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真田十勇士

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巻ノ百三十八 仇となった霧その九

「兵達が戦う音と声が」
「そうか、やはりな」
 幸村は根津のその言葉に納得した顔で頷いた。
「あの山でか」
「あの地で戦うならですか」
「少数で大勢を相手にするならな」
「あの山ですか」
「あそこに入ってだ」
 そのうえでというのだ。
「戦う、高所を利用してな」
「そうなのですか」
「うむ、あそこしかない。しかし」
 幸村は顔を厳しくさせてこうも言った。
「後藤殿の軍勢は二千六百、それに対して幕府は二万以上」
「それだけの大軍では」
 それこそとだ、今度は望月が言った。
「如何に後藤殿といえど」
「危ういな」
「今にも敗れますな」
「そうじゃ、だから急ぐぞ」
「しかし後藤殿は、ですか」
 伊佐は軍勢を進ませる幸村に彼のことを尋ねた。
「生きておられますか」
「星の動きによればな」
「それは間違いないですか」
「星は嘘は言わぬ」
 それが示す運命はというのだ。
「だからじゃ」
「亡くなられずに」
「生きておられる、しかしな」
「それでもですか」
「敗れる、そのことは危うい」
「だからですな」
「急ぐぞ」
「では我等だけでも」
 猿飛が気をはやらせて幸村に申し出た。
「先に行って宜しいでしょうか」
「そうしてじゃな」
「はい、後藤殿をお助けしましょうか」
 こう幸村に言うのだった。
「そうしましょうか」
「そうじゃな」
 少し考えてだ、幸村は猿飛に答えた。
「ここはな」
「はい、それでは」
「お主達が先に行ってな」
「後藤殿をですな」
「お助けしよ」
「では殿」
 最後に清海が申し出た。
「ここは」
「うむ、先に行ってくれ」
「そうして後藤殿をお助けしてきます」
「若し後藤殿が采配が執れぬ様ならな」
 あえて最悪の場合を考えて言う幸村だった、そうなっている場合も考えてそのうえで采配も考えているのだ。
「後藤殿の家臣の方々が執られている」
「では我等は」
「その方々をお助けして」
「そうしてですな」
「そうじゃ、おそらく退くことになるが」
 軍勢、それがだ。
「それをお助けするのじゃ」
「わかり申した」
「ようやく霧も晴れましたし」
「それでは」
「そうします」
「ではな」
 幸村は十勇士達を後藤の軍勢を助けに向かわせた、そして彼は己の軍勢を進ませつつ傍らにいる大助馬に乗る我が子にも話した。
「ではな」
「はい、我等はですな」
「このまま進みじゃ」
「そうしてですな」
「敵の軍勢とあたるが」
「敵はおそらくですな」
「後藤殿をお助けする場合もそうでない場合もな」
 いずれにしてもというのだ。 
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