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とある3年4組の卑怯者

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145 前哨戦

 
前書き
 堀の転校前の学校の友達・桂川美葡との対面を果たした藤木。そんな中、二人の邪魔をした四国大会の金賞者、大串啓太などにも出会う。夕方、会議室で行われた大会の必要事項連絡の後、藤木と美葡は近畿大会の金賞者・瓜原かけるが一人の男子に絡まれている所を目撃するのだった!! 

 
 瓜原は一人の男子と睨みあっていた。
「瓜原君、どうしたんだろう?」
「何だか嫌な感じに見えるワね」
 藤木と美葡はその様子を見ていた。そして瓜原とその男子の会話を盗み聞きする。
「おい、テメエ三年の癖して金賞獲りよって今度は簡単にはさせへんで!」
「別に、わいやって調子のっとらんわ」
「ふん、生意気な奴め!」
 藤木は我慢できず、声を掛けた。
「君達、け、喧嘩は良くないよ!」
「藤木君・・・」
「な、何やお前は!」
「君は瓜原君にどうしてそんなに怒ってるんだい!?」
「うるはい!オレはこいつがムカつくんや!三年生の癖に生意気に近畿大会で金なんて一億年早いんや!なんでオレはこいつに負けて銀なんや!ありえんわい!」
「で、でも瓜原君のスケートの実力は本物だよ!そんな言いがかりをつける事はないじゃないか!!」
「なんや、テメエもワイが下手くそだと言いたいんか!?」
「そんな事言ってないよ!」
「ふん!テメエらそろって本番ですっころんで恥かきやがれや!!」
 そのヒステリックな男子はその場を去った。
「瓜原君、今のは誰なんだい?」
「ああ、近畿大会で銀だった滋賀県代表の住吉重彦(すみよししげひこ)や。六年生でわいに負けて相当悔しかったんやろな」
「そうだったんだ・・・」
 美葡も会話に入る。
「私は桂川美葡よ。私も三年生で関東大会で金賞を獲ったけど、負けた人を下手だとは思わなかったワ。それにそこで銀の人は今度は私に勝とうと必死に特訓してるのよ。悔しいからってそんな人を問い詰めるなんて卑怯だワね!」
 美葡は住吉を批判した。その時、藤木は美葡の台詞に動揺した。自分の事ではないが、彼女が自分の汚名である「卑怯」という言葉を口にしたからである。
「う・・・、卑怯・・・」
「どうしたの、藤木君?」
「あ、いや、なんでもないよ・・・。そうだ、僕だって中部大会で金賞を獲った時、銅や銀の子が今度は僕を超えようと頑張ってるんだ!だったら超えるように頑張ればいいんだよ!」
「そうよね!」
「瓜原君、あんなの気にする事ないよ!僕達は僕達で頑張ろう!」
「うん、せやな」
 藤木は二人とは別れ、両親の元へ行き、滞在している旅館へと戻った。大会後の交友会に参加すべきかどうか相談するために、話しかけることにした。
「父さん、母さん・・・」
「何だい、茂?」
「大会の後に交友会っていうのがあるんだけど、参加してもいいかな?」
「交友会か、いいじゃないか。お前に友達が沢山出来るチャンスじゃないか。行って来ていいぞ!」
「父さん、ありがとう・・・。うん、行ってくるよ!」
 藤木は大会後の交友会にも参加する事になり、とても楽しみになった。


 翌日も練習だった。昨日は自由に練習だったが、この日はリハーサルである。藤木はこれまでの練習の成果を見せる時が近づくと思うと、緊張と共に気合が入った。
 スケート場に到着すると、そこには美葡が一人の女子と会話していた。昨日美葡に話しかけていた団子ヘアで頭に黄色のリボンを付けている黄花蜜代という少女だった。美匍は藤木の姿を見ると手を振った。
「藤木君、おはよう!!」
「ああ、美匍ちゃん、おはよう」
「今日も一緒に頑張ろうね」
「うん、僕も君応援してるよ」
「あら、桂川さん、その子は?」
「中部大会の金賞者の藤木茂君よ。私の友達の知り合いなの」
「へゑ、初めまして、私は黄花蜜代です。関東大会の銀賞者よ。宜しく」
「僕は藤木。宜しく。君も応援するよ!」
「ゑ?うん、ありがとう。私も藤木君応援しようかな?背が高くて何処かカッコゐゐし!」
「う、うん、僕、頑張るよ!!」
 藤木は黄花にカッコいいと言われて照れてしまった。と、その時、後ろから一人の女子が嫌みたっぷりに声をかけてきた。
「はあ~ん、んな時に敵と仲良くしてるなんてアンタら腐ってるわねん」
「・・・え?」
 三人はその女子の方に顔を向けた。
「誰よ?」
「佐賀県から来た九州大会金賞受賞者の進藤幸子(しんどうさちこ)よ。私はそんな敵と仲良くしよとは思わんと」
「別にそんなの人の勝手でしょ!?」
「そうだよ、君も突っかかるなよ!」
「ふん、九州はスケートが盛んな場所じゃないから、東日本の人間なんどに私は負けたくないんとよ!絶対にそこの女子二名には超えて見せる結果を出すとよ!」
「そう、こっちも負けないワよ!」
「場所が九州だからって、私達は別に馬鹿にするつもりはなゐけど、仲良くする事が腐ってるだなんて思ゑないわ!」
「ふん、九州の意地見せてやると!」
 進藤はそう言ってその場を離れた。
「何よ、失礼しちゃうワね!」
「あの子には負けたくなゐわ!」
「うん、美葡ちゃん、黄花さん、僕は君達が賞を獲れる事を応援するよ!そして一緒に世界大会へ行こう!」
「うん、約束するわ!」
 藤木と美葡、黄花の三人は約束を交わした。その時、遠くからその様子を一人の女子が見ていた。
「ふふん、九州だㇿうが、関東だㇿうが皆この私の実力に驚いて貰うね・・・」

 そしてまずは男子のリハーサルが始まった。やがて吉岡の番となった。
(吉岡君か・・・。確か中部大会ではトリプルルッツがシングルになって悔しい思いをしたみたいだったな・・・)
 吉岡は持ち味のトリプルルッツを決めた。そして、足換えのシットスピンを12回転決め、トリはまたトリプルルッツで決めた。
(さすがだ、吉岡君・・・)
 藤木は吉岡に感心してしまった。しかし、自分も負けるわけにはいかなかった。藤木は後半からの出場のため、最初に出る出場者の様子を控室のモニターで眺めていた。そしてすぐ近くに瓜原が来た。
「やあ、藤木君」
「瓜原君」
「皆の演技凄いと思わんか?わいらは片山さんから認められたとはいえ他の皆も手強く感じるで」
「そうだね、僕もそう思うよ」
 佐野の番が訪れた。
「あ、次は佐野君だ。中部大会で銀賞の子だよ。今度は僕より高い評価を貰おうと必死に練習してきたんだって」
「へえ、どんな実力やろ?」
 佐野が練習を始めた。佐野は高速のシットスピンを披露した。それだけではない。トリプルルッツも、トリプルループなどのジャンプの回転も素早く感じた。
「流石佐野君、猛練習してきたんだね・・・」
「あの佐野君って子もなかなかやるわな」
「うん・・・、もしかしたら僕達を超えてしまうかもしれないね・・・」
 藤木と瓜原は佐野へ何らかの威圧感を感じた。
 佐野が滑り終わると、今度は住吉が滑る番となった。
「瓜原君を責めていたあの人だね」
「ああ、あの人も実力としては上の方なんやがな・・・」
 住吉はダブルフリップ、そしてトリプルアクセルを披露した。そして軽快なステップシークエンスを見せていく。
「結構いい技術を見せるじゃないか」
「ああ、だからわいがそれだけ憎いって事なのかもしれんな」
「瓜原君」
「あの人もなかなかの実力や。それほど自分に自信がある。地区大会でも金賞獲ったって聞いたし、自分よりできる奴なんて信じられないんやな。そなワイが近畿大会で金賞を獲った時、それが気に食わなかったんや」
「瓜原君・・・。大丈夫だよ、僕はあの人の実力を認めるよ。だから君を責めるのをやめさせるように頼んでみるよ」
「藤木君・・・、でもそな簡単に行くかな・・・?」
 住吉が滑り終わると、藤木はの元へ向かった。
「あの、住吉さん」
「何やお前は。昨日瓜原を庇った奴か。何か文句あるんか?」
「いえ、文句じゃなくて、一つ言いたいことがあるんです」
「言いたい事やと?」
「はい、先ほどの貴方のスケートの技術に僕も驚きました。貴方の実力は確かです。瓜原君の近畿大会の結果が上だったようでしたが、別に貴方が下手だからというわけじゃないんです。ですから、瓜原君をこれ以上責めないで下さい!お願いします!!」
 藤木は頭を下げた。
「ほう、ほなお前は認めてくれるんか?あの野郎よりもワイの方がスケートは上手いとな。そういう事やろ?」
「う、それはわかりません・・・。どっちが上手いかなんて、でも結果が全てです。誰がいいかなんて審査員が決める事です。僕には何も言えません!!」
「なんやて!?生意気な奴やな!」
 住吉は藤木を殴ろうとした。その時、藤木の背後から・・・。
「おい、そこの君、やめんか!!」
 藤木は振り返ると、そこには片山が立っていた。
「片山さん・・・」
「滋賀県の住吉重彦だったな。自分の実力が一番だと自信過剰になって相手の実力を認めないなど、器が小さいぞ!!」
「う・・・」
「それに誰が上手いか下手かなど個人の主観によって異なる。自分の主観を他人に押し付けるな!分かったか!!」
「は、はい!!」
 住吉は気に食わなさそうに去った。
「片山さん・・・。すみません、喧嘩を止めてくれて」
「何、いいのだよ。こんな事でくだらん乱闘などフェアでないからな」
「はい・・・」
「藤木君、君の演技、楽しみにしているぞ。私は君と瓜原君がメダルを獲れると予想している。ただし、他の出場者達にも気をつけなければならないぞ。では君の練習の番を楽しみにしている」
 片山はギャラリーへと向かった。
(片山さん・・・。よし、絶対にここにいる多くの出場者に負けるわけにはいかない!絶対に応援しに来るリリィ達のために、無理をしてまで駅で僕を見送ってくれた笹山さんのために、僕を大会に出る事を勧めてくれた堀さんやみどりちゃんのために、僕に期待をしてくれている片山さんのために、そして、世界一を目指す自分のために・・・・!!)
 藤木はさらに燃えていた。そして控室に戻り、自分の練習の番を待つのであった。 
 

 
後書き
次回:「予行演習(リハーサル)
 藤木達は最後の練習としてリハーサルに臨む。そして、リリィ達クラスメイト達も藤木の応援のために花輪家の自家用飛行機を利用して盛岡へと向かう・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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