| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リング

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

29部分:エリザベートの記憶その七


エリザベートの記憶その七

 それから暫くしてタンホイザーは軍事行動を開始した。まずは一個艦隊を本拠地の防衛に置き残った艦隊で以って周辺星系を帝国の勢力圏から引き離す作戦に出た。
「この辺りに帝国軍は展開しているか」
「いえ」
 部下達はそれに答えた。
「どうやらチューリンゲンでの戦いの後退いたそうです」
「チューリンゲンは占領しなかったのか」
「どうやら。唯の遠征だったらしくて」
「ふむ」
 それを聞いてまずは考える目をした。彼はそこに帝国軍の何らかの意図を見出した。だがそれが何かまでは掴めはしなかったのだ。
「それではチューリンゲンまで彼等はいないのだな」
「はい」
 部下達は頷いた。どうやら事実であるらしい。
「チューリンゲンより離れた場所で行動しているようです」
「そしてそこでワルキューレと交戦中だそうです」
「彼等とか」
 それを聞いたタンホイザーの目が光った。
「では我々にはそれ程注意を払っていないな」
「はい」
「ではいい。そこが狙い目だ」
 彼はすぐに判断を下した。そしてその下にある軍に指示を下した。
「チューリンゲンまで進撃する」
「はっ」
「そして周辺星系を勢力圏に組み入れていく。勢力圏を築き上げていくぞ」
「わかりました」
「国力の充実にも務めよ。それでさらに艦隊を拡充させていくぞ」
「はっ」
 こうして彼はまずはチューリンゲンまで向かった。そこまでにある星系は空白地であり何の抵抗も受けず勢力圏に組み入れていった。そして彼は程なくチューリンゲンにまで入った。
「思ったより遥かに楽に帰ってこられたな」
「はい」
 チューリンゲンに降り立った彼に部下達が頷く。
「とりあえずはここまではよし」
 タンホイザーは暫くぶりに見るチューリンゲンの緑を見ながら言った。だが彼は今そこに懐かしさよりも決意を見出していた。今は懐かしさになぞ浸ることはできなかったのだ。
「大変なのはこれからだ」
「どうされますか」
「軍事と行政の拠点をここに戻す」
 彼は言った。
「そしてここから帝国軍への反撃を開始する。いいな」
「ワルキューレは」
「前にも言った筈だ。彼等が来るならば」
 その声がまたしても強いものになった。
「倒す。いいな」
「わかりました。それでは」
「まずは今動員可能な艦隊を知りたい」
「艦隊ですか」
「そうだ。何個いるか」
「陛下を御守りする艦隊を入れて三個です」
 部下の一人であるハインリヒ=デア=シュライバーが述べた。
「三個か」
「実質的に動かせられるのは二個ですが」
「まずはそれを使うか」
 彼は考えながら述べた。
「それで敵の勢力圏の後方に回っていく」
「後方に」
「そうだ。彼等が紫苑の海賊に気をとられている間にその勢力を侵食していく」
 彼は自分の考えを述べた。
「ニーベルングの軍は決して侮れない。それはわかるな」
「はい」
 部下達もそれに頷いた。彼等もバイロイト、そしてニュルンベルクの崩壊の話は聞いていた。それによりヴァルター=フォン=シュトルツィングが帝国と対立関係に入ったことも当然ながら知っていた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧