真田十勇士
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巻ノ百三十七 若武者の生き様その四
「あの御仁に負けぬ様、友として」
「友ですか」
「そう思っておりまする」
「それは木村殿もです」
彼の方もというのだ。
「思って下さっておられる」
「そしてそのことが」
「非常に嬉しいです」
「そうなのですか」
「だから悲しく思いまする」
今宵がその木村との今生の別れになる恐れが非常に高い、それでだ。
「無念にもです」
「左様ですか、しかし」
「それもですな」
「運命ですな」
今度は達観の言葉をだ、後藤は出した。
「それもまた」
「そうですな、しかし」
「はい、それがしはその運命を受け入れ」
「そしてですな」
「戦いまする」
次もというのだ。
「そうします」
「そうですか、では」
「真田殿もですな」
「そうして戦いまする、そしてそれがしは長曾我部殿と同じく」
まさにというのだった。
「生きまする」
「それでは」
「後藤殿には」
「その時にですな」
「お力を貸して頂きたいのですが」
「承知致した」
後藤は幸村に笑顔で答えた。
「大御所殿の御首を取る時は」
「是非です」
「それがしもまた」
「お力を貸して頂きたいのです」
「わかり申した、ではその時まではです」
「生きて頂けますか」
「そうしましょうぞ、何があろうとも」
幸村に約束をした、そのうえで彼等はそれぞれの陣に戻った。そしてその夜のうちにだった。木村と長曾我部は出陣した。
その出陣を見送ってだ、秀頼は共に見送った大野に言った。
「もうこれでな」
「長門守殿はですか」
「会えぬかと思ったが」
「上様、それはです」
「思ってはならぬか」
「思うのは仕方ないにしましても」
それでもと言う大野だった。
「言葉に出すことはです」
「よくないか」
「はい、申し上げるとです」
「それでか」
「言葉には力が篭っていますので」
不思議な力、霊力がというのだ。
「ですから」
「言わずにか」
「そうされるべきです」
「そうであるな、まして余はな」
「主であります故」
この天下のとだ、大野は述べた。
「ですから」
「だから余計にであるな」
「言われぬことです」
「そうであるな」
「むしろここはです」
大野は秀頼に畏まって話した。
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