提督はBarにいる。
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春はパスタの旬の季節です。その2
「こっちも食ってみるか?『ホタルイカのプッタネスカ風』だ」
ホタルイカのオイルパスタを堪能していたザラと鳥海に、プッタネスカも奨めてみる。
「プッタネスカですか!刺激的な辛味が良いですよね!」
「うんうん、この辛味が正に『娼婦風』という感じですね」
「……えっ?」
ザラのしみじみとした爆弾発言に、思わず俺と鳥海が固まってしまう。
「え、プッタネスカって『娼婦風パスタ』って意味なのか?」
「そうですよ?提督さんもご存知無かったんですか?」
「あぁ、初耳だ」
ザラの話によると、昼も忙しかった娼婦が適当に有り合わせの食材をかき混ぜて作った説や、客をもてなす為に作った説、たまに食べると美味いが、毎日食べると飽きてくるので娼婦をイメージさせる説等、由来は様々らしいが兎に角プッタネスカは『娼婦風パスタ』という意味らしい。
「ナポリの方だと少し味付けも違って、ツナを入れてチーズはかけないんです。別名マリナーラとも言うんですよ?」
「あぁ、それなら知ってます。ピザにもありますね」
「そうそう!ナポリではシーフードの入ったパスタにチーズを掛ける風習がないので、ピッツァでもマリナーラにはチーズを乗せないの」
「流石イタリア出身。詳しいねぇ」
こういう雑学が飛び交う会話ってのは、聞いてるだけでも楽しいもんだ。と、会話が盛り上がっているとドアベルが来客を告げる。
「たっだいまぁ~!あー超お腹減った~」
「もう!鈴谷ったらはしたないですわよ?」
コートを羽織ったままの姿で、鈴谷がカウンターに雪崩れ込んできてぐんにゃりとなる。その後ろからプンスコしながら付いてくる熊野。
「2人共出張お疲れさん。どうだ?ラバウルの技研まで行ってやって来た改装の調子は」
「う~ん……まだちょっと慣れないけど、基本的な使い方はマスターしてきたよ。後は実戦で使って馴らしてく感じかな?」
「でも、やはり軽空母と航空巡洋艦では勝手が違いますのね」
早霜が出したお冷やで一息吐く2人。そう、鈴谷と熊野の2人はこの度、航空巡洋艦から攻撃型軽空母という特殊な艦種に改装したんだ。実は前々から改装の話は打診されてはいたんだが、大規模作戦前にただでさえ頭数の少ない航巡の数を減らしたくなくて今の時期までずれ込ませた。一応軽空母から航巡にも戻せるらしいが、戻す度にえらく資材がかかるし手間も掛かるらしい。だからもう一隻ずつ鈴谷と熊野を確保して、そっちを航巡として運用する事にした。
「ま、その内馴れるさ。それより、新人として来る鈴谷と熊野をビシバシ鍛えてやってくれ」
「まっかしといて~、先輩としての威厳見せちゃうからさ!それよりさぁ、ご飯食べてこうよ熊野~!」
「そうですわね、提督……今夜のオススメは何かしら?」
「パスタが大量に手に入ったんでな、今日はパスタ祭りだ」
「いいねぇ!パスタを肴にワインかビール辺りをグイッと……」
「お酒はダメよ?これから部屋に戻って報告書を仕上げないといけないんですから」
「えぇ~!?いいじゃんちょっとくらい!熊野のケチ!」
「ケチで結構。大体、早く改装したいと言い出したのは貴女でしょう?」
「でもぉ……」
「デモもストもボイコットもありませんわ!」
「おい、漫才やってねぇで早く注文しやがれ」
やり取りが長ぇよ。
「折角だし、春の食材を使ったパスタ!……あ、熊野とは別々にしてね。シェアして食べるから」
「それと、ノンアルコールカクテルかソフトドリンクを」
「あいよ」
ドリンクの支度は早霜に任せて、こっちはパスタに取りかかるとしよう。
《春の香りを楽しむパスタ2品!》
(ばっけ味噌クリームパスタ)※分量2人前
・スパゲッティ:180g
・塩(パスタ茹でる用):18g
・フキノトウ:50g
・みりん:大さじ2
・味噌:大さじ2
・砂糖:大さじ1
・牛乳:100cc
・生クリーム:100cc
・塩:少々
(菜の花ジェノベーゼ)※分量2人前
・スパゲッティ:180g
・塩:18g
・菜の花:1/2束
・EVオリーブオイル:大さじ4
・松の実:大さじ2
・粉チーズ:大さじ3
・アンチョビ:1枚
・ニンニク:1/2片
・塩:少々
まずはばっけ味噌クリームパスタから。ばっけ味噌ってのは蕗の薹(ふきのとう)を茹でて刻んで、味噌と一緒に炒った郷土料理でな。蕗の薹が東北の方じゃあ『ばっけ』と呼ばれてるんだ。コイツがまた味噌の塩辛さと蕗の薹の苦味が絶妙でな。熱々の白飯に乗っけたり、酒のつまみにチョイと摘まんだり、奴の上に乗せたりしてな。オシャレに食うなら、クリームチーズと一緒にクラッカーに乗せてカナッペ風……なんてのもイケる。
話が脱線したな。作り方の方に戻ろう。
まずは蕗の薹の下処理だ。固い外皮を剥いて、沸騰したお湯に塩(分量外)を入れて2~3分茹でる。茹でている間に別の鍋でパスタを茹でる段取りを整えておく。
蕗の薹が茹で上がったら、水に放って粗熱を取る。粗熱が取れたら水気を絞る。ニンニクをすりおろして、フライパンに味噌、みりん、砂糖と共に入れてかき混ぜておく。
蕗の薹を粗く刻み、フライパンに入れたら弱めの中火で熱しながらかき混ぜて焦がさないように練る。味噌がグツグツと煮立ってきたら牛乳と生クリームを加えて延ばし、更にかき混ぜつつとろみが付くまで煮込む。
ソース作りを始めたら、同時進行でパスタを茹でる。袋の表示より1分短く茹でるのも忘れずに。茹で上がったらザルに空けて水気を切っておく。
ソースを味見して塩で味を整えたら、パスタを加えてよく煮絡ませて器に盛れば完成だ。お次は菜の花をバジルの代わりに見立てた、春の香り漂うジェノベーゼだ。
《菜の花ジェノベーゼの作り方》
鍋にパスタを茹でる分量の湯を沸かし、塩を入れたらパスタの前に菜の花を茹でる。茹で過ぎると香りも味も飛んでしまうので茹で過ぎ注意。茎が柔らかくなった位でお湯からあげ、水にさらしてしばらく冷ましておく。続いてスパゲッティを袋の表示より1分短く茹でる。
パスタを茹でている間にソースを作る。菜の花が冷めたら水気を絞ってざく切りにして、松の実、粉チーズ、アンチョビ、すりおろしたニンニク、EVオリーブオイルと一緒にフードプロセッサーに入て撹拌し、よく混ざったら味見をして塩で味を整えておく。
出来上がったソースをボウルに移し、茹で上がったパスタの水気をよく切ってから和えれば完成だ。
「上がったぞ。『菜の花ジェノベーゼ』に『ばっけ味噌クリームパスタ』だ」
「ば、ばっけ味噌って何ですの?」
熊野が眉根を寄せている。聞き慣れない食べ物に不安が募っているんだろう。
「あぁ悪い、ばっけってのは蕗の薹の事さ。蕗の薹を味噌と炒ったのがばっけ味噌。そいつをクリームパスタに仕立ててみた」
俺は出来る限り解りやすく説明したつもりだが、熊野の表情は晴れない。多分だが、味噌とクリームという一見合わなそうな組み合わせに忌避感があるんだろうな。
「熊野がそれ食べないんだったら、鈴谷がも~らいっと♪」
そう言って鈴谷がクリームパスタの皿を自分の方に引き寄せる。
「ま、まぁ後で交換するんですし……構いませんわ」
少しホッとした様な顔で、熊野も菜の花ジェノベーゼの皿を手に取る。そんなに嫌だったか、味噌クリーム。
「んぉ?……これ美味っ!味噌とクリームが予想外に合うし、蕗の薹の苦味がアクセントになってて大人な味って感じ!」
ハフハフとがっつく鈴谷。よっぽど腹減ってたんだな、お前。
「最近頑張ってますものね。『彼氏より先にお金貯めて逆プロポーズキメてやるんだ~』って」
「ちょ、熊野ぉ!それ内緒!しーっ!」
「なんだなんだ、ついに鈴谷も身を固める決心したのか」
「う、うん……ちょっち恥ずかしいけどね」
そう言って頭をポリポリ掻く鈴谷の左手の薬指には、キラリとシルバーのリングが光る。俺との絆を結んだケッコンカッコカリの指輪だ。
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