提督はBarにいる。
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春はパスタの旬の季節です。その3
鈴谷とケッコンカッコカリをしたのは、今鈴谷が付き合っているという彼氏と付き合い始めた後の事だった。俺もその話は聞いていたし、チャラそうに見えて一途な鈴谷はケッコンを拒否するのかとも思ったが、『ケッコンと結婚は別物でしょ~?鈴谷提督の役には立ちたいしねぇ~♪』とアッサリケッコンを受け入れた。そんな鈴谷が身を固める決心をしたというのだから、上司としても家族同然の付き合いをしてきた俺個人としてもこんなに嬉しい事は無い。
「そりゃま、おめっとさん。結婚式に出られるかは解らんが、日取りが決まったら教えてくれ。電報とご祝儀位は出すからよ」
「……うん」
「どうした?嬉しく無さそうだな?」
「んな訳無いじゃん!提督の気のせいだって!」
『……だって、諦めるしか無いじゃん。20年も連れ添った人が相手じゃ勝ち目無いもん』という鈴谷の呟きは、店の喧騒に紛れてハッキリと聞き取れなかった。
「ん、何か言ったか?」
「んーん、何でもない!それより提督、ご祝儀はたんまりお願いね~?にしし♪」
「はいはい、わかったわかった。お幸せに」
「……行きますわよ、鈴谷」
「うん。じゃあね提督、また今度」
「おう、またな」
そんな会話を交わして、熊野と鈴谷は店から出ていった。その去り際の鈴谷がなんとも切ない顔をしていたのは、気のせいではないハズだ。
「提督ぅ~、何深刻に話込んじゃってたのかなぁ~?」
「うるせぇよ、他人のプライベートに首突っ込むんじゃねぇよ深雪」
「だってさぁ、今帰り際の鈴谷さん泣いてた様に見えたんですけどぉ~?そりゃあ女泣かせの夜の帝王な司令官からしたら普通の事かもしんないけどさぁ、流石に体裁悪いんじゃないのぉ?」
にっしっし、と笑いながら右手を突き出す深雪の要求している物は何となく解る。
「チッ、わーったよ。タダで飯食わせてやっから、バラすなよ?特に青葉には」
「毎度ありぃ♪流石は司令官、話が解るねぇ」
「そういうのを恐喝ってんだ、馬鹿」
《ガッツリ食べよう!豚肉と春キャベツのトマトソースパスタ》※分量2人前
・スパゲッティ:180g
・塩:18g
・豚バラ肉(薄切り):120g
・春キャベツ:150g位
・ホールトマト:200g
・玉ねぎ:1/4個
・ニンニク:1片
・赤唐辛子:1本
・オリーブオイル:大さじ2
・塩コショウ:少々
・オレガノ(乾燥):少々
・スパゲッティの茹で汁:200cc
・粉チーズ:適量
・オリーブオイル(仕上げ用):小さじ2
深雪にリクエストを聞いた所、『肉の入ったガッツリ食えるパスタ』という事だったのでコイツをチョイスしてみた。まずは具材の下準備から。玉ねぎは粗いみじん切り、キャベツは3cm角にざく切り、ニンニクもみじん切りにする。バラ肉は5~6cmの長さに切り揃えておく。ホールトマトはトマトソースにするため潰しておく。……っと、パスタを茹でるお湯を沸かすのも忘れずにな。大体パスタの分量の10倍の水で茹でるのが基本だが、今回はそれより200ccばかり多めの水を沸かすように。それと、大きめの鍋を使って沸かすように。……何故かって?後で解るよ。
トマトソースを作るぞ。フライパンにオリーブオイル(仕上げ用は除く)、玉ねぎ、ニンニク、赤唐辛子を入れて、中火にかける。玉ねぎが透き通るまで炒めたら、潰しておいたホールトマトを加えてかき混ぜつつ、5分位煮詰めて火を止めておく。……あ、途中で赤唐辛子を取り除くのを忘れずにな。忘れると食べる時に地獄を見るぞ(経験談)。
パスタを茹でるぞ。沸騰したお湯に塩を加えて、パスタを入れて強火で茹でていく。途中、茹で汁200ccをトマトソースに加えるのを忘れずにな。
袋に書かれた茹で時間の2分前になったら、キャベツとバラ肉をパスタを茹でている鍋に入れて一緒に煮る。キャベツを先に入れてから、バラ肉は1枚ずつ広げて入れるようにな。塊のままドボンと入れないように。肉の表面の色が変わったら、全部纏めてザルに空けて、水気を切っておく。
トマトソースを再び中火にかけて、煮立ってきたらオレガノ、塩コショウで味を整える。ザルに空けておいたパスタと具材をフライパンに入れて、よく絡ませる。器に盛り、粉チーズとオリーブオイルをかければ完成だ。
「はいお待ち、『春キャベツとバラ肉のトマトソース』な」
「うっひょお~♪コイツは美味そうだぜぇ……!」
深雪の奴、期待で目が爛々と輝いてやがる。パスタをフォークで巻き取りつつ、キャベツと豚肉をフォークの先で捕らえ、一緒に頬張る。トマトソースの酸味がキャベツの甘さと豚肉のっしりとした旨味を引き立てる。そこに冷えたビールなんて流し込んだ日には、
「かぁ~っ!このために生きてるって感じだよ」
こうなる。見た目が中学生位のせいで、鼻の下にビール髭を付けていると違和感がすごい。
「あ~っ!深雪ちゃんったら何してるの!?」
「し、白雪?これはその……」
店のドアの所で仁王立ちしているのは、深雪と同じく吹雪型の駆逐艦・白雪だった。
「今晩は鼠輸送の当番でしょ!?何でお酒なんか飲んでるの!」
「何?本当かそりゃ」
俺も白雪の話を聞いて顔が険しくなる。輸送作戦中は当然ながら海の上を航行するし、最悪敵に出会せば戦闘にもなる。そもそも仕事中に酒を飲むなんざ論外だ。……まぁ、高高度を飛ぶ艦載機には気付け薬の代わりに焼酎やら泡盛やら積んでたりはするがな。ウチも他聞に漏れず仕事中の飲酒は厳禁になっている。一部の軽空母や重巡が抵抗したが、最終的には俺が説得(物理)したお陰で今は反対する者は居ない。深雪もそれを解っていたハズだが、我慢できずに飲んでしまったらしい。
「いや~……つい、出来心で」
「ハァ……仕方ねぇ、今手の空いてる駆逐艦に当番代わってもらえ。罰として、深雪はトイレ掃除1週間とその間の『間宮』と『鳳翔』、そしてウチの店の出入り禁止な」
深雪は判決を聞いた瞬間、FXで有り金全部溶かしたみたいな顔になった。
「そ、そんな殺生な~」
「なら、その根性叩き直して貰う為に、神通との特別訓練3日でもいいぞ?」
「いえ、是非1つめの方でお願いしまーす!」
やはり鬼教官はおっかないらしい。
「ほら、行くよ深雪ちゃん!」
「ちょ、ちょっと待てよ白雪!まだビールとパスタが~……」
「代役は自分で頼まなきゃダメでしょ。ホラ、行くよ!」
深雪は白雪にずるずると引き摺られて、店を出ていった。
「アハハハハハ……白雪も大変だねぇ」
「そういうお前の所はどうなんだ?白露」
白露型も個性的な姉妹が多いからな。その長女の苦労は結構あるんじゃないかと思う。
「そうでもないよ?基本的に仲良いし。ただちょ~っと提督が絡むと面倒くさいのが居るくらいで」
「それは俺に言われてもなぁ……お、グラス空じゃねぇか。何か作ろうか?」
「じゃあ、『A1』貰おうかな」
「あいよ」
まずはシェイカーにドライジンを40ml、そこにオレンジキュラソーを20ml。更にレモン汁を1dash加えてシェイクする。グラスに注ぎ、仕上げにレモンピールを振りかけてやれば完成だ。
「はいよ、『A1』だ」
アルファベットの頭文字のAと、数字の始めを意味する1を合わせて、1番いいカクテルという意味で名付けられたのがコイツだ。1番が大好きな白露にはうってつけだな。オレンジキュラソーとレモンの柑橘風味が酒の風味を際立たせる爽やかな口当たりの一杯。
「う~ん、お腹も空いて来ちゃったし……あ!筍使ったパスタ作ってよ、提督!」
筍か。また春らしい食材だな。
「あいよ。ちょっと待ってな」
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