普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
236 ラブグッド家へ
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
ビルとフラーの結婚式に乱入してきた≪死喰い人≫どもからは逃げられたものの、逃げた先で俺が不意に口にしてしまった〝ヴォルデモート〟と云う語句で呼び寄せてしまったアントニン・ドロホフとソーフィン・ロウルを撃退してから明くる日。
……ちなみに、ドロホフとロウルは記憶を〝修正〟したのち【ダイアゴン横丁】の片隅に放っておいた。さすがにカフェに置きっぱなしにしておくのは拙かったから…。そして宿泊したのははそこらのホテルで──当然男女別部屋だった。
閑話休題。
「……まるで城だな」
「……私には〝城〟と云うよりかは〝塔〟に見えるけどね」
「どっちにしろ判りやすくて重畳だね」
時刻にして15時を回ったころ。俺達三人は細長い家を目にして、思い思いの所感を口にする。
「あ、三人とも、待ってたよ」
そして、ラブグッド家の敷地に入る──前にルーナがこちらに向かってきた。昨夜のうちにルーナへ〝守護霊〟を送っておいた甲斐があった。
……昨夜俺がアニーとハーマイオニーに提示したのはゼノフィリウス・ラブグッド、ならびにルーナの家──では無かったのだが、〝出来れば打っておきたい布石〟があった為に、こうしてラブグッド家へ訪問していた。
「三人とも、足元気を付けてね──ただいまパパ」
「お帰りルーナ。……そしていらっしゃい」
ルーナに先導されラブグッド邸に入れば、もうそこはすぐキッチンでゼノフィリウス・ラブグッドがにこやかに俺達三人を出迎えてくれた。
ゼノフィリウスのエスコートに従いテーブルに掛け、彼が紅茶を淹れに行ってくれている間に屋内を失礼にならない程度に眺めてみる。屋内は、外見の通り円柱状で〝予想通り〟と云えば良いのか奇天烈なもので溢れかえっていて、猥雑としている。
「お邪魔します。……いきなり押し掛けてすみません。ルーナもありがとう」
「いや、気にする事は無い。気にする事はルーナが初めて連れてきた友達だから」
「いいよ。あんた達が私に頼ってくれて、私も嬉しかったもン。……で、パパも知っていると思うけど改めて紹介するね。栗色の髪の娘はハーマイオニー。ハーマイオニー・グレンジャー。赤い髪の娘はパパも知っての通りアニー・ポッター」
「もちろん知っているとも。……二人とも、ルーナと仲良くしてくれてありがとう」
「ど、どうも…」「ど、どうも…」
昨日、ビルとフラーの結婚式にゼノフィリウスさんが着て来た──ミュリエルおばさんが云うには〝オムレツ〟な服装と、今のゼノフィリウスさんとのイメージまだ擦り合ってないのか、アニーとハーマイオニーは呆気に取られた様な表情で短く返すことしか出来ていない。
「良い紅茶まで出して頂いて重ね重ね、ありがとうございます」
アニーとハーマイオニーの挨拶もそこそこに、ゼノフィリウス──ゼノフィリウスさんが淹れてくれていた紅茶を一口啜り、改めて礼を述べる。しかし、やはりゼノフィリウスさんは大して気にした様子ではない。
……寧ろ、本当にルーナの友達である俺達をもてなせて嬉しそうですらもある。
(……悪い意味で〝知識〟に引っ張られてたか…)
そんなゼノフィリウスさんを見て、内心で俺はそう反省する。
俺は〝ゼノフィリウス・ラブグッド〟と云う人物に対して良い印象が無かったが、〝原作〟では〝ハリー・ポッター〟を≪死喰い人≫に売ったのは一人娘であるルーナが人質に取られたからだった。
この部屋の写真を見るに、ゼノフィリウスさんからしたらルーナは──ルーナからしてもゼノフィリウスは唯一無二の肉親と推測出来る。……〝ゼノフィリウス・ラブグッド〟は一人娘をどうしても失う訳にはいかなかったのだろう。
しかし今はルーナはラブグッド家に健在している。……〝状況〟なんてモノはいつだって、どうとでも変遷するものだと云う事を改めて学習。
「ここに来たのは他でも有りません。ゼノフィリウス・ラブグッドさん──貴方に2つほどお願いしたいことが有るからです」
「……私に、頼みごと…? ……ふむ、続けてくれ」
ゼノフィリウスさんの目が細くなるが、訝っているだけらしいので俺は人差し指を立てながら続ける。
「一つ。……【ザ・クィブラー】に〝〝探査呪文〟が掛かっているから〝名前をいってはいけない例のあの人〟の名前は本当に言えなくなった〟とな旨の記事を〝〝投稿された情報〟として〟掲載して下さい」
「……情報元と信憑性の程は?」
「情報源は俺が不意に漏らしてしまった〝その語句〟の、その数分後に襲ってきたアントニン・ドロホフとソーフィン・ロウルです。撃退・捕縛した後〝開心術〟で二人の心を覗きましたので信憑性は充分に高いかと」
「……それが本当なら、由々しき事態だ。……了解した。確約は出来ぬが任されよう」
「二つ──ん? どうしたアニー」
「そこからはボクが言うよ、ロン」
人差し指を立てた状態のまま中指を立て──ようとしたが、アニーに遮られる。……確かにゼノフィリウスさんへの依頼の内の1つはアニーから説明してもらった方が早いものがあったので、アニーに任せる事にした。
「遮ってすみません。どうしても〝この件〟だけはボクからお願いしたかったものですから」
「……? 何かね、その〝お願い〟とやらは」
「単刀直入に申します。【ザ・クィブラー】でボク──〝アニー・ポッター〟を擁護する記事を書かないで下さい」
「っ、アニー、どうして?」
訝るゼノフィリウスさんをよそにアニーは告げると、予想外だったのだが、ゼノフィリウスさんより先にルーナがアニーの〝頼み事〟に食いついた。
「……それは貴女のためよ、ルーナ」
「……グレンジャーさん──でしたな。どうして〝アニー・ポッター〟を擁護する記事を書かないことがルーナのためになるのか訊いても?」
「ええ。……昨日のビルとフラーの結婚式に来ていたルーナとラブグッドさんも知っての通り、魔法省は〝例のあの人〟に掌握されました」
「ああ、知っているとも」
「〝あんな事〟がありましたものね」
ゼノフィリウスさんの反応を見ながらハーマイオニーは「こほん」と咳払いを一つして、逸れていた話題を元に戻す。
「……とりあえずはこれだけは自信を持って言えます。〝もう、ホグワーツも全くの安全地帯とも言えなくなりました〟──と」
「グレンジャーさん、君はもしかしてこう言いたいのかな? ……〝魔法省が敵として迫ってくる〟──と?」
〝ばかばかしい〟とでも言いたげなゼノフィリウスさんに、ハーマイオニーは「ええ」と短く返してそれから理路整然と〝現状〟を教えていく。
「〝例のあの人〟はスクリムジョールの後任として〝息の掛かった〟人物──もう言い繕う必要は無いですね。……〝例のあの人〟はスクリムジョールの後任として〝服従の呪い〟が掛かった人物を据えるでしょう」
「……スクリムジョール氏なら〝服従の呪い〟に対して抵抗し得ただろう──そう考えるとあり得ない話ではない」
「はい。……そしてそれは、ホグワーツに干渉出来る下地が出来たと云う事でもあります」
「……グレンジャーさん、貴女の言葉は理解出来る。……しかし、いくら〝名前をいってはいけない例のあの人〟が魔法省を掌握して──それでホグワーツの新しい校長を≪死喰い人≫を任命出来るようになったとしても、ホグワーツの理事会がそれに従うだろうか」
「〝従わなかった結果〟を、貴方も見ているはずです」
「……っ…」
ゼノフィリウスさんは〝従わなかった結果〟──スクリムジョールの事を思い出したのか、眉を深く顰め、ようやく〝事の重大さ〟を十分に理解出来たのか重々しく口を開いた
「従わなければ殺される、か…」
「従わなければ殺す──必要もありませんね、ここまで来れば。……もう魔法省の人々は〝例のあの人〟に従うほかありませんし──ねぇ?」
ハーマイオニーはルーナに意味ありげな視線を送りつつ「〝特に家族がいる方々は〟」と付け加える。ルーナは首を傾げているが、ゼノフィリウスさんはそのハーマイオニーの視線で俺達が伝えたかった事を真に理解したようだ。
「……っ──確かにそれなら〝アニー・ポッター〟を擁護する様な記事を書く事が出来なくなるだろう。……グレンジャーさん、忠告感謝する」
「ルーナの為でもありますから。……それに一番に〝ゼノフィリウスさんのところに行こう〟──と口にしたのはロンですし」
「……そうか──ウィーズリー君もありがとう。私だけなら気付かずポッターさんを擁護する記事を書いてしまっていただろう」
「いえ、ハーマイオニーも言っていた様に、ルーナの為でもありますから」
俺はゼノフィリウスさんからのお礼に本音混じりの建前を返す。……それから5人で四方山話──主に〝死の秘宝〟についての話題で盛り上がり、ゼノフィリウスさんの厚意で夕飯の相伴に与ったあと、〝もうそろそろ行こうか〟と云う事になり、最後にルーナの顔を見た時だ。
「……あっ、やべっ」
思わず誰の耳にも届いていないであろう声量だが洩らしてしまう。……何と自責すべきだろうか──重大な事を失念していたのだ。
(……オリバンダーさんの事、どうしよう…)
SIDE END
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