千雨の幻想
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10時間目
「ここに、3-A防衛隊結成ですよ!!」
ネギ、刹那、明日菜の三人は手を合わせ、この3-Aの生徒を関西呪術協会の魔の手から守ろうと一致団結する。
桜咲刹那は元は関西呪術協会の人間である。
そんな人間が関東魔術協会に協力し、ネギ先生が関西呪術協会の長への親書を渡すことを手助けするということはそれに反発する一部の関西側から見れば裏切り行為に等しい。
しかし、そんな彼女にももちろん理由がある。
関東魔術協会の理事の孫娘であり、関西呪術協会の長の一人娘である近衛木乃香がそれであった。
木乃香と刹那は幼馴染であり、小さいころはよく一緒に遊ぶほど親しかった。
けれどふとした事故により自身の無力さを実感した刹那はより自分を律し、木乃香を守るために修練を重ね、木乃香と距離をとる道を選んだ。
そのせいで、木乃香がどれほど悲しい思いをしようと。
それを木乃香本人から聞き、刹那から聞いたネギと明日菜の両名はいっそう気合をいれ、冒頭へと繋がることになった。
そして、それを聞いていたのがこの場にもう一人。
(はぁ、まったく……どうも桜咲は硬すぎるというかなんというか、もうちょっと融通をきかせられないものかねぇ)
物陰から彼らの会話を盗み聞きしていた少女、千雨は二組の主従を思い浮かべる。
片や吸血鬼と人間の主従、片や亡霊と半人半霊の主従である。
どちらの従者も主を敬いつつ、主の障害となるものは率先して排除し、時には主の手足となりありとあらゆることをこなしていた。
けれどだからと言って刹那ほど滅私奉公しているわけではなく、むしろ主と良好な関係を築いているといっていい。
彼女らと刹那を比べるとどうしても年相応の未熟さというべきものが顕著に現れてしまい、その部分さえ払拭できればもっと効率よく護衛できるし、近衛と良好な関係になれるのになと千雨は思った。
そこまで思ったところで千雨は眼鏡を外し、思考を切り替える。
ただの一麻帆良学生から、幻想郷の魔法使いへと。
(出入り口付近はさっき桜咲が呪符を張ってたから一応は大丈夫のはず、なら私がするべきことは……)
考え、最良と思った選択を導き出す。
(……よし、いける、最悪私が一から十まで介入するはめになりそうだが、少しくらい仕返ししねえとなぁ)
くくく、と怪しげに笑いその場を去る。
……まさかネギ先生が敵である呪符使いを招き入れてしまったことなど想像もせずに。
事態が動いたのは麻帆良学園の生徒のほとんどが寝静まった夜のこと。
関西呪術協会の呪符使い、天ヶ崎 千草はサルのキグルミを纏い、京の夜を駆けていた。
その腕の中には木乃香が眠っており、彼女はものの見事にネギたちを出し抜いて木乃香をさらう事に成功したといえる。
もっとも、ただ出し抜かれたネギたちでもなく、彼女の後方から木乃香を取り戻そうと追いかけているのが千草にもわかった。
彼女はあらかじめ計画しておいた逃走ルートである人払いの結界を張っていた駅へ駆け込み、そのまま人っ子一人いない電車へ乗り込む。
ネギたち三人と一匹も共に乗り込むことに成功するが、それは彼女の想像通りであった。
彼女は隣の車両に移る際に式神のサルに一枚の札を彼らに向かって投げつけさせる。
「お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす」
彼女がそう唱えると、お札から大量の水が溢れ出し、ネギたちがいる車両をたちまち水で満たしてしまう。
あわや水死しかけるところであったが、刹那は水中で神鳴流の技の一つである斬空閃を放ち、千草がいる車両の扉を切断、彼女ごと水流に巻き込んで逃走を防ぐ。
また、運よく隣駅に到着したことで乗降口の扉が開き、車内の水がすべて吐き出されたことで彼らは溺死を免れることとなる。
「はぁはぁ、なかなかやりますな しかし、お嬢様は返しまへんえ」
そういって水ごと排出された際に式神のサルに預けた木乃香を抱いて、再び逃走を開始する。
しかしその逃走劇も長くは続かず、京都駅の大階段の中間部分に差し掛かったところでキグルミを脱ぎ、ネギたちを見下ろす。
「さあ、これは越えられまへんやろ! 三枚符術・京都大文字焼き!」
彼女が放った札は瞬く間に階段を埋める炎となり、彼らの行く先を阻む。
自身の勝利を確信した千草だったが、考えが甘かった。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 吹け一陣の風、風花 風塵乱舞!!」
ネギが放った魔法が、千草の炎を吹き飛ばす。
「能力発動、神楽坂明日菜!!」
さらにネギは仮契約カードの能力の一つを発動させ、パートナーだけが使用することができる専用アイテムを明日菜へ渡す。
専用アイテム、ハマノツルギというハリセンを握り締め、刹那と共に千草へ斬りかかる。
対する千草は大きなキグルミサイズの式神二体によって彼女らを受け止める。
間抜けな見てくれとは裏腹に、強力な実力を有するそれを千草は足止めに使用し、逃走しようと考えたが、明日菜が斬りかかったほうの式神が呆気なく消えてしまう。
彼女の持つ魔法無効化能力、それをたずさえたハマノツルギの一撃は魔法や気を無効化する、それは召喚された式神は同じである。
自身の力を理解した明日菜はもう一体の式神を引き付け、刹那が千草へ迫るが、そこに乱入する人物が現れた。
「どうも~~神鳴流、月詠いいます~~おはつに~~」
長短二本の小太刀を携えた刹那と同い年くらいの少女、月詠である。
そのおおらかな雰囲気とは裏腹に彼女の剣技は鋭く、刹那も容易に彼女を倒すことができず完全に足止めされる形となった。
これで完全に二人を足止めできたと安心する千草だったが、彼女はここにもう一人、先ほど自身が作り出した炎を消し飛ばした魔法使いの存在を忘れていた。
「魔法の射手、戒めの風矢!!」
無防備だった千草へ11の風の矢が迫る。もはやこれまでかと思われた千草がとった行動は彼女にとってもっとも逆鱗に触れる行為だった。
「あひぃっ お助けぇ!」
自らさらった木乃香をネギにむける、つまりは盾にするという卑劣極まる行為だった。
「あ! 曲がれ!!」
魔法が木乃香にあたる寸前で、すべての魔法を別方向へそらす。
「あら……はは助かりましたえ、この調子でこの娘をどんどん利用させ」
利用させてもらう、と言いかけて彼女は凍りついた。
それは千草だけではない、彼女たちを見ていたネギ、戦闘中であろうとも千草へ意識を向けていた刹那やそれにつられて彼女のほうを向いた月詠、さらに異変を察知して同じく千草たちのほうを向いた明日菜、その場にいる全員が信じられないものを見た。
「ひどいなー、もうちょっとで怪我するとこやったでー」
そう話すのは千草が盾にした近衛木乃香、ただし首が本来の可動域を大きく逸脱し、180度回転した状態で千草を見つめていた。
背面にて正面、普通の人間なら死んでいるはずのそれはケタケタと笑い、手足の関節を無視して無理やり彼女へ抱きつく。
「ひぃ!? なんなんやこれは!?」
彼女は急ぎ引き離そうとするが、少女とは思えないその怪力は彼女の力では指一本すら動かすことができない。
突然の事態に硬直するネギたちと、自身のよく知る木乃香の人間あらざる行動に困惑を隠せないでいる刹那。
その硬直を打ち破ったのは一人の大きな笑い声だった。
「あはははははははあははははははは!! いやあ、こうも引っかかってくれるとは最高だわ!」
その声に一斉に千草のさらに上段、最上段で笑う一人の人間を見つける。
「あ、あんたは!」
「キツネさん!!」
麻帆良学園の制服に狐の面を身につけた少女、千雨がそこにいた。
後書き
いろいろと省略したり飛ばしたりしてるはずなのに、進みが遅いなぁ……
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