レーヴァティン
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第五十六話 ミラノの街その六
「何歳だよ」
「これでも二十歳よ、外の世界だと」
「ってことは大学生かよ」
「八条大学のね」
「ってことはな」
まさにとだ、正も理解した。
「俺達と同じか」
「起きたら現代の日本にいるよ」
「そうだよな、中学生かって思ったぜ」
「小学生って言われることもあるよ」
少女は笑ってこうも言った。
「中学生って言われるだけましだね」
「小学生か。確かにな」
「何しろ小さいからね」
「一四四位か?」
「一四四・五だよ」
笑ったまま自分の身長を言ってきた。
「それだけだよ」
「一四四・五か」
「そうだよ、予想より大きかったね」
「ほんの〇・五センチだけれどな」
「それでも大きいことは大きいよ」
「だからいいのかよ」
「うん、とにかく小さいのは自分でもわかっていて」
それにとだ、少女は正にさらに話した。獣達は今は少女の後ろで整然と集まって無言で立っている。
「気にしていないから」
「小柄でもいいんだな」
「小柄は小柄で可愛いって言われるからね」
だからだというのだ。
「私はそれでいいの」
「そうなんだな」
「子供料金でいけたりするし」
「ちゃんと運賃とかは払えよ」
こう言うのも忘れない正だった。
「ちゃんとな」
「小学生って間違えられても」
「払えよ、そんなことをしないとな」
「しないと?」
「ああ、駄目だろ」
それこそというのだ。
「払うものは払えよ」
「結構徳してきたけれど」
「それは悪徳って言うんだよ」
否定する言葉でだ、正は少女に告げた。
「全く、悪い奴だな」
「そこまで言われるなんてね」
「ああ、とにかくな」
「これからはっていうのね」
「ああ、払うものは払え」
具体的に言うと運賃や入場料を誤魔化すなというのだ。
「子供じゃないって言ってな」
「お風呂屋さんのお金も」
「当たり前だろ」
正はまた言った。
「それも」
「世知辛いわね」
「世知辛いっていうか常識だろ」
「せこいことするなっていうのね」
「ああ、確かに小学生に見えるけれどな」
その背と童顔はというのだ。
「それでもな」
「やれやれね」
「やれやれじゃないだろ、この島でも子供にはそうしたサービスあるけれどな」
「利用してるわ」
こちらの島でもというのだ。
「しっかりとね」
「本当にせこく悪い奴だな」
「間違えられたらそこで、でしょ」
女は正に悪びれない態度で返した。
「もうそれでいいやってなるじゃない」
「だからその理屈はおかしいだろ」
「じゃあ私が二十歳って言って信じられる?」
「起きた世界じゃランドセルが似合うな」
つまり小学生にしか見えないというのだ。
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