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艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~

作者:V・B
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第六十五話

 
前書き
どうも、紙面上の戦いにより、離脱しておりました。再開です。 

 

 
朝、俺は肌寒さを感じて目が覚めた。
 
…………なんか、変な夢を見た気がした。なぜか、青葉と変な得たいの知れないお面をつけた奴が出てくる夢だった。
 
前にも何回か夢は見てきたけど、断言できる。今回の夢はどうでもいい夢だ。
 
俺は前屈みになっていた体を起こし、大きく伸びをする。椅子で寝たからか、体の節々が若干傷む。こんな痛みがすぐに直るのが艦娘の特権だな、と思った。
 
「あ、起きました?」
 
声のした方を向くと、そこにはエプロン姿で鍋を持っている春雨が、笑顔で立っていた。
 
おいおいおいおい、なんだこの春雨の新妻感は。
 
「…………似合ってるな。」
 
「へっ?」
 
「あ、いや…………なんでもない。今何時だ?」
 
俺は思わず出てしまった本音を誤魔化し、春雨に時間を聞く。
 
「えっとですね…………○五○○ですね。」
 
春雨は壁に掛けられていた時計に目をやる。
 
ふむ、いつもより長く寝たわけか。まぁ、なれない場所でなれない体勢で寝たんだから、当たり前か。
 
「そうか…………さてと。朝めし作ってるんだろ?手伝うぜ?」
 
俺は椅子から立ち上がると、春雨の近くに歩み寄った。
 
「あ、ありがとうございます!えっとですね、やっぱり朝御飯にはお味噌汁かなーっと思いまして…………。」
 
成る程、だから鍋を取り出してたわけか。
 
しかし、朝メシに味噌汁か…………最早狙ってるとしか思えないな。
 
「しかし、皆爆睡してんな…………。」
 
俺はカウンターの中から食堂の中で寝ている全員を眺める。
 
皆、子猫のように一ヶ所に集まって寝ていた。寒いのだろうか。よくよく見ると、阿武隈が山城の上に完全に乗っかっているけど、大丈夫なのか?
 
「…………あれっ。」
 
俺はそれを眺めていて、あることに気付く。
 
その集団から、少し離れたところ。そこに置かれている椅子に、一人座って寝ている奴がいた。
 
「…………なんで若葉はあそこで寝てるんだ?」
 
そこには、先程までの俺の体勢に似た格好で寝ている若葉がいた。
 
「うーんと、昨日からあんな感じで寝てたんですけど…………分かりません。」
 
春雨はそんな若葉の様子を見て、寂しそうな顔をした。そう言えば、昨日の寝る前にも春雨は何やら、若葉に対して変な情熱を燃やしていたような気がする。
 
「……まぁ、なんだ。ただただ環境が酷いってだけじゃなさそうなんだよな。拓海の態度を見てると。」
 
拓海の昔からの癖なのだが、なにか隠し事をするときに、それ以外の対して重要じゃないことをばらして誤魔化す。
 
ぶっちゃけた話、昨日の夜に拓海からされた話なんか、ここで生活してたら嫌でも知ることになる話だ。
 
拓海がわざわざそれを話すということは、もっと重要な「なにか」があるということだろう。
 
「んー…………そう言えば、関係あるのか知らないんですけど……呉にいた最後の日に、木曾さんや時雨ちゃんに聞いたんですけど。」
 
春雨は心当たりがあるのか、思い出すようにポツリポツリと話し始めた。
 
「千尋さんは、『呉の英雄』って呼ばれていた艦娘が居たって知ってますか?」
 
…………『呉の英雄』?
 
「いや…………知らないな。『魔神』なら知ってるけど。」
 
そもそも、呉にいた頃に聞いた昔話なんて、木曾のものぐらいだった。あれはあれで後味最悪だったっけな。
 
「なんでも、今までの深海棲艦との長い戦争の中で、唯一戦艦レ級を沈めた事があるらしいんですよ。」
 
…………まじか。あれを倒せる艦娘が過去に居たんだ。もっとも、改flagshipなんかじゃ無いんだろうけど。
 
「それで、その艦娘が数年前に、この佐世保鎮守府へ異動したっきり、行方不明になったって…………記録上は轟沈になってますけど。」
 
「そんな強い奴が、早々沈むはずが無いから…………か。」
 
俺は木曾のことを思い出す。あれが沈むだなんて、考えても無駄な気がした。
 
陸ですら死にそうにないのに、どうやって海の上で死ぬんだよ。
 
「ところで、その艦娘ってのは?」
 
俺は春雨の顔を見た。
 
「えっと、確か…………。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
戦艦、大和。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
大和って言うと…………。
 
「俺でも聞いたことあるな。大日本帝国海軍最強の戦艦だっけ?」
 
色々な作品で名前が出てくるから、下手したら日本で一番有名な軍艦では無いだろうか。
 
「一応、その認識で間違いないです。当然のごとく『始祖』で、木曾さんの師匠らしいですよ?」
 
「…………あの化け物を誕生させた張本人ってか?」
 
想像しただけで、どんな奴か会ってみたかったものだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ちひろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺はその大声を聞くや否や、食堂を飛び出していた。その弾みで山城の頭を蹴ってしまったのを知ったのは、少し後の話だ。
 
「へっ?まっ、待っててください!」
 
そんなことを言う春雨を完全に無視し、声のした方に行くと、拓海が男子トイレの前で俺を待っていた。
 
「どうしたっ!?」
 
「ついてきて!」
 
「おうっ!」
 
「速くないですか!?」
 
少し遅れてやって来た春雨が大声を上げていた。
 
「春雨!君は医務室に行って準備!急げ!!」
 
拓海はその春雨にも指示を出す。どうやら、ただ事では無いらしい。
 
「っ、はいっ!!」
 
春雨は頷くと、来た道を引き返していった。
 
「千尋、この中だ!」
 
拓海はそう言いながら、男子トイレの中に入っていった。
 
俺がそれについていって中にはいると、一つの個室の扉が開いていた。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
中を覗くと、その個室の床には、かっぽりと大穴が開いていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……………………は?」
 
思わず間抜けな声を出してしまった。
 
俺の脳味噌は、目の前にある異常な状況を理解しようと必死に働いていた。
 
「速くこい!!千尋ぉ!!!ドラム缶の中にコンクリで固めて海に沈めるぞ!!!」
 
それを邪魔したのは拓海だった。どうやら、一刻を争うらしい。
 
…………あれ、前にも似たような脅し文句を食らった気がする。と言うか、言った気がする。
 
「お、おうっ!!」
 
俺はそれらの考えを頭から振り払い、その大穴の中に入っていった。
 
俺が着地すると、拓海はすぐさまスマホの懐中電灯の機能を使って、奥を照らしながら急ぐように歩いていた。天井が低いから、俺たちの背では少し屈まないと歩けなかった。
 
「…………なんだよここ…………。」
 
俺は完全に呆気に取られていたが、更に呆気に取られるものを目の当たりにした。
 
少し進んだところで、開けた場所に出た。拓海はそこで一点にライトを向けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 そこには、一糸纏わぬ姿で鎖に繋がれた女の人が居た。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「!!!?」
 
今まで何度も驚くような事には対面してきたが、今回のはぶっちぎりの一位に輝いた。
 
女の人は、俺達が来たことに気付いたのか、こちらに顔を向けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あら……………………雫?久しぶりね……………………なんでこんなところに居るのかしら?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
二位に輝いた。
 
正直、この辺りで俺の脳味噌は完全にフリーズしていた。最早、どれから片付けたら良いのやら。
 
「千尋!この鎖を切れ!!素手じゃ無理だ!軍刀使え!」
 
そんな俺を助けたのは、またも拓海だった。
 
「お、おう!!」
 
俺は帯刀していた刀を引き抜きながら振り上げ、手足の四ヶ所の鎖に降り下ろした。
 
キィン!キィン!キィン!キィン!!
 
甲高い金属音を上げ、彼女の動きを封じていた四本の鎖は断ち切られた。
 
彼女は、自らの足で立てないのか、その場に崩れ落ちそうになってしまうが、傍らにいた拓海が抱き止めた。さらに、いつの間にやら脱いでいた上着を上から被せていた。
 
俺は軍刀をしまい、その女の人を抱き上げた。春雨ほどではないが、なかなかに軽かった。
 
俺たちはその足で、その穴蔵から出ていった。
 
 
 
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。完全に余談ですが、僕は大和はまだ持ってません。と言うか、以前大型艦建造でかなーり痛い目にあって以来、大型艦建造をしなくなりまして。大和はねぇ……欲しいんだけどね…………。

それでは、また次回。 
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