NARUTO日向ネジ短篇
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【偽らざる夜更け】
前書き
大戦中、白ゼツが化けたネジではなく本物のネジが本当に医療部隊の元に行っていたら……という話。
「えっ、ネジ兄さんが……!?」
敵が鳴りを潜めた大戦初日の晩、別の離れた場所で見張りをしていたヒナタは、従兄が倒れたと聴いて気が気ではなかった。
その場の見張りは仲間のシノに代わってもらい、ヒナタはネジの元へ急いだ。
「……あーヒナタ、お前からも言ってやってくれ。医療部隊のとこ行って休んでこいってよ」
ネジは平たい地面に敷いた一枚布の上に寝かされていて、片手の甲を目元に宛てがい疲労した様子で、その側にはキバと赤丸がいる。
「──ヒナタ様、わざわざこちらまで来なくとも大丈夫ですよ。向こうの見張りを、続けて下さい」
ヒナタの気配に気づいたネジは目元から手の甲を退け、眼を開けるのも辛そうに薄目で従妹を見上げる。
「ネジ兄さんったら、敬語になってるよ。今は身分なんて関係ない、忍び連合の仲間なんだから」
「そう……だったな。すまない、ヒナタ」
小さく息を吐いて、ネジは目を閉じる。
「あんた初日から飛ばし過ぎだぜ。自分からどんどん敵の軍勢に突っ込んで回天しまくるわ、やられそうな仲間を守りまくるわで……。そのお陰でうちの部隊の被害は最小限に留められたけどよ、そんなんじゃ身体持たねーだろ」
「クゥン……」
キバと赤丸がネジを案じ、ヒナタはふと自分のせいでもあるんじゃないかと感じてしまう。
(ネジ兄さん……傍にいる私を守るように闘ってくれて、私は足でまといにならないようにネジ兄さんと連携して闘ったつもりだけど……、気を遣わせ過ぎてしまったのかな)
「ここは私達に任せて、医療部隊の元へ行って休んできて、ネジ兄さん。敵に一時拘束されて傷も負ってるだろうし……」
「いや、大した事はない……。傷なら他の者達だって多少は負っているだろう」
ヒナタに言われても、ネジは頑なに拒もうとする。それがヒナタにとっては、悔しく思えた。
「私じゃ……そんなに頼りにならないかな」
「そんなつもりは──」
「オレらじゃ頼りねーっつってるようなもんだろが。けど今アンタが一番頼りなくなってんのを自覚しろよ。仲間ならオレらを信じて、少しは安心して休んでこいよ」
「……判った、そうしよう」
キバの言葉の後押しで、ネジは了承する。……ヒナタはそれに対し、少し寂しい思いをした。
「おっしゃ、そうと決まりゃ赤丸、ネジを医療部隊んとこに運んでってやってくれ」
ウォンッ、と赤丸が応じる。
「いや、ここからそう遠くはないし一人で行ける。キバは赤丸と離れるべきではないだろう」
「心配すんなよ、アンタを送り届けたらすぐ戻ってくれりゃ問題ねーんだから。……ほれ、赤丸が背を低くして待ってんだ、背中に乗れよ」
「あぁ……」
「赤丸、ネジ兄さんの事お願いね」
ヒナタにワフッと赤丸は応じ、背にネジを乗せて医療部隊の拠点へ向かう。
「──ありがとうな、赤丸。気を付けて戻るんだぞ」
礼を述べて背中から降り赤丸を第二部隊へ帰した後、医療部隊拠点の入り口でネジはチャクラのチェックを受け、問題なく治療用テントに通される。
「あ、ネジさん…!」
そこにはネジとは一期下のサクラがおり、ちょうど手当てを終えた怪我人が一人席を立った所だった。
「相当激戦だったみたいですね……。今すぐ手当てをしますから、上着を脱いでそこに座って下さい」
ネジは言われた通りにしてサクラを前にしたイスに座る。
「──⋯前の方は終わりましたから、今度は背中ですね。長い髪、横に流していいですか?」
「あぁ、それくらい自分でやる……」
サクラに言われて背中を向け、ネジは自分で長い髪を左側に流す。
そしてサクラはネジの露になった背中の傷を手際良く手当てしていく。
「……はい、終わりました。眼の疲労が特に激しいようだし、横になって休める場所があるのでそこで少しでも休んでいって下さいね」
「判った……すまない、サク──」
「サクラ、無事…!?」
ネジがイスから立ち上がって肌着を着ている最中、シズネが血相を変えてその場にやって来る。
「あ、ネジ君、来ていたのね」
「あぁ、はい……」
着ている途中だった肌着と上着を急いで着て整えるネジ。
「どうしたんですか、シズネ先輩。私の手が必要な手術でも──」
「いえ、そうではなくて……。いつの間にか医療忍者が数名、殺されているの」
シズネの言葉にその場の空気が一変し緊張が走る。
「医療部隊の拠点の厳重なセキュリティを、掻い潜られたって事ですよね……。これ以上犠牲が増える前にすぐに犯人を──ネ、ネジさん?」
サクラがふと見ると、ネジは白眼を発動させ医療部隊の拠点内を隈無く見透し既に敵の気配を探っている。
「ダメですネジさん、侵入した敵を見つけるのは他の忍に任せて、あなたは休まないと…!」
「このような時こそ白眼を使わなくてどうする。医療部隊の拠点が夜襲を受けているのは由々しき事態だ、おちおち休んでなどいられない」
サクラの制止も聞かず、ネジは白眼を発動したまま医療拠点内で妙な動きを捉え、その場へ急行するため救護テントを素早く出て行く。
「サクラ、私達もネジ君の後を追いましょう。今の彼に負担を掛けるのは良くないわ」
「はい…!」
シズネとサクラもネジの後に続く。
──その相手は、白眼で視る限りチャクラの乱れはなく何者かに変化はしていないかのように思えた。
物陰に潜むようにしてその場にいたのは、負傷しているらしい片腕に包帯を巻まいたセミロングの女のようで、気配を消した上で急に現れたネジに驚いた様子で振り向いた。
……忍び連合の額当てはしているようで、着用しているものから察するに砂隠れの者らしい。
「お前……ここで、何をしている」
「医療部隊の拠点に侵入し、医療忍者が数人殺されたと聞いて犯人を見つけようとしていたのよ」
「その負傷した腕で、か?」
「えぇ、ここの医療忍者には世話になったから、少しでも恩返し出来たらと思って」
「──そうか、邪魔をしたな」
ネジは背を向けて他を当たろうとした──刹那、女はネジの背に深々と小太刀を突き刺した──かに思われたがそれは変わり身の術で、ネジは既に女の背後を取り強力な柔拳を叩き込み女は声を上げられもせずにうつ伏せに倒れた時、姿がじわじわと変化し昼間大軍で押し寄せた白ゼツへとその正体を露にした。
「えっ、白いゼツが、チャクラを見破れないようにこちらの味方に変化していたというの……?」
シズネとサクラがその場に駆け付けた時には既に事は終わっていて、倒れ伏している存在にシズネが目を見開く。
「こいつはただ変化していたのではなく、その人物のチャクラそのものの姿に成りすました可能性が──」
ネジはその時ハッとした。
自分は白ゼツに背後を取られ一時拘束された上に、頭からチャクラを吸われていたではないか。
だとすれば───
「ネジさん……?」
「俺はすぐにここを離れて第二部隊に戻る!」
サクラの呼び掛けにネジはすぐにそう答え、医療部隊の拠点から足早に出て行く。
「──何か、近づいて来る…! あれは、ネジ兄さん……!?」
「はァ? もう戻って来たのかッ?」
月が時折雲間から覗く深夜、第二部隊の見張り区域に近づく者を白眼でヒナタが捉え、キバと赤丸も匂いで感知した。
「皆無事か…!?」
「何があったの、ネジ兄さん」
普段冷静な従兄の緊迫した様子が気に掛かるヒナタ。
「医療部隊の拠点が夜襲を受けた。事態はすぐに収束したが、やはりどの部隊もいつ襲撃されてもおかしくはない……。だからすぐ戻って来た」
「どこ居たって気が休まらねーか……。これが戦争なんだな」
ため息混じりに言うキバ。
「──ヒナタ、少しの間でいい。二人だけで話したい事がある」
「え…?」
「おいおい、こんな時に何だ?」
「こんな時だからだ。……頼む、ヒナタ」
茶化し気味のキバをよそに、憂いを帯びた表情でネジはヒナタを見つめる。
「うん……いいよ、ネジ兄さん」
他の者達から距離を置き、月明かりの元荒涼とした場所に二人きりになるネジとヒナタ。
「医療部隊の拠点で、身体を休められる時間がなかったみたいだけど……眼の調子は大丈夫なの、ネジ兄さん」
「あぁ、大した事はない。それよりも、ヒナタ」
先程まで背を向けていた従兄がふと、ヒナタに振り向き不意に強く抱き寄せる。
「ね、ネジ兄さん…!? どうしたの、急に……」
「今、伝えておかなければならない事がある。……これが、最期になるかもしれないから」
耳元の声が、微かに震えているようにヒナタには感じた。
「ダメだよ、ネジ兄さん……。私達は生きて、この戦争を乗り越えるの。最期かもしれないなんて、言わないで……」
慰めるようにネジをぎゅっと抱き返すヒナタ。
「互いに、いつどうなってもおかしくはない……それが戦争だ、だから───」
「ネジ、兄さん……」
「ヒナタ⋯──死んでくれ」
「……え」
いつの間にかかなりの力で抱き竦められ、耳元で囁かれた言葉にヒナタは背筋が凍りつく思いがした。
鋭利なもので後頭部を刺される瞬間、その刃先は宙を舞い遠くにカランと落ちる前にヒナタは強い力で後方に引っ張られるように抱き竦められていた相手から引き離され、その直後ドスッと鈍い音がして倒れ込む音も耳にした。
「えっ、ネジ兄さんが、二人…!?」
ヒナタは強引に相手から引き離される際、思わず白眼を発動もせずに眼を瞑ってしまったが、次の瞬間に眼を開いて見た光景は、仰向けに倒れているネジとそれを見下ろすように立っているもう一人のネジだった。
(チャクラの性質は、どちらもネジ兄さんそのもので、どちらかが変化しているようには視えないのに……あっ)
倒れている方のネジが見る見るうちに別の存在と化し、昼間大軍で押し寄せた白ゼツだと分かった時には、敵だと見破れなかった自分をヒナタは恥じた。
「──⋯大丈夫か、ヒナタ」
その落ち着いた声音に、ヒナタは我に返って本物のネジに顔を向ける。
「こいつは、奪ったチャクラの性質すら本人に成りすます事が出来るようだ。感知タイプや白眼ですら、見抜く事は難しい」
冷静に述べる従兄に、先程とは違って安堵感を覚えるヒナタ。
「そう、だったんだね……。様子が少し、おかしいとは思ったけど……私には、偽者だって見抜けなかった」
「無理もない。……とにかくこの事を、他の皆にも知らせなければ」
「うん……。ネジ兄さん、身体と眼の具合は──?」
「俺の事は気にするな、──行こうヒナタ。この戦争はまだ、始まったばかりだ」
《終》
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