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真田十勇士

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巻ノ百三十八 仇となった霧その七

「そしてじゃ」
「何処かで、ですか」
「達者でな」
「殿・・・・・・」
 長沢は涙を落した、だが後藤の言葉は変わらなかった。
「大宇陀にでも行くのじゃ」
「大和の」
「あちらに心ある者達がおる、だからな」
「それがしが大坂におったとしても」
「何も言わず受け入れて匿ってくれる」
 だからこそというのだ。
「それでじゃ」
「大宇陀まで逃れ」
「そこで生きよ」
「・・・・・・わかり申した」
 長沢も遂に頷いた、そしてだった。
 彼は後藤に別れを告げると馬で何処かに去った、後藤は他にもまだ戦えるという者達だけを連れてそうしてだった。
 彼等を率いて山麓まで兵を突進させつつ叫んだ。
「後藤又兵衛基次、この武勇しかと御覧あれ!」
 その巨大な槍を縦横に振るいつつ戦う、そうしてまさに一騎当千の働きをしてそのうえで幾多の敵の者達を倒してだった。
 多くの矢や刀や槍、銃の傷を受けた。そうして動く力が尽きたと感じて周りの者達に言った。
「もうよい、では」
「御首を」
「これより」
「もう腹も切れぬわ」
 気力も尽きた、動ける気力もなくなってというのだ。
「だからじゃ」
「ここはですか」
「もう」
「うむ、頼む」
 こう言って後藤は馬上にて意識を失った、その彼を見てだった。彼の周りに残っている者達は話した。
「殿はそう言われるが」
「うむ、ここで死なれるには惜しい」
「そうした方じゃ」
「我等で殿をお救いしよう」
「今なら間に合う」
 戦の場を見て彼等は思った、確かに敵の方が多いが彼等は今は敵を討つよりも倒した者達の首を得て持ち運ぶことに忙しい。
 その状況にまだ生きている者は逃げようとしている、そしてだった。
 先程後藤が若いからと言って逃がされた長沢が戦の場に戻って来てだ、そのうえで後藤を探していた。
「殿、申し訳ありませんが共に」
「おお長沢戻ってきたか」
「そうしてきたか」
「ならば都合がいい」
「ここは頼めるか」
 後藤の家臣達はその長沢を見付け彼に声をかけた。
「殿は気を失われた」
「だがまだ生きておられる」
「殿ならばまた目を開けられる」
「そして必ず傷を癒される」
 それでというのだ。
「殿を頼む」
「我等は残っている兵達をまとめて下がる」
「その間にじゃ」
「お主は殿をお護りして落ち延びよ」
「あらためてな」
「では大宇陀の方に」
 長沢は後藤に言われたそこを話に出した。
「落ち延びよと」
「そうしてくれるか」
「殿は今はもう戦えぬ」
「だから今は傷を癒してもらう為にな」
「殿を落ち延びさせてくれ」
「大宇陀の方にな」
 大和のそこにというのだ。
「ここは我等に任せよ」
「だからお主には殿を頼みたい」
「そうしてくれるか」
「ここは」
「それがし殿と共に戦の場で死ぬつもりで戻りましたが」
 長沢は彼等の言葉を受け感慨を込めた顔になり言った。 
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