた。
「今こっちに来ているのか」
「ローゲはそう示していますが」
「そうか、成程な」
 彼はそれを聞いてまた考える顔になった。
「わかった。じゃあそいつが来たら教えてくれ」
 そしてメルヒオールに対してこう言った。
「こいつとは直接会って話がしたくなった」
「何か思われるところがおありなのですか」
「ああ。理由は二つある」
 彼はそれに応えて言った。
「まず帝国と対立しているんだよな」
「はい」
「そして同じように帝国と敵対している勢力に武器を売っている。まずはこれだ」
 それは極めて現実的な視点からであった。
「そしてもう一つだ」
「もう一つは」
「こいつ自身についてだ」
「彼自身ですか」
「記憶をなくしているんだな」
「ええ、資料によりますと」
 メルヒオールはまた答えた。
「それだ。それについても聞きたい」
 彼は言った。そこに何かを見ていたのだろうか。
「いいな。こっちに来たら知らせてくれ」
「はい」
「何かと話を聞きたいからな」
 そして彼は仕事に戻った。手許にあるデスクワークをあまり面白くなさそうな顔で処理していく。実は彼はこうした机の上での仕事があまり好きではなかった。だがしないわけにはいかなかったのである。
 
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