ランス ~another story~ IF
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第10話 初対面
まさか――とは言わないし、言えないだろう。
ここは魔王が住む山。傍には居城アメージング城が存在する。
それに、元々エール達は魔王ランスの元へと行く為にここに来たのだ。そして、相対した一瞬でその選択を後悔した。
見た瞬間理解した。その先さえ見えない暗黒を。どれだけ離れているか判らない力の差を。全身から汗が勝手に噴き出し、心臓がバクバクと鼓動を打つ。
圧倒的な死の恐怖をその身で体感した。
「ま、魔王……様。いらしたのですか!?」
「……ふん。ただの散歩だ。城の中にいても退屈だからな。後、サテラ。お前が浮気をしていないかの調査も兼ねている」
アームズは驚きを見せていた。ランスの意外にもその口調には威厳はなかったからだ。あの時代……共に戦っていたあの時と同じ。だが、雰囲気のそれは全く別格。魔王そのものだった。
「う、浮気!? なにが、い、いえ 何を………浮気など……」
「先程、男の名を口にし、叫んでなかったか……? 気に入らん男の名だ」
「えええっ!? そ、その様な事は……。ち、違います! 不埒な侵入者がいたので! その侵入者は、知った名だったので!! その名です! それにもう終わる所です!」
サテラは、ロッキーを生贄に誤魔化そうと必死だった。
ロッキーにとっては迷惑極まりない行為になるが、ランスの視線が自分に集まる事は彼にとっても好都合だったかもしれない。
また、会う為に……ここに来たのだから。且ての主と。
「そうか……。ふん。気のせいか?」
魔王ランスは深く追求する事なく離れようとしたその時だ。
かろうじて声を発せたロッキーが魔王に語り掛ける。
「ら、……ランス、様だすか……?」
「……………」
ロッキーの声はランスに届くことはなかった。まるで生きている場所が違うかのように。伝わらない事がそれだけで理解できた。
「侵入者などどうでもいい。放っておけ。サテラ、今日は北の方へ行く。サイゼル同様、お前もこい。……サイゼル。降りて来い」
魔王ランスは頭上を見上げると、宙に浮いていたサイゼルがゆっくり下がってきた。
「……いたか?」
「あ、はい。周囲を確認しましたが……、誰もいませんでした!」
サイゼルは頼られている事が嬉しいのか、笑顔だった。
「うむ。……感じていたのは気のせい、か。まぁ 良い。行くぞ」
「ま、待って下さい、だす……、ランス、様。何か、何か……」
言葉を探そうと必死に言おうとするロッキーだが、言葉に詰まってしまう。
「行くぞ。お前達」
「はい。判りました」
「はいっ! 魔王様!」
ロッキーに耳を貸さないランス。ある意味いつも通りだと言えるのだが、やはり一瞥もされないのは堪えるのだろう。ロッキーはガックリと肩を落としていた。
サテラは、一先ず頭が冷えた様で。
「お前ら、命拾いしたな。見逃してやるからとっとと帰れ。……次来たら、次名前出したら、本当に殺すぞ。……後、貴様、えーる……だったか?」
サテラは、エールの方を見た。
じ……とその顔を見る。今はいない、彼の顔を思い浮かべながら。
「……あの女の面影は、ある。……だけど、…………じぃぃぃぃ」
認めたくない気持ちがあまりにも強過ぎるのか、サテラは穴が開く程見つめた後に。
「ぜんっぜん、まったく、①ミリも似てない! お前の情報ガセだろ、絶対!! そこらへんのガキを連れてきただけだろうが! またそんな与太話しようものなら……殺すッ!!」
そう言い捨てて去って言った。
最後こそは毒気抜かれた気分だが、ある意味助かったかもしれない。魔王の圧倒的な圧力を目の当たりにしたばかりだったから。
「…………」
だが、絶対的な死を間近で感じた事実は変わらない為、暫く動く事が出来なかった。
その緊張を解いたのは アームズだった。近くの岩にどっかりと腰を下ろす。
「ふぅ……。魔王ランス、か…… やはり5年後。あまり良くない状態の様だ……。もうかなり魔王に近づいている、という事だろう」
その一言で、ロッキーは弾かれた様に動き、今度はエールの所で土下座をした。
「う、うう…… すみませんだ、エール様ッ!! お、オラ、こんなことになるとは思ってなくて……、エール様を…… ユーリさんの御子息を……」
「ロッキー、もういい」
只管に、額を地に擦りつけ謝るロッキーをアームズが肩に手を置いて制した。
「ここは運よく見逃してもらえたんだ。お情けにあずかろうじゃないか。……それとも、あれを見てまだ立ち向かうか?」
「…………ぼ、ボクは……」
エールはただ考える。
震え続ける身体は多少は良くなったが、それでもまだ残っている。恐怖が、身体の芯に残っている。そして、思い返すのは母の言葉だ。
『貴方は世界を救った英雄の1人。ユーリ・ローランドの子供なのです』
『英雄の血を継ぐ貴方であれば、魔王くらいイチコロです』
確かに、ユーリ・ローランドの話は、自分が子である、という事実を除けば、幾度となく訊いてきた。現魔王が人間だった時代に、共に世界を救ったと。例え強大なモンスターにも、たとえ国家にも、たとえ魔人にも……決して臆する事無く、全てを打倒してきた伝説の英雄。
「本当に自分はユーリの様になれるのか、とでも考えているんじゃないか?」
「っ……!」
エールの考えを読んだかの様にアームズがエールの前に立ってそう聞いた。そして言葉に詰まる。
「ふむ。確かにエール。君があのユーリの子であるのであれば、その才能はこの世界ででも群を抜くと言って良い。鍛錬次第ではトップクラスの戦士になれると容易に想像できる……が、聊か安易に考えていないか?」
「い、いえ、そんな事は……」
「なら、そう落ち込むな。命あっての物種とも言う。……ユーリのヤツも、最初から最強だった訳ではない。数多の冒険を経て、戦いを乗り越えて あの域にまで到達したんだ。そう簡単にその域にまで到達されては、ユーリにも立つ瀬がないだろう」
アームズは笑みを浮かべ、そして伝えた。
「弱いと思うのなら、強くなればいい。その才能に溺れる事なく、鍛錬を続けろ。私が言えるのはこれくらいだ」
「は、はい。判りました」
エールの身体にも力が戻ってきた。
戻ってきた……のだが、ここで更に最悪の出来事が起こる。
「うっがああああああああああああああああ!!! サテラサテラサテラサテラサテラサテラァァァァァァァァァ!!!!!」
翔竜山を蹴落とされた筈の、魔人DDが有り得ない速さでまた登ってきたのだ。
「な、何ッ!? DDッ!」
流石のアームズも予想だにしてなかった事だろう。
あの位置からシーザーとイシスに落とされた。少なく見積もっても、まだ此処に戻ってくるのには1,2時間はかかる。岩山を拳1つで掘って登ってくるDD。判る様に力には特化しているが速度の方はそこまで無い。なのに、この登場はあり得ない。
「ハァァァァァ!! イライラすんぜぇぇぇ! このオレ様を投げ落としやがってよぉぉぉぉ!! だがだが、あめぇえなぁ!! こんな豆腐みてえぇな岩山だぁ! ぶん殴って捕まるなんざ余裕だろうがよぉぉぉ!!」
「あんな体勢で……」
「ッ……。成る程。下まで落ちず 途中で止まっていたのか……(状況が悪過ぎるな。まだ皆は戦える状態ではない)」
エールは立ち上がり、構えたが万全とは程遠い状態なのは一目瞭然だ。サテラと戦う前を10とするならば、見た所3.若しくはあって4程。
「ひ、ひぃぃぃぃ、こ、こんどこそダメだぁぁぁ」
「うぐぐぐ、え、えーる様だけでも オラが……っ!」
言い方は悪いが今のロッキーと長田君は戦力外も良い所。
「つまり、絶体絶命と言う訳だ。エール。これからは撤退戦をするしかない。しんがりには私が立つ。お前達は退け」
「え、で、でも1人じゃ 危険すぎます!」
「……1人だろうが、2人だろうが関係ない。今のお前がいても足手まといにしかならんからな。さぁ早く行け。私は元々ソロだ。1人の方が動きやすい」
「っ……そ、そんな。でも。そうだ、日光は!? 聖刀日光が折れてしまった今、魔人と戦った所で……」
「…………」
アームズは何も言わなかった。
その意味がエールにはよく判った。
「まさか、死ぬ気なんですか……? い、いえ なんでそこまでするんですか!? ボク達はあったばかりなのにっ……!」
「さぁな。(お前を失ってはダメだと、思っただけの事だが……。ふふ。私としたことが。ヤキガ回ったかもしれん)……だが、死ぬ気はさらさらないとだけ言っておくさ」
アームズはDDの方を向いた。
「ちぃぃいぃ、サテラの野郎!! 何処にもいねぇ! ……くそ、くそくそくそくそ!! じゃあ、あの雑魚どもを喰い殺すことしか出来ねぇじゃねぇかぁぁ!!」
大口を開けて、唸り声をあげるDD。もう直ぐに攻め込んでくる事だろう。
時間がもう無い事が判ったアームズは エールに笑いかけた。
「あぁ、先ほどの問いだが あえて1つ言うなら、お前の父には世話になったし、何度も命を救われた。私の今の恋人と巡り合わせてくれた。仲人の様なもの、かもしれない。だから、それらの恩を還させてもらうだけだ」
アームズは剣を構える。日光程ではないが、伝説の一刀だ。
「さぁ、行け! ロッキー。………死なせるんじゃないぞ」
「っ……、わ、わかった、だす!! アームズさんも、どうか死なないでくださいだすっ!!」
「ふはっ! 仰々しく言ってみたが、実の所、死ぬつもりはないさ。さっきも言っただろう? 私にはまだまだ戦える。日光は折れたが まだ数ある伝説のアイテムがある。全て贅沢に使っての総力戦だ。魔人にも後れを取らない事を証明してやるさ! さぁ、行け!」
アームズの叫ぶ様な声と同時に。
「ぐおあああああああああああああ!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
狂気の魔人DDが地を揺らせる様な勢いで向かってきた。
まともにぶつかれば、人間など紙屑の様に吹き飛びバラバラになるであろう突進。如何に伝説の武具を纏い、可能な範囲でブーストしたステータスを持つアームズであっても、……当たれば致命傷は避けられない。
「(サテラに受けた傷が、余計……だったな。……すまない。清十郎)」
想い馳せるのは想い人の名だった。
初めて興味を持った異性。……否、初めて好きになった男だった。
今、彼はいない。傭兵としての仕事で離れた場所にいるから。最後に一声だけでも言いたかった。
「(邪心……だな。ここで死ぬつもりは無い。ただ、それだけを考え、戦え!)」
弱りかけた心にアームズは活を入れる。 まだ、死んでいないのだから。何もせず死を受け入れるなど愚の骨頂。最も嫌う行為。最後の最後まで抗う。
アームズは折れた日光の代わりの武器を手に持ち、受けて立つ構えをとったその時だ。
――アームズさん! だ、誰か……誰かっっ!? 助けてください!!
この刹那の時の中で、まず エールの声が聞こえてきた。ロッキーが強引に連れ去ろうとしている筈だが、聞こえてきた。
瞬きすら許されない一瞬の間に、その声ははっきりと聞こえてきて――そして、次の瞬間には、自分の間に誰かが割って入るのがハッキリと判った。まるでスローモーションだ。その人物はDDと自分自身の間に入ると、一振りの剣を取り出し、突進してくるDDの巨大な拳に刃を当てた。
がきぃぃん、と言う凡そ生身と刃のぶつかり合いとは思えない様な衝撃音が轟き、あの巨体の突進が完全に停止していた。
「…………は?」
「ここまで登ってきて、ご苦労な事、だが―――。悪いな。また振り出しに戻れ」
DD自身も何が起きたのか判っていないのだろう。
無敵結界がある筈なのに、その刃は確実にDDの身体に傷を作り、その次に あろう事かDDの巨体を掴み上げ、まるで背負い投げでもするかの様に…… いや、違う。放り捨てるかの様に、この崖から落とした。
あのDDが叫ぶことを忘れている様だ。何が起きたか判らない、と言わんばかりの表情のまま、DDは落下し 最後には見えなくなった。
「全く。騒々しさにかけては右に出る者はおらぬな、あの魔人は」
手をぽんぽん、と払ってのける人物。魔人を軽くいなしたこの光景。どう、表現すれば良いか一瞬アームズは判らなかったが。くるり男が向き直り、その顔を見た。視た事のない男だった。赤みが掛かった茶色で長めの髪。どちらかと言えばJAPAN風な容姿の男。
「さて、お前達。随分大変だった様だ。大丈夫か?」
そして、手を差し出される。
この手を取って良いものかどうか……、いや 今目の前で起きた事が現実なのか、虚構なのか、幻覚の類を掛けられているのか、判らないが。
「え……、あ、あなたは?」
「お、おい エールぅぅーー!! あ、危ないってばぁぁぁ!」
「待つだすーー!」
ロッキーと共に逃げていた筈のエールがいつの間にか、この場に戻ってきていた。
アームズが聞こえた声はエールので間違いない様だ。そして、今目の前で起きている事が少なくとも、現実である事は理解できた。そして、次は幻覚であるか、どうかだが……。
「む? 私が判らないか……? アームズ。っと、ああ。そうであったな」
思わず顔を抑える。その行動の意味が判らないアームズだったが、直ぐに判る事になる。
「お前は……… まさか――――」
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