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リング

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19部分:ファフナーの炎その十八


ファフナーの炎その十八

 実際に戦ってみるとやはり呆気無く終わった。ヴァルターの軍は包囲陣形を組み瞬く間に敵艦隊を一掃した。敵の司令官であるグレイプは彼が乗っていた旗艦と運命を共にし、残った者達は皆投降した。彼はここで前から気付いていたことをまた気にした。
「不思議だな」
「何がでしょうか」
「帝国軍の将兵のことだ」
 彼は言った。
「といいますと」
「何か。洗脳にかかっている様な気がする」
「洗脳に」
「そうだ。捕虜になってみると急に大人しく従順になる。それまでは勇敢であってもな」
「そういえば」
 それに部下達も頷いた。
「それに上級将校、特に司令官クラスは全く投降しない。あくまで戦おうとするな」
「はい」
「最後には自害するかこちらに特攻することが多い。大抵はその前に倒してしまっているが」
「帝国軍の将兵も元々は第四帝国に属していた者達が殆どですが」
「だが司令官クラスは違う様だな」
「そのようですね」
 それに部下の一人が応えた。
「彼等はとりわけおかしいな」
「おかしいですか」
「ああ。洗脳、いや、それ以上のものを感じる」
 ヴァルターは言葉を続けた。
「まるで心自体がないようにな。これはどういうことだ」
「ニーベルングに絶対の忠誠を誓っているのでは」
「その忠誠の根拠は何だ。ニーベルングは確かに軍人としても名を知られた男だが」
「はい」
 これは事実であった。だからこそ若くして帝国軍宇宙軍総司令官となったのである。まだ二十代でありながらそれだけの要職にあったということが彼の非凡さを如実に表わしていた。
「それだけであれ程絶対的な忠誠を誓うだろうか」
「彼にそれだけのカリスマ性があるのではないでしょうか」
「ではそのカリスマ性の根拠は何だ」
 ヴァルターはまた問うた。
「それも司令官クラスにだけだ。どう考えてもおかしい」
「彼が何かしているのではないでしょうか、それでは」
「そうだな。それについても暫く調べてみるか」
「はい」
「ところで帝国軍の残存戦力はあるか」
「ナイティングに少し残っている様です」
 参謀の一人が答えた。
「ナイティングにか」
「そしてそこに降下したジークムント=フォン=ヴェルズング提督の軍と交戦中の様です。どうやらヴェルズング提督の軍が劣勢にあるようですね」
「そうか」
「どうされますか、司令」
「ここはヴェルズング提督を援護しよう」
 彼はそう決断を下した。
「彼もまた帝国軍と戦っているのだからな。言うならば同志だ」
「わかりました。それでは」
「陸戦部隊降下用意」
 すぐに指示を下した。
「私も行こう。そしてヴェルズング提督を助けるぞ」
「ハッ」
 こうしてヴァルターは軍を率いてナイティングに降り立った。そして各所を占領しながらジークムントのいる場所へと向かうのであった。
 陸戦部隊は順調にナイティングの各地を占領していった。その順調さにかえって不審なものさえ感じる程であった。
「妙だな」
 それを感じてヴァルターが呟いた。
「上手くいき過ぎている」
「おかしいですか」
「ああ。やけに手薄ではないか」
「確かに」
 陸戦部隊を率いるオルテルがそれに応えた。
 
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