英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第32話
5月14日――――
翌日、”要請”という形で来た様々な方面の依頼をこなしていたリィンは校舎の中庭のベンチに座って休んでいるゲルドに気づき、ゲルドに声をかけた。
~第Ⅱ分校・中庭~
「フウ………」
「ゲルド、機甲兵教練の補習は終わったのか?」
「あ……リィン教官。ええ、さっき終わった所よ。何とか基礎の操作はできるようになったけど………みんなのように実戦で操作して戦える程上手くはなっていないと思うわ。」
「まあ、今の時点で機甲兵の操作が実戦でも十分通用する生徒達は非常に限られているし、それにゲルドは機甲兵どころか、常識等も違う異世界から来たんだからそんな状況で機甲兵に限らず他のカリキュラムにも1ヵ月遅れで追いつく必要があるのだから、そんなに気にする必要はないと思うぞ?」
僅かに残念がっている様子のゲルドにリィンは慰めの言葉をかけた。
「気を使ってくれてありがとう、リィン教官。でも私、この分校での生活がとっても楽しいの。だから、分校での生活が大変だなんて思った事もないわ。」
「ハハ、そうか………………そう言えば話は変わるがゲルドの部活動はテニス部だったな?」
「ええ、ユウナに誘われて体験入部をした時に”楽しい”って感じたし、クラスメイトのユウナとも協力する運動でもあるから、テニス部に入部したわ。………それがどうかしたのかしら?」
「いや、魔術やアーツを得意としている魔術師タイプ――――”魔女”であるゲルドがテニス部――――スポーツの部活動をするのはちょっと意外だと思っていたんだ。魔術師ではないけど、旧Ⅶ組のメンバーを含めた俺が知っている魔導杖の使い手達が入っていた部活動はどれもスポーツのクラブじゃないしな。……まあ、偏見だと自覚してはいるんだが。」
「フフ、言われてみれば魔導杖使いのタチアナとカイリが入っている部活も身体を動かす部活ではないわね。………私がテニス部―――身体をたくさん動かす部活動に入る一番の理由は”2度目の人生”はたくさんの人達と積極的に関わって色んな事にチャレンジしようと思っていたからなの。」
リィンの疑問を聞いたゲルドは苦笑した後静かな笑みを浮かべて答えた。
「あ………………その、ゲルドの事情はエリゼ達がある程度聞いているが………その口ぶりからすると、ゲルドの”1度目の人生”はあまり人に関わらず、何らかの目的の為にゲルドは旅をしていたのか?」
ゲルドの説明を聞き、ゲルドが自分がいた世界では死亡し、並行世界の”零の至宝”によって甦り、ゼムリア大陸に現れた事をエリゼ達から聞かされていた為ゲルドの事情もある程度知っていたリィンは呆けた声を出した後気まずそうな表情を浮かべてゲルドに訊ねた。
「ええ…………私の故郷と世界の人々の為に私は”予知能力”で見えたそれぞれの場所の”危険な未来”を避けるための予言を残していきながら、世界中を一人で旅をしていたわ………だから、別の世界のキーアのお陰で手に入った”2度目の人生”はみんなの為に孤独で生き続けた”1度目の人生”と違って、ずっと憧れていた”私が色々な人達との絆を結んだ私の為の人生”で生きるつもりなの。この世界に来た時に”予知能力”で見えたリィン教官達を含めたたくさんの人達と私が共に笑い合っている暖かい未来を見た時は嬉しかったな………私にもあんなにも暖かくて幸せな未来の可能性があるんだって………」
「ゲルド…………」
優し気な微笑みを浮かべたゲルドの様子を見つめたリィンはゲルドの頭を優しくなで
「ぁ…………」
「―――――だったら、ゲルドが見た”ゲルドにとっての幸せな未来”を叶えるためにもゲルド自身も、もっと頑張らないとな。勿論俺も教官の一人として可能な限りサポートするよ。」
(さ、早速ですか、リィン様………)
(ベルフェゴール達からは話に聞いていたけど、まさにゲルドの予言通り、ゲルドがリィンに心を寄せるきっかけをリィンが作ろうとしているわね……)
頭を撫でられて呆けているゲルドにリィンは優し気な笑顔を浮かべて答え、その様子を見守っていたメサイアは疲れた表情を浮かべ、アイドスは苦笑していた。
「リィン教官………ええ、そうね……!………未来の私もそうだけど、エリゼ達がリィン教官に恋をした理由、ちょっとだけわかった気がしたわ………」
「?何か言ったか?」
リィンの言葉に嬉しそうな表情を浮かべたゲルドはリィンから視線を逸らして苦笑しながら小声で呟き、ゲルドの様子が気になったリィンは首を傾げてゲルドに訊ねたが
「ううん、何でもないから気にしないで。」
ゲルドは苦笑しながら答えを誤魔化した。
その後ゲルドと別れたリィンは要請をこなし、時間がかかる為最後に残していたシュミット博士からの要請である更に難易度を上げた”アインヘル小要塞”の攻略を新Ⅶ組のメンバーと共に開始し、無事攻略を終えると学院の食堂で新Ⅶ組とティータにランチをご馳走し……予定の時刻も近づいたため、彼らと別れ、本校舎の戦略会議室でのブリーフィングに向かうのだった。
午後2:55―――
~戦略会議室~
「ようリィン、姫。ハーシェル教官とレン嬢ちゃんも。」
既に戦略会議室で待機していたリィンがセレーネ達と会話をしているとランディがランドロスと共に部屋に入って来た。
「あ、ランディさんとランドロス教官。」
「うふふ、ランディお兄さんとリィンお兄さんは昨夜は昔話で盛り上がっていたようね?」
「ほう、昨夜はそんな楽しい事をしていたのか。ったく、俺を呼ばないなんて水臭いぜ。俺も是非名高き”灰色の騎士”殿とランディの昔話を聞きたかったぜ。」
「アンタまで呼んだら、リィンどころか俺まで酔い潰されて今日に差し障るだろうが………実際ロイドやお嬢の成人祝いの時もどこで聞きつけたから知らねぇが、リア充皇帝やルイーネ姐さん達まで呼んで大騒ぎした挙句俺どころか主役の二人を酔い潰したじゃねえか……」
「そ、そんな事があったのか………というかそれ以前に何でレン教官がその事を……――――って、また人の記憶を勝手に読み取ったんですね?」
レンの指摘を聞いて若干残念がっているランドロスの言葉を聞いて呆れた表情をしたランディの話を聞いて冷や汗をかいたリィンだったがレンが昨夜の出来事を知っている事に気づいてすぐに理由を察すると呆れた表情でレンを見つめた。
「クスクス、何の事かレンにはわからないわ♪」
「ア、アハハ……リィン君達の仲の良さは相変わらずだね。」
小悪魔な笑みを浮かべて答えを誤魔化したレンに苦笑したトワは微笑ましそうにリィン達を見つめた。
「ま、お互い1年半前のクロスベルで色々と協力する事もあったからな。てなわけで、ハーシェル教官も俺の事はランディでいいぜ?教官同士、今後ますますチームワークが大切だろうしな。」
「ふふっ、それじゃあわたしもトワでいいですよ。よろしくお願いしますね、ランディさん!」
「おう!よろしくな、トワちゃん!」
「って、ちゃん付けは止めてくださいよ~!?」
「あら、そう?年齢よりも若く見える上可愛い呼ばれ方だし、トワお姉さんにはピッタリの呼ばれ方だと思うわよ?」
ランディの自分への呼び方にトワが不満を口にするとレンはからかいの表情で指摘した。
「アハハ……そう言えばランディさんはわたくしやエリィさん、アルティナさんの事もそうですが、ユウナさんの事も変わった呼び方で呼んでいますわね?」
「あー、クセみたいでつい付けたくなるんだよな。ティオすけ、キー坊、ヨナ公、アルきち……『トワたん』なんてどうだい?」
「ちゃ、ちゃんでいいです、ちゃんで!」
「うふふ、それじゃあレンにはどんな変わった呼び方をしてくれるのかしら♪」
「そうだな……」
「フフ、賑やかですね。」
呼び名の件でその場が盛り上がっているとリアンヌ分校長が部屋に入って来た。
「っと………」
「す、すみません。」
「いえ、若人同士打ち解けて何よりです。それに教官同士の結束も佳きことでしょう。次の演習地は既にご存知の方達もいらっしゃると思いますが、前回より更に厄介な場所との事ですし。」
「あ………」
「うふふ、確かに”この国の士官学院にとってはある意味厄介な場所”かもしれないわね♪」
「クク…………」
リアンヌ分校長の指摘を聞いたセレーネは複雑そうな表情をし、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、ランドロスは不敵な笑みを浮かべ
「えっと、もしかしてリィン君達は既に”次の演習地”がどこか知っているの?」
「ええ、実は昨日セシリア教官から―――――」
「………待たせたな。」
セレーネ達の反応を見たトワはメンフィル帝国とクロスベル帝国出身の教官陣は既に次の演習地について知っていると思ってリィンに訊ね、訊ねられたリィンが答えかけたその時、ミハイル少佐が部屋に入って来た。
「あ、ミハイル教官、お帰りなさ――――え。」
ミハイル少佐に迎えの言葉をかけかけたトワだったがミハイル少佐の後に入って来た人物を見ると呆けた声を出し
「き、君は………」
「どうして貴方がこちらに………」
「へえ?話には聞いていたけど、随分と”変わった”わね。」
「クク……まさかこんな所でお目にかかるとはな…………」
(なんだ……?)
トワ同様ミハイル少佐の後に入って来た人物―――金髪の男子を見たリィンとセレーネは驚き、レンは意味ありげな笑みを浮かべ、ランドロスは不敵な笑みを浮かべ、リィン達の反応が気になったランディは戸惑いの表情をしていた。
「ふふ……」
「出張ご苦労様です、ミハイル主任。―――そして皇太子殿下、ようこそお出で下さいました。」
リィン達の反応に金髪の男子が静かな笑みを浮かべているとリアンヌ分校長はミハイル少佐と金髪の男子にそれぞれ声をかけた。
「いえ、突然の訪問、申し訳ありませんでした。トールズ士官学院・本校所属、セドリック・ライゼ・アルノールです。この度は、士官学生としてではなく――――皇族・アルノール家の人間として状況説明に参上しました。」
金髪の男子――――エレボニア帝国の皇太子にしてアルフィンの弟でもあるセドリック皇太子は自己紹介をした後ミハイル少佐と共に次の演習についての説明を始めた。
「……………」
「セシリア様からの連絡通りですわね………」
「ここが次の演習地、ですか………」
モニターに映る演習地の場所をランディは真剣な表情で見つめ、セレーネとトワは不安そうな表情を浮かべた。
「ええ、クロスベル帝国の帝都『光と闇の帝都クロスベル』――――1年半前に独立した元自治州であった国際貿易都市に行って頂きます。出発は金曜日の夜、期限は3日となる予定です。」
「その、幾つか疑問があるのですが……第Ⅱ分校がカバーする範囲は帝国西部になるという話では?」
「当初の予定としては、そうだ。――――だが来週末、『三帝国交流会』が帝都クロスベルにて開催される。」
「『三帝国交流会』の事は存じていましたが、その件と”特別演習”がどう関係してくるのでしょうか……?」
ミハイル少佐の説明を聞いてある疑問を抱いていたトワは質問をした。
「『三帝国交流会』の参加メンバーは言うまでもなくエレボニア、メンフィル、クロスベルの最高クラスのVIPになる。」
「当然我が国の最高クラスのVIP達も『三帝国交流会』に参加する為にクロスベルに向かう事になり、我が国としては彼らの身を守る為に正規軍や鉄道憲兵隊による万全の警備体制を敷きたい所ですが……開催場所がクロスベル帝国―――――”他国”の為、それをしてしまえば国際問題に発展しかねないですし、それ以前に幾ら最高クラスのVIPの警備の為とはいえ他国の軍を自国に滞在させるような案をクロスベルもそうですが他国が受け入れる事は常識的に考えてありえません。――――そこで短期間の”交換留学”という形で、”保険”の投入が決定され、クロスベル帝国政府との交渉の結果、”灰色の騎士”を始めとしたメンフィル、クロスベルの両帝国の英傑達を擁する新進気鋭のトールズ第Ⅱ分校………その特別演習地とする事をクロスベル帝国政府は承諾してくれました。」
「……そういう事、ですか。」
「えっと……先程皇太子殿下は”交換留学”としてクロスベルを第Ⅱ分校の特別演習地とする事を承諾したと仰いましたが、クロスベル側もエレボニア帝国の領土に対して何らかの組織を”留学”させるのでしょうか?」
ミハイル少佐とセドリック皇太子の説明を聞いたトワは複雑そうな表情で呟き、セレーネはセドリック皇太子に質問をした。
「はい。第Ⅱ分校の他にもクロスベルに留学させる組織があり、その組織と第Ⅱ分校と交代する形でクロスベル軍警察とクロスベル帝国の士官学生達が帝都に留学する予定となっており、期限も第Ⅱ分校と同じです。」
「へえ?幾ら第Ⅱ分校のクロスベルでの特別演習を承諾させる為とはいえ、随分と思い切ったわね。他国の士官学生もそうだけど、警察組織の帝都での留学まで受け入れるなんて。」
セドリック皇太子の答えを聞いたレンは意味ありげな笑みを浮かべてセドリック皇太子に問いかけ
「こちらも第Ⅱ分校―――――士官学生達を帝都に留学させるのですから、同じ条件を受け入れないと”対等”ではないでしょう?”今のクロスベル”は1年半前と違い、エレボニアと同格―――下手をすればそれ以上の”国家”なのですから。」
「「…………………」」
「………なるほどな。皇太子殿はエレボニアの現状について冷静に受け止めているのか。」
セドリック皇太子の答えを聞いたリィンとランディが真剣な表情で黙っている中、ランドロスは興味ありげな様子でセドリック皇太子を見つめていた。
「――――趣旨は理解しました。しかし何故皇太子殿下ご自身がこちらへ?まるで帝国政府の意志を代弁されているかのような仰りようでしたが。」
「っ……!」
「ぶ、分校長……!」
リアンヌ分校長の指摘にセレーネは息を呑み、ミハイル少佐は慌てた表情を浮かべた。
「ふふ、ただの我儘です。元々トールズの理事長職は皇族が務める慣わし。昨年、本校から兄が退き、今は空席となっていますが………アルノールの末席として一度この目で第Ⅱ分校の様子を確かめたいと考えまして。」
「なるほど………実際にお目にかかるのは初めてになりますが、噂通り随分と見違えられましたね。―――その様子ですと”良き薫陶”に恵まれたようですね。」
「ええ、おかげさまで。」
「コホン……聞いた通り特別演習地はクロスベル帝国の帝都クロスベルとなる!移動計画を作成するためハーシェル教官は残って欲しい!本日は解散―――皇太子殿下に敬礼を!」
その後ブリーフィングを終えたリィン達は部屋から出た後、軽く今後の事について会話をした後それぞれ別れるとある人物がリィンに声をかけた。
~廊下~
「―――リィンさん。」
「皇太子殿下……―――ご無沙汰しています。ちょうど1年ぶりでしょうか。」
「ふふ、そうですね。今年の年始のパーティーは不在で申し訳ありませんでした。リーゼロッテから話を聞いて悔しい思いをしたものです。」
「……勿体無いお言葉。」
声をかけてきた人物―――セドリック皇太子の言葉にリィンは謙遜した様子で答えた。
「リィンさん、よかったら少し時間をいただけますか?これまでの事、これからの事……色々話したい事があるんです。」
その後セドリック皇太子の提案に頷いたリィンはセドリック皇太子と共に屋上へと向かった―――――
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