リング
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59部分:ローゲの試練その十三
ローゲの試練その十三
「敵の司令官自ら乗り込んで来たのか」
「はい」
艦橋には黒い髭と髪の黒い軍服とマントを身に着けた男がいた。彼がこの宙域全体の帝国軍の司令官でありかっては第四帝国で名将と謳われた男フリードリヒ=フォン=テルラムントであった。
「ローエングリン=フォン=ブラバント提督自ら」
「何ということだ」
テルラムントはその報告をあらためて聞いて顔を蒼ざめさせた。
「まさか彼自らやって来るとは」
「司令、何を恐れておられるのですか」
うろたえるテルラムントに対してその横にいる軍服の女が冷静な声で言った。見れば赤く長い髪に青い目の妖艶な美女であった。切れ長の目に白く透き通った肌、そして細長い顔をしている。
「それではその敵将を倒せばいいではないですか」
「オルトルート」
テルラムントはその軍服の女に顔を向けた。そして言った。
「簡単に言ってくれるがな」
「ローエングリン=フォン=ブラバント提督でしたね」
「そうだ」
彼は答えた。
「かって第四帝国で名将と言われた男だぞ」
「ならば司令と同じではありませんか」
オルトルートはやはり動じることなく返した。
「司令もあの国で名将として名を馳せたではありませんか。それならば今為さることがおわかりの筈です」
「ブラバント提督を倒す」
彼は呻く様に呟いた。
「そう言わせたいのだな、わしに」
「はい」
オルトルートはその紅の唇を曲げて笑った。媚惑的な笑みであった。
「おわかりでしたか」
「確かにここであの男を倒せば戦局は変わる」
敵の司令官を倒せば。それで戦局は逆転する。今の絶望的な状況からでも。それは彼にもわかっていた。だが。
「倒せるのか、あの男を」
ローエングリンは戦術戦略だけではない。剣も銃も非常に秀でたものを持っている。それはこのテルラムントも知っているのである。
「果たして」
「何、容易なことです」
だがオルトルートはそれを聞いてもやはり動じてはいなかった。
「所詮は人間なのですから」
「そう簡単に言ってくれるが」
「司令」
ここでオルトルートのその青い目が無気味に光った。赤く光っていた。
「うっ」
それを見たテルラムントの動きが止まった。そして金縛りにあったようになった。
「大丈夫です。この男には勝てます」
「勝てるのか」
「はい。ですから安心してお向かい下さい」
「わかった。それでは」
テルラムントの目から光がなくなった。そして傀儡の様に感情のない顔でローエングリンに向かって来た。
ローエングリンにはそれがどうしてなのかわかった。テルラムントの動きを見ればそれは一目瞭然であった。
「術か」
彼は言った。
「それで。テルラムント提督を操っているな」
「さて」
だがオルトルートはローエングリンのその問いにとぼけてみせた。
「何のことか」
「そしてその術。只の術ではない」
誤魔化されはしなかった。彼はそこにオルトルートの得体の知れない無気味なものを感じていたからだ。そしてそれは認識せざるを得ないものであった。
「我々の知っているどの技でもない」
「では何と仰るのですか」
「そこまではわからぬが。貴様は我々の一族とは違うな」
彼は言った。
「この銀河を治めていた我々とは。言え、貴様は何者だ」
「さて」
「そして何を考えている。答えてもらおうか」
「答えて頂きたいのならまずは生きてもらいましょう」
オルトルートは妖しい笑みを浮かべながらローエングリンに対して言った。
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