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真田十勇士

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巻ノ百三十四 寒い春その八

「そうする」
「何としても」
「その考えじゃ」
「それでは」
「うむ、お主とは考えは違うがな」
「その様にですな」
「進んでいく」
「わかり申した、では修理殿はです」
 木村は自分と大野の考えが違うことをわかった、だがそれでも彼の考えを汲み取り否定せずにこう返した。
「その様に進まれて下さい」
「それではな」
「ただ、身の回りのことにはです」
「気をつけよというのか」
「はい、近頃とかく殺伐としております」
 先に話した様にというのだ。
「城の中は、そして修理殿はです」
「裸城になったことでじゃな」
「激しく怨みを買っていますので」
「わかっておる、それでじゃ」
「常にですな」
「身の回りには気を配っておる」
「そうして下され、修理殿に何かあれば」
 その時はというのだ。
「その右大臣様が移られることも」
「なくなるな」
「はい、戦に向かいまする」
 城の流れがというのだ。
「ですから」
「わかっておる、だからじゃ」
「常にですな」
「身の回りは頼りになる者達で固めておる」
 実際にというのだ。
「そうしておるからな」
「さすれば」
「そのうえでな、ことを進めていく」
「そうされて下され」
「その忠告確かに受け取った」
 大野は木村に確かな声で答えた。
「今な」
「はい、実はそれがし危惧しておりますが」
「あ奴がか」
「そうです、修理殿の弟君ですが主馬殿が」
 治房、彼がというのだ。
「よからぬことを考えておるのではとです」
「実はわしもな」
「その様にですか」
「思いもしておる、まさかと思うが」
「主馬殿は血気盛んな方、そして何かあれば」
「動く者であった、子供の頃からな」
「そう聞いております、それがしも」
「だから余計にじゃな」
「御身のことはです」
「気をつけておく」
 大野も城の気配はわかっていた、それで実際に常に身の回りには気を配っていた。彼の周りには常に岡山、平山、米村という頼りになる者達が控えて彼を護っていた。
 だがその大野にだ、今度は幸村が申し出た。
「修理殿、それがしもです」
「拙者の警護をか」
「させて頂きたいのですが」
 かつては大名なので礼を尽くして応じている大野に答えた。
「大助と十勇士の誰かをつけて」
「一騎当千の十勇士の中から」
「はい、十勇士の誰かが大野殿の傍におられれば」
 それでとだ、幸村は大野に話した。
「軽挙妄動を考える者はおりませぬ」
「それでと言われるか」
「はい、何でしたら大助だけでも」
 彼の嫡子も出すのだった。
「おつけしますが」
「それには及ばぬ、いや」
「出来ませぬか」
「大助殿は貴殿のご子息、十勇士は貴殿の家臣であるし」
 大野は幸村の申し出を手振りも交えて断って話した。 
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