リング
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72部分:ニーベルングの血脈その四
ニーベルングの血脈その四
「御前はそうした軍政はいいが他のところで下手なところがあるな」
「申し訳ありません」
「謝る必要はねえさ。誰にだって得手不得手ってやつがある」
立ち上がってこう述べる。
「戦争ってのはな、戦場に出てはじまりってわけじゃねえ。それより前からはじまっているんだ」
窓の向こうに顔を向けて言う。その向こうには青い空と白い雲、緑の草木があった。
「そうして艦艇や兵隊を揃えるのも大事さ。だがもう一つ重要なものがあるんだよ」
「それは情報でしょうか」
もう一人の参謀であるメルヒオールが問うた。
「そのもう一つとは」
「わかってるじゃねえか」
ジークムントはズボンのポケットに手を入れたままの態勢で彼等に顔を向けた。身体はそのまま窓の方に置かれたままである。
「そうさ、情報だ」
「やはり」
「そうしたことはやっぱり御前だな」
メルヒオールに顔を向けたまま言う。
「情報参謀としてな」
「はい」
「すぐにメーロトと奴が率いる帝国軍の情報収集にあたってくれ」
「はっ」
「他の情報もだ。今のノルン銀河の情勢も知りたい」
「わかりました。では」
メルヒオールは敬礼で応えた。ジークムントはそれを受けた後でまたヴィントガッセンに顔を向けて来た。
「御前は占領していった星系の軍政にあたってくれ」
「はい」
「俺の方は執政官と細かい調整に入る。向こうも何かと俺に対して言いたいだろうからな」
「わかりました。では」
メルヒオールと全く同じ動作で同じ言葉を述べた。敬礼も同じであった。
「今からすぐに」
「暫くは戦闘もないだろう。だが油断するな」
ジークムントの顔が引き締まる。
「帝国の連中とは絶対にやり合わなくちゃならないからな。それを忘れるんじゃねえぞ」
「わかっております」
二人はその言葉に頷いた。そして言った。
「メーロトの首、あげましょう」
「ああ、絶対にな」
応えるその声が強いものになった。窓に戻したその目の光も同じであった。
今ジークムントの目は青い空も緑の草木も見てはいなかった。その目は戦場を、そして無限の銀河を見据えていた。そこで行われるであろう戦いを見据えていたのであった。既に戦いは幕を開こうとしていたのであった。
こうしてジークムントとその軍は暫くの間目立った動きを示さなかった。周辺星系の占領と軍政、情報収集に専念していた。結果多くの戦力が彼の下に集まり、それ以上に多くの情報が彼のところに入って来ていた。
その中には興味深いものもあった。かっての上司であるローエングリンの動きもその中にあった。
「そうか、あっちはあっちで派手にやってるんだな」
ジークムントはローエングリンがテルラムント率いる帝国軍と対峙していると聞いてそう呟いた。
「どうやら司令にとって有利みたいだがな」
「あのローゲという生体コンピューターの役割が大きいようです」
メルヒオールがそれに応えて言った。
「作戦等は全てローゲの立案によるものだとか」
「そうか、それは凄いな」
ジークムントはそれを聞いて素直にこう述べた。
「天才軍師ってやつか。それも生きた」
「はい、どうやら」
「それが俺のジークリンデにも搭載されているんだよな」
「データの上ではそうです」
メルヒオールが答えた。
「今のところこれまでのコンピューターとは比較にならない程の情報処理能力及び収集能力を示しております」
「それだけでも大きな力だな」
ジークムントはそれを聞いて呟いた。
「情報はかなり集まっているだろう」
「これまでの数倍程です」
メルヒオールは言った。
「これにより銀河の情勢がかなり把握出来るようになっております」
「それじゃあその情勢を資料にまとめて持って来てくれ」
「はい」
彼は頷いた。
「それでは然る後に」
「ああ、頼むぞ」
数日後その資料がジークムントのところに持って来られた。それはかなりの量を持っていた。
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