ロボスの娘で行ってみよう!
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第49話 死亡遊技
リーファがあそびます。
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第49話 死亡遊技
宇宙暦793年1月19日 未明
■自由惑星同盟領フェザーン回廊からバラトループ星系間 同盟軍訓練艦隊
ファーレンハイト中佐の尋問を終えて、怪我人に対しての尋問は帰還中に行うとカールセン提督との話で決まったが、続いて次の会議に雪崩れ込んでいった。なぜなら艦橋要員の尋問でフェザーンの駐在武官が特殊船で回廊同盟側まで進出して工作を行っているのが判ったからである。
実際は原作知識でミュラーが出てきているのを知っていたために。尋問した情報部員にリーファが、原作知識で疑問をぶつけ、誘導する様に示唆したからであったが、尋問官は見事に役目を果たしてくれた。
「貴官の官姓名は?」
「帝国軍巡航艦ヘーシュリッヒ・エンチェン航海主任ジークフリート・キルヒシュラーガー大尉」
「まあ、堅くならずに、飯でも食うか?」
「いらん」
「顰めっ面をしていると、幸せが逃げていくぞ」
「はぁ?お前等が俺達を捕まえ無ければ、幸せだったんだっよ!」
「ほう。それは幸せなことだな」
「あんだと!」
「提督の命令でお前達をそのまんま船ごと吹っ飛ばすつもりだったんだがな」
「ふん!」
「そうそう、貴官達を支援したフェザーン駐留武官は逃げ帰ったよ」
その言葉に、大尉が顔色を変えた。
「残念だね、今頃貴官達は行方不明者として連絡されているんだろうね。しかも特殊任務だから、捕虜交換で帰還させようにもそのような人物は存在しないとなるだろうね」
「何を言いたいんだ!」
「なに、航路を少し教えてくれるだけで良いだけだよ。悪いことをしないよ。亡命も歓迎するし、そのままの階級で後方勤務をしても良いぞ」
考え始める大尉。
「それは本当なんだろうな?」
「同盟軍は嘘は言わないさ。貴族と違ってね」
「判った」
ヘクトルの会議室に、航路情報が伝えられると、早速イブリンが航路図に転記を始めた。
「提督、思った通り、フェザーン回廊同盟側に帝国の特殊工作艦が侵入してきているようですね。何人かの士官にカマを懸けさせた結果、皆が皆顔色を変えたようです」
「中佐、見事な推理だったな」
「ありがとうございます。どう考えても巡航艦がドンピシャでヘルクスハイマー伯爵の動きを知れる訳が無いので、想定していたことが実証された訳です。所でどうしましょうか?」
カールセン提督はリーファの言葉に含み笑いをしながら喋る。
「そうだな、我々の庭先に土足で乗り込んで来た連中に灸を添えなければならんかな」
「そうですね、問題は何処までフェザーンにばれずにいられるかですね」
「艦艇を使う訳にはいかんな」
「ラップ少佐も何か考えてくださいよ」
いきなり振られたラップは驚く。
「俺か?」
「此処は、フェザーンに連絡をして正式な抗議をしたらどうでしょう?帝国も非常に危険な行動を取っている訳ですから。フェザーン側からの圧力を期待すると」
「んー、少佐の答えは、及第点過ぎるんですよね。もう少しあくどい考ってありませんか?」
「それは、小官には無理だ。アッテンボロー中佐にお任せしますよ」
「ハハハハ。中佐は同盟一あくどいですからな」
シェーンコップの言葉にリーファ以外が苦笑する。
「それはさておき、どの様な方法で特殊工作艦にお灸を添えるかだ」
「中佐には、腹案があるのではないですかな?」
カールセン提督とシェーンコップの言葉にリーファが応える。
「まあ、あるにはあるのですが。えげつないですし、対象物を間違えたらえらい事になります」
「それはどんな方法だね?」
なら俺に聞く必要は無いじゃないかとラップは思ったが話を聞く内に俺に聞いた訳が正論を述べて貰いどれだけリーファの策があざといかを判って貰うと言う事だと判ったのである。
「幾つかあるのですが、まずは敵と同じ手を使う方法です。つまり海賊に扮して襲撃する。しかし関係ない船を襲撃したら大変な問題になりますけどね」
「確かに、危険な行為だ」
「その2、帝国軍巡航艦をフェザーン回廊へ突入させて、特殊工作艦至近で自爆させる、無論死体を乗せたままですけど。利点はフェザーンに帝国軍が彷徨いているのを知らせることが出来る。それによりフェザーンと帝国の仲が悪くなる可能性が有ると言うことです。しかし、国際的な問題を現地が勝手にやる訳にはいかない訳です」
「当艦隊は其処までのフリーハンドは無いからな」
「次に、囮船から平文で特殊工作艦へ巡航艦を捨てて逃亡中だが故障したので助けを求め。同盟領までおびき寄せて拿捕する。此が一番安全なんですがね、暗号通信自体が不明ですので、平文ではたして敵が引っかかるか不明なんです」
リーファの意見が出尽くした所で、カールセン提督が参加者全員を見回しながら意見を求める。
「アッテンボロー中佐の作戦だが、貴官達はどう感じたのか率直な意見を求める」
「そうですな、我々ローゼンリッターとしては、海賊行為が一番面白いと思うますがね」
「シェーンコップ中佐、面白さで作戦を立てては、問題が生じるのでは?」
「参謀長、時には冗談も必要ですよ」
シェーンコップの言葉に、フィッシャー参謀長も苦笑いする。
「やはり、第三の案が尤も適しているかと思います」
「小官もラップ少佐の意見に賛成です」
「自分もです」
「うむ、どうやら決まったようだな。アッテンボロー中佐、第三案を実行できるように作戦を立ててくれ。伯爵の事も有るので、そんなに時間はかけられないのだからね」
「了解しました」
「副参謀長殿、今回の我々の仕事はなんですかな?」
シェーンコップがニヤケながら話しかけてくる。
「そうですね、万が一敵が証拠隠滅を計るかも知れないので、囮船に直接乗って貰う訳にはいかないのですよ。強襲揚陸艦を仕込むにも同盟艦では入り切りませんから、帝国の強襲揚陸艇ならば搭載が可能なんですが、無いですからね」
「残念ですな、しかし中佐でも忘れ物をすることがあるんですな、安心しましたよ」
「まあ、色々有りますからね」
「そうなると、此方の強襲揚陸艦で密かに後を着けて襲撃という形ですか」
「そうなってもばれますからね。今回は星間パトロールに化けて駆逐艦で囮船の通信を聞いて急行したという形になるかと。尤も暗号が無いので敵が罠だと思って来ない可能性がありますけどね」
「まあ、当たるも八卦当たらぬも八卦と言うじゃないですか。その時はその時ですよ」
帝国暦484年 1月19日 午後10時
■自由惑星同盟領フェザーン回廊 帝国軍特殊工作艦 ナイトハルト・ミュラー
フェザーン回廊同盟側出口まで進出してきた艦では、数人の民間人の姿をしたクルーがテキパキと作業をしている。姿形は民間人だがその動きの機敏さは彼等が現役の軍人だと伺わせられる状態で有る。
「中尉殿、そろそろ連絡が途絶えて48時間です。いくら何でも遅すぎます。やはり失敗したのでは?」
「手こずっているかも知れません。あと少し通信を続けてください」
一時間後、通信兵が平文の通信を傍受した。
「中尉殿。暗号文ではありませんが、通信を傍受しました」
「内容は?」
「此方アイマルラン号、機関故障により航行不能救助を求めるです」
「どうなさいますか?目標物ですが」
「向こうからの隠語符号は来ていますか?」
「符号は来ていません」
どうするか。罠の可能性も大きい、しかし罠でない可能性もある。
「中尉殿、弁務官事務所に指示を仰ぐのは如何でしょうか?」
「んー、そうなると、機を逸する事になるかも知れないが」
「更に通信文、当船は海賊の襲撃を受け死傷者多数救援を請う、救援を請う」
「まずったな。他の船の出港を疎外させた結果、この宙域に居るのは当艦だけになっている」
「中尉殿、如何されますか?」
「弁務官事務所へ連絡を」
「はっ」
『どうしたかね?ミュラー中尉』
「はっ、アイマルラン号が機関故障により航行不能救助要請が来ております」
『なるほど、巡航艦では無い訳だな、で符号は言ってきているのか?』
「いえ、ありません」
『ふむ。そうなると、罠の可能性も大きいな。無視しろ』
「閣下、宜しいのですか?」
『卿の心配も尤もであるが、今卿等が万が一捕まった場合帝国のフェザーンとの関係に罅が入りかねない、その点を鑑み放置しかない。一般商船を出港させるので、その船に紛れ込んだ他の工作船に救助を行わせる。卿等は引き続き監視のみを行う様にせよ』
「御意」
「中尉殿、本当に宜しいのですか」
「仕方があるまい、我々が、フェザーン回廊の戦場化を進める訳にはいかないのだから」
「何故ですか?」
「フェザーン回廊は広大な回廊だ、イゼルローン要塞の様に封鎖は不可能、しかも帝国の柔らかい下腹を四六時中攻撃に晒す事になるのだからな」
「なるほど」
宇宙暦793年1月20日 午前3時
■自由惑星同盟領フェザーン回廊至近 同盟軍訓練艦隊 旗艦ヘクトル
「駄目ですね。既に5時間が過ぎましたが、目標物らしき艦は微動だにしません」
「通信は、囮船が到着するまでは、暗号電文らしき物を指向性電波で発していましたが、今は発信していません」
カールセン提督もリーファも渋い顔をしている。其処へ駆逐艦座乗のシェーンコップから連絡が入る。
『司令官閣下、いっその事、向この船に襲撃を喰わせますか?』
「いかん、それは無謀だ」
「そうですよ、確かに真っ黒ですが、無謀になりますからね」
『ではどうなさいますか?』
「中佐、どうするかね?」
「そうですね。向こうが助ける気が無いのであれば、星間パトロールが救助するパターンでいきます。向こうは恐らく、此が罠だと思っているはずです。それならば、星間パトロールが接舷して抵抗の挙げ句に最後の通信で、帝国万歳とでも流してやれば、後々ヘルクスハイマー伯爵があの船に乗っていて後一歩で帝国の作戦が成功したのに、特殊工作艦が助けなかったばかりに情報が漏れたと、帝国で問題視されるでしょうからね」
「つまりは、次策の次策というわけで、帝国に不協和音を起こさせると言う事か」
「そうなります。特殊工作艦の艦長であれば、工作員として優秀な人物でしょう、それが排除できればそれだけでも御の字と考えましょう」
本当はミュラーと知っているけど、巡航艦艦長がラインハルトじゃ無かったから、こっちもミュラーじゃないかも知れないけどと、リーファは思うのであった。
『つまり我々の任務は遭難者を助ける星間パトロールですな』
「そうなります。宜しいですね、提督」
「うむ。シェーンコップ中佐、作戦を発動する」
『了解しました』
シェーンコップの言葉と共に、星間パトロールに扮した駆逐艦が囮船に通信を入れながら接舷していく、その間にも指向性の電波で特殊工作艦へ『同盟軍が乗り込んでくる、来援を請う、来援を請う』の通信が悲鳴のように流されている。
しかし特殊工作艦は微動だにしなかった。
暫く後に『艦橋の制圧直前、このまま皇帝陛下の御為に玉砕す。帝国万歳!』と流してやった。
実際は接舷のふりをした、シェーンコップ達が何もせずに飯を食っていただけであるが。
外から音源だけで聞くと、素晴らしい緊迫感が伝えられたのである。
その後、あからさまに、特殊工作艦に判るように、囮船を曳航して星間パトロール(偽)が悠々と同盟惑星方面へと移動するのを、特殊工作艦は見送るしかなかった。
帝国暦484年 1月20日 午前3時
■自由惑星同盟領フェザーン回廊 帝国軍特殊工作艦 ナイトハルト・ミュラー
同盟側の星間パトロールがアイマルラン号に接舷すると船から『同盟軍が乗り込んでくる、来援を請う、来援を請う』と悲鳴のような通信が流れ続けるが、命令であるから我慢するしかない。
「中尉殿、あれは囮じゃありません!助けにいくべきだったのです!」
艦橋内の兵達の視線は味方を見捨てた碌でなしと言う蔑んだ目で私を見ている。私だって助けたい、しかし、此処で正体がばれる危険で、今後のことを考えると仕方のないことなのだ。
暫くすると『艦橋の制圧直前、このまま皇帝陛下の御為に玉砕す。帝国万歳!』の通信を最後に通信は途絶えた。
「やはり、味方だったんだ!」
通信兵の言葉に兵達が頷き、私を見る目が更に厳しくなる。中には涙を浮かべる者もいる。我々は非常に後味の悪い気持ちを抱えながら、更に一日停泊後にフェザーンへと帰還した。
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