リング
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52部分:ローゲの試練その六
ローゲの試練その六
ミュンヘンの市民達はローエングリンとその艦隊を笑顔で迎えた。彼等も帝国軍を恐れていたのであった。
「司令、よく来られました」
ミュンヘンの行政責任者であったホーエンが彼を出迎えた。
「おかげで。帝国の魔の手から逃れることができました」
「帝国軍の手、からですか」
「はい」
ホーエンはそれに頷く。
「実はよからぬ噂が立っておりまして」
彼は言う。
「帝国軍は。自分達に反対する者達に対して巨大な竜を差し向け何もかも破壊するそうです」
「竜ですか」
ローエングリンにはそれが何かすぐにわかった。
「ファフナーですね」
「そう言われるのですか」
「ええ。ですが御安心下さい」
彼はここで民衆を落ち着かせることにした。
「その竜はこの辺りにはいません」
「本当ですか!?」
「はい。どうやらニュルンベルグ方面にいるそうです」
このミュンヘンとは全く違う場所であった。
「ですから。御安心下さい」
「わかりました。それでは」
ホーエンもそれを聞いて安心したようであった。ほっと胸を撫で下ろしていた。
「市民にもそう伝えます」
「お願いします」
「そして暫定的にこの星系の責任者に推薦したいのですが」
「私をですか」
「はい」
ホーエンはにこりと笑って頷いた。
「軍の司令官として。非常時として」
「ううむ」
帝国においては非常時には軍の司令官若しくは執政官が行政と軍事の双方を統括する権限がある。だからヴァルターも軍を率いていたのであった。
「如何でしょうか」
「他に適任者はいないのですね」
「地位も。そして家柄も」
「わかりました」
他にいないのでは仕方がなかった。彼は五個艦隊を率いる司令である。地位としては申し分はない。そして家柄であるが第四帝国においては議会制もあるが同時に封建制も残っている。家柄もまた重要な意味を持つのである。
ローエングリンのブラバント家は帝国にあっては名門と言えた。叔父は皇帝の側近を務め、それ以前から代々高官を輩出している。数年前に亡くなったローエングリンの父もまた政府において重要な地位に就いていたのである。それを考えるとやはり彼は適任者であると言えた。
「では謹んで引き受けさせて頂きます」
「有り難うございます」
ホーエンはそれを聞いて頭を垂れた。
「ではこのミュンヘンを宜しくお願いします」
「わかりました。このブラバントの家門にかけて」
封建制にあっても家門は最も重要なものの一つである。とりわけブラバント家の様な名門にとっては。つまりこれは彼にとって強い誓いの言葉であったのだ。
「このミュンヘンと民達の命、守り抜いてみせましょう」
こうして彼はミュンヘンの行政の最高責任者ともなった。そして本拠地をミュンヘンに移しそこから帝国を迎え撃つことになった。そしてその帝国軍が遂にミュンヘンの側にまでやって来た。
「帝国軍が来ました」
「うむ」
既に彼は出陣していた。そして星系の外縁において陣を敷いていた。五個艦隊である。
「敵はそのままこちらに向かって来ます」
「一直線にだな」
「はい」
艦隊司令の一人であるクライバーがそれに応えた。
「そのまま来ます。では予定通りに」
「うむ。あれで行こう」
「わかりました。では」
すぐにローゲが起動させられる。
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