真田十勇士
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巻ノ百三十八 仇となった霧その四
「あちらまでな」
「左様ですな」
「この霧では」
「真田殿の軍勢にもです」
「辿り着けず」
「真田殿もですな」
「霧隠殿の力を用いられぬ」
後藤は苦い顔のまま話した。
「そしてな」
「この霧の中でどうするか」
「問題はこのことですな」
「この霧の中どう戦うか」
「このことですな」
「そうじゃ、この辺りのことはわしも頭にある」
地の利はあるというのだ。
「だからここはまずは小松山に行くぞ」
「あの山にですか」
「そしてですか」
「山を制してですな」
「そのうえで」
「幕府の軍勢と戦うぞ」
まさにそうしてというのだった、そして実際にだった。後藤は己の兵をまずは小松山に進ませた。そうしてだった。
後藤は敵の報をすぐに聞いた、先陣が見事山の頂に達したと聞いてから。
「よいな」
「はい、山を押さえましたし」
「そうしてですな」
「迫る幕府の軍勢を迎え撃つ」
「そうするのですな」
「そうせよ、数では我等は大きく劣るが」
それでもと言うのだった、率いる兵達に。
「そうしてな」
「はい、真田殿毛利殿の軍勢が来られるまで」
「霧も晴れて」
「そうしてですな」
「その時までは」
「凌ぎきるぞ」
そうして合流してからあらためて攻めようというのだ、こう告げてだった。
後藤は小松山において戦いはじめた、まずは敵の先陣である水野日向守勝成が率いる先陣が来た。そしてだった。
「後ろにはですな」
「松平少将殿の軍勢が来られていますな」
「そして伊達殿の軍勢も」
「左様ですな」
「うむ、相手にとって不足はないわ」
後藤は笑みさえ浮かべて家臣達に言葉を返した。
「ならばな」
「ここは、ですな」
「思う存分戦いましょうぞ」
「相手は名立たる方々」
「何も惜しくはありませぬ」
「そうじゃ、思う存分戦うのじゃ」
こう言ってだった、後藤は兵達を小松山に布陣させてそうして山を駆け上がって来る幕府の軍勢を迎え撃っていた。
後藤は善戦し敵を引き寄せていた、だが。
政宗はその後藤と彼の軍勢がいる小松山、まだ深い霧の中に覆われているその中で残念そうに話した。
「惜しいな」
「後藤殿はですか」
「そう言われますか」
「うむ」
こう己の家臣達に答えた。
「一騎当千の御仁であり采配も見事であるが」
「この度の戦で」
「散られますか」
「今の幕府の軍勢を凌ぐには数が少ない」
後藤が率いる兵の数を見ての言葉だった。
「その為にじゃ」
「押されてですか」
「我等の数の前に」
「そうしてですか」
「遂には」
「敗れるわ、午前で終わりじゃ」
後藤と彼の軍勢はというのだ。
「後藤殿の軍勢の数は二千六百程度であろう」
「その様ですな」
「それに対して我等は一万」
「伊達家の軍勢だけでもです」
「水野殿の先陣は一万二千」
先陣のことも言われた。
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