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仕事

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第四章

「そうなっているか」
「ああ、服装だってそうだしな」
「バーの店員さんの服だしな」
「だったらだよ」
「あんた立派な店員さんだよ」
「この店のな」
「そうなのか、俺この店の店員か」
 このことを自分で受け入れた。そしてだった。
 この日の営業が終わって閉店した後の店内の掃除の時にマスターにこのことを話した、するとマスターも笑って言ってきた。
「ああ、実際に今のあんたはな」
「店員か」
「このバーのな」
「それが今の俺か」
「仕事はな。そして家はな」
「この店の二階だな」
「そこだよ、俺との同居人だよ」
 そうなっているというのだ、市役所にはそう届けている。立場は彼の甥ということにしてそうして同居しているのだ。
「今のあんたはな」
「ホームレスじゃないか」
「そうさ、今はそうでな」
 それでと言うのだった。
「これからその今がどんどん過去になるんだよ」
「今は一瞬だ」
 クルーエルはマスターにこう返した。
「そしてその一瞬が終わればな」
「過去になるよな」
「だから過去はか」
「どんどん増えていくんだよ」
「俺が生きている限りだな」
「そうなるんだよ」
 実際にというのだ。
「だからな」
「俺の過去もか」
「どんどん増えていくさ。今の仕事好きか」
「好きだ。仕事だけじゃない」
 クルーエルはマスターに答えた。
「飯もシャワーも外に出て遊ぶこともな」
「全部だな」
「好きだ」
「だったらその好きなことがな」
「過去になっていってか」
「どんどんいい思い出になるからな」
「いい思い出か」
 彼がこれまで考えていなかったことだ、だが。
 言われてみればその通りだと思う様になった、それで彼はマスターに答えた。
「俺にもそれが出来るか」
「この仕事が楽しいって思えるならな」
「そうか、それならな」
「これからもこの仕事をやっていくか」
「そうしていく」 
 こうマスターに言った、二人で掃除をしながら。
「これからもな」
「よし、じゃあこれからも頼むな」
「こちらこそな」
 クルーエルは笑顔になれない、だがそれでもだった。
 マスターに心からの喜びの言葉を返した、そうしてそのうえでこの日の最後の仕事である掃除を終えた、それからは二階に上がってそこでシャワーを浴びてからマスターと二人で食事と酒を楽しんで寝た。そうして明日も楽しい一日になることを願いながらベッドの中で寝た。そのベッドのぬくもりも今の彼には心地よいものだった。


仕事   完


                 2018・5・18 
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