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真田十勇士

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巻ノ百三十七 若武者の生き様その九

「拙者はこの戦に勝てば信濃一国を約束されておるな」
「ですな、右大臣様から」
「あれだけの国をとのことです」
「信濃一国とは相当なもの」
「これは凄い褒美ですな」
「そうじゃな、しかし拙者はよい」
 信濃一国、それはと言った幸村だった。
「別にな」
「では他のものもですな」
「金銀財宝も刀も馬も」
「他の宝も」
「そうじゃ、茶器もいらぬ」
 そういった価値あるものはとだ、幸村は言い切った。
「何もな」
「必要なものは、ですな」
「そうしたものではありませぬな」
「殿にとっては」
「国も宝も」
「何もかもが」
「そういったものはよい、拙者は既にこれ以上ない宝を得ておる」
 だからだというのだ。
「それでじゃ」
「そうしたものはですな」
「一切よい」
「殿は既にこれ以上はないまでの宝を得ておられる」
「だからこそですな」
「それはお主達じゃ」
 十勇士達を見ての言葉だった。
「そして大助もじゃ」
「それがしもですか」
「よき息子じゃ、しかしな」
「しかしといいますと」
「この度の戦から生きて帰った時じゃが」
 幸村はその時のことをあえて大助に話した。
「お主も他の子達、そして妻もな」
「母上もですか」
「実は片倉殿にお願いしてあってな」
 伊達家の家臣の彼にというのだ。
「その嫡男の小十郎殿が今こちらに出陣されておる」
「では」
「片倉殿を頼るのじゃ」
 こう大助に言うのだった。
「よいな」
「では」
「うむ、お主達は落ち延びよ」
 大助に語る言葉は暖かいものだった。
「そして仙台でな」
「これからもですか」
「生きよ」
 これが幸村の大助への願いだった。
「そなたの母、弟や妹達と共にな」
「そう言われますか、しかし」
「お主はか」
「はい、母上や弟、妹達全てが仙台に行っては寂しいでしょう」
 幸村、父である彼に微笑んで言うのだった。
「ですから」
「ここに残るか」
「子が一人位一緒にいてもいいと思いますが」
「そう言うか」
「はい、ですから」
 それでと言うのだった。
「それがしはここに残り」
「そうしてか」
「父上と共に戦いまする」
「生き残るか」
 幸村は大助のその目を見て言った。
「例え何があろうとも」
「真田の武士としてですな」
「うむ、どの様なことがあっても生きるか」
 我が子にこのことを問うのだった。 
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