とある3年4組の卑怯者
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142 盛岡
前書き
スケートの全国大会の開催の地・盛岡に旅立つことになった藤木。見送る者なしで清水駅を去るかと思った所、笹山が見送りに現れ、藤木は彼女に世界大会への出場権を勝ち取る事を約束するのだった!!
藤木は東海道新幹線に乗車し、車窓を眺めていた。
(どんなライバルが待っているんだろうか・・・。でも僕だって必死に練習したんだ。負けないぞ!!)
藤木は全国大会での入賞、そして世界大会への出場を己に、そして応援してくれる皆に誓っていた。
入江小学校の3年4組の教室ではリリィはまる子、たまえと共に藤木の話をしていた。
「いやあ、藤木もスケートならやるねえ」
「うん、本当に藤木は冬の男だよ」
「そうね。私も藤木君ってあんなに氷滑りが上手いなんて驚いたわ」
「そういえばリリィは中部大会の時藤木の応援に行ったんだってねえ」
「え、ええ」
「やっぱり花輪クンとどっちがカッコイイの~?」
「あ、う~ん・・・」
リリィはまる子の不意な質問に回答に詰まってしまった。
「まあ、いいよ。アイツが好きになってるだけだもんね」
「う、うん・・・。でも滑る藤木君もかっこよく見えたわ・・・」
「へえ~」
同じ頃、山根は永沢と藤木について話をしていた。
「藤木君、今日出かけたんだね。藤木君の活躍が楽しみだよ」
「でも藤木君は卑怯だからね。もしかしたら怖がって逃げるんじゃないのかい?」
「永沢君、君はどうしてそんな事言うんだい?藤木君を応援していないのかい?」
「ふん、藤木君にそんな度胸があると思うのかい?きっとプレッシャーで怯えるんじゃないかと僕は思うな」
「永沢君、失礼だよ、君は!君も盛岡へ行くんだろ?!応援しようよ!!」
「う・・・?」
その時、まる子達も永沢の話を聞いたのか近寄ってきた。
「永沢!あんた藤木の事をそんな事言って酷いね!じゃあアンタは何しに盛岡に行くのさ!!」
「そうよ!藤木君の応援する気ないなら行かなくてもいいじゃない!」
「永沢、藤木とは友達でしょ!?応援しようよ!!」
永沢は文句を言われて何も言い返せなくなった。実は永沢は花輪が藤木の応援のために皆を自家用の飛行機で盛岡まで連れて行くと行った時、永沢も応援に行くとは言った。しかし、本当は自分の家が火事に遭い、新しい家を建てるために、借金をしているため、旅行をする余裕はない。そのため、実際は旅行目的で行くと言ったのだ。
「うるさい!藤木君が友達だって!?向こうが勝手にそう思ってるだけさ・・・!!」
永沢はそう言って自分の席に着いた。
「嫌な奴だね!!」
「うん、本当に酷いよ!」
まる子とたまえは永沢を非難した。
(藤木君、貴方ならきっと優勝できるって信じているわ・・・)
リリィは藤木を信用していた。なぜなら藤木のスケートの実力は本物だから。
藤木を乗せた東京行きの新幹線は間もなく終点に到着する所だった。藤木達は荷物を持ち、ドアの方に向かった。
列車は停車した。藤木達は下車すると、東京駅のホームを見回した。
「東京って本当に大きい建物が多いね」
「そうだぞ。日本の首都なんだからな」
藤木一家は駅の巨大な通路の中にあるそば処で昼食を食べる事にした。
江尻小学校の3年3組の教室ではみどりと堀が藤木から届いた返事を見せていた。
「堀さん、私、藤木さんに手紙出したら返事が戻ってきました!!」
みどりは手紙を堀に見せた。
みどりちゃん
手紙をどうもありがとう。僕の目標を必ず果たすために絶対に金銀銅のどれかを必ずとるよ。それじゃあ、行ってくるよ。
藤木
「ああ、藤木さん。頑張ってください!私こんなお返事を貰えて本当に嬉しいです・・・!!」
みどりは藤木から返事を貰えた事が非常に嬉しかった。
「うん、よかったわね。私も手紙出したら届いたわ」
「堀さんにも返事が来たんですか!?」
「うん、でもこの前藤木君の学校で大変な事が起きてね、藤木君の友達が入院しちゃったんですって」
「ええ!?」
堀は自分に届いた藤木の返事をみどりに見せた。
堀さん
手紙をありがとう。僕、絶対に世界大会への出場権を取るために絶対に賞をとるよ。桂川美葡ちゃんって子に会うのも楽しみしているよ。それからお願いあるんだ。前に僕の学校の同じクラスの笹山かず子さんって女子に会った事を覚えていますか?この前僕の学校で暴力事件があって大怪我をしてしまって今は〇×総合病院に入院しているんだ。できればお見舞いに行ってあげてくれますか?あの時会った時は喧嘩してしまっていたけど、不幸の手紙の事で僕を元気づけさせた時のように笹山さんを元気づけて欲しいんだ。それじゃあ、行ってきます。帰ってきたらまた一緒にスケートしに行こう。
藤木
「ぼ、暴力が起きたんですか!?恐ろしい!!」
「うん、その藤木君の友達の笹山さんって子が入院してるの」
「堀さん、藤木さんのお友達なら行かないわけにはいきません。是非行きましょう!!」
「ええ、そうね」
みどりの積極的な行動に堀は少し動揺したが、自分も藤木の為なら笹山の見舞いに行って元気づけようと思った。みどりを学校の皆に馴染めさせた時や不幸の手紙で責められた藤木を元気づけさせた時と同じように。
藤木達は昼食の後、上野駅に移動し、青森行きの特急に乗車する予定になっていた。夜に盛岡に到着する予定だった。
「茂、緊張しているのかい?」
母に聞かれて藤木はドキッとした。
「う、うん、ちょっとね」
「大丈夫だよ。茂の得意な事を全て見せればいいんだよ」
「うん、そうだね。頑張るよ」
その後、藤木はしばらくは北関東、そして東北へ向かう列車の車窓を眺めていたが、暫くして眠ってしまった。
藤木が目を覚ました頃には空が暗くなっていた。
「母さん、ここはどこなんだい?」
「北上駅を過ぎたところだよ」
「そうか。盛岡はいつ頃着くんだい?」
「あと1時間もしないんじゃないかな」
「そうか。ありがとう」
藤木は暗くなる車窓を再び見た。
(緊張するけど、楽しみもいっぱいだな・・・)
藤木は緊張、楽しみ、そして次の舞台に進む決意で溢れさせた。
盛岡に到着した。岩手県盛岡市。岩手県の県庁所在地で安土桃山時代に南部氏が盛岡城を築いて以降、城下町として栄えた場所である。また、岩手県は石川啄木や宮沢賢治の出身の県としても有名である。藤木達は列車を降りた。
「ここが盛岡か・・・」
藤木達は予約している旅館に泊まった。そして明日は練習のためにスケート場に行くつもりであった。旅館の部屋で藤木は遊園地で買った猿のストラップを取り出して見ていた。
(笹山さん・・・。僕も頑張るから君の怪我も全部治るように祈ってるよ・・・)
後書き
次回:「飛騨娘」
男女問わず様々な出場者と交わる藤木。片山や中部大会で銀・銅を獲った佐野や吉岡と再会し、さらに瓜原かけるという男子の滑る姿に驚き、そしてとある少女が藤木に話しかける・・・。
一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
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