普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
231 巻いていくスタイル
SIDE アニー・リリー・ポッター
「つまり、ヴォルデモートは〝分霊箱〟を作るためだけに殺めたのですか?」
「ああ、それも一度や二度ならずともな。……じゃが──何たることを…っ」
スラグホーン先生の〝本来の記憶の旅〟から戻って来て、愕然としながらダンブルドア校長先生に訊ねれば、校長先生は苦虫を噛み潰した様な表情で頷く。
ロンから融通してもらった〝幸運の液体(フェリックス・フェリシス)〟でスラグホーン先生から得た──今見た記憶によれば、云ってしまえば〝分霊箱〟とは〝命の補助器〟の様なものと云う感じだと理解した。
更に、RPGとかで割とよくある設定で、そのラスボスよろしく〝分霊箱〟を全て破壊しなければヴォルデモートを斃す事が出来ないとも…。
―ほい、〝幸運の液体(フェリックス・フェリシス)〟の予備だスラグホーン先生から記憶を回収すんのに役立つだろ。……そうだ、ついでに〝こいつ〟も持っていけ―
―ありがと。……なにこの巾着?―
―その袋の中身は──あー、〝加速装置〟の様なモンだ。……詳しくはスラグホーン先生の記憶を見せたあとに、ダンブルドア校長に見せれば判る事だ。……まぁ、アニーも何が入っているかは判ってるだろうがな―
(……あー、なるほどねー…)
ふと、〝あの夜〟にロンから〝幸運の液体(フェリックス・フェリシス)〟を渡された時に、〝同時に渡された物〟とその時交わした会話を思い出し、ロンが言っていた〝加速装置〟と云う言葉の意味が判った。
やはりロンから渡された巾着に入っているのは〝分霊箱〟で、本来ならこれまたRPGよろしく──回収して回るのに四苦八苦していたことだろう。
……なんの事は無い。〝加速〟させるのは〝ストーリー〟だったと云うわけだ。
「〝分霊箱〟を7つ──中々ホネが折れそうですね」
「それは大いに同意じゃな。……しかし一つ訂正するところがある。正しくは6つじゃ。ヴォルデモート自身の命すらもカウントされるのじゃ──いや、更に正しく言うのなら5つじゃな」
「5つ? ……あ、もしかして〝記憶〟を収集している最中に一つ見つけて破壊したのですか?」
「いや、違う」
パッと思い付いた可能性を述べてみるが、ダンブルドア校長先生は首を横に振る。……と云うはつまり、少なくとも昨年度──もしくはそれより前に〝分霊箱〟を破壊していたと云うこだ。
そしてダンブルドア校長から意外な言葉が出てくる。
「数年前の話じゃ。まだ二年生だった〝君達〟が儂の元に届けてくれたものが〝分霊箱〟だったのじゃ」
〝君達〟〝二年生の頃〟と云うダンブルドア校長先生の言葉で直ぐに思い付いた。二年生の頃、ボク、ロン、ハーマイオニーは校長先生へ闇の魔術が施された物を提出していたのだ。
「……〝日記〟ですね? ……だとするなら殺されたのはマートルでしょうか?」
「その公算は高いじゃろう」
〝日記〟についての事実の補完はそこまでに、何故かボクとダンブルドア校長先生の間に沈黙が訪れたので、ボクはその沈黙を切り裂く様に「ところでですね」と前置きしてから〝ロンからの預かりもの〟について切り出した。
「……この巾着ですが…」
「実を云えばアニーが入って来た時から気になっておった」
「ロンから預かっていたものなんですけど…」
実は〝スラグホーン先生の記憶を見た後で出すように〟、とロンに言われた事は黙っておく事にして校長室に設えてある机の上に中身を取り出す。……実は、ボクは巾着に何が入っているかは知らなかったので地味に楽しみだったり…。
「これは…っ!」
「おおっ…!」
巾着から出てきた物品の総数は2つで、それら〝どういうものなのか〟を理解出来てしまったボクとダンブルドア校長の呻き声が校長室に溶けていく。
巾着から出てきたのは豪奢な装飾の鷲だか鷹だかを象ったティアラと細やかな細工が施された金のカップと──芸術品として見るなら、一見何の変哲もないものだが、カップの側面に施されている〝穴熊〟の装飾を見て、〝ティアラを象っている生き物〟も連鎖的に理解出来てしまったのだ。
ティアラが象っているのは〝大鷲〟で、〝穴熊〟と〝大鷲〟どちらもこの学校──【ホグワーツ魔法魔術学校】に馴染みの深い生き物だ。……何しろ校章に採用されるくらいだから…。
ダンブルドア校長先生もそれは勿論理解出来ているようで、ティアラとカップを数分検分すると「……すっかり闇の魔術の気配が消えておる」と呟いてから、ボクに訊いてきた。
「アニー、ロンから〝これら〟について詳しい話は聞いておるかな?」
「いいえ、ボクは今初めて巾着の中を出しました。……でも、〝これら〟が贋作と云う可能性は…?」
「……いや、それはない。間違いなく本物じゃ」
一応、真贋を訊いてみるが、ダンブルドア校長先生の言葉は予想通りだった。
「……では、やはり〝これら〟は〝分霊箱〟だったものですか?」
「左様。辛うじてじゃが闇の魔術の残滓が感じられた。……ヴォルデモートのの気質から鑑みても、〝分霊箱〟だったと見て間違いないじゃろう」
「ヘルガ・ハッフルパフとロウェナ・レイブンクロー所縁の品。……これにサラザール・スリザリン所縁の品があれば──っ」
〝ホグワーツ博覧会が開催出来ますね〟と諧謔を述べる前に言葉を失った。……そう、ボクはサラザール・スリザリンの所縁の品をボブ・オグデン氏の記憶で見ていたのだ。
「スリザリンのロケット…!」
「ああ、儂も今同じ事を考えておった。これで一つを除いて〝分霊箱〟を特定する事が出来た。……これもロンのおかげじゃろう」
「……では、あと一つはやっぱりゴドリック・グリフィンドールの所縁のものでしょうか?」
「その可能性は低いじゃろう。……ほれ、あれを見てごらん」
ダンブルドア校長先生の示唆する場所を見遣れば、そこには白銀の剣が掛けてあり、しかもご丁寧に札もあって──その札に書かれている文字を読んで、〝なるほど〟と納得する。
札には[“ゴドリック・グリフィンドールの剣”]と記されてあった。
「〝剣〟以外はゴドリック・グリフィンドールの所縁のものは確認されておらぬ。それはヴォルデモート──トムも調べていたはずじゃ」
「それでヴォルデモートはあの剣〝分霊箱〟にするのは諦めたと?」
「あの剣を持ち出せるのは〝真のグリフィンドール生〟だけじゃからの」
「〝血筋〟からして緑一色ですからね」
ダンブルドア校長先生の言葉で納得した。ヴォルデモートはゴーント家の血を継いでいる。それはつまり、ロケットが正当に相続されて来ているならの話だが──サラザール・スリザリンの末裔だと云うことだ。
……ふと、〝血筋〟や〝末裔〟と云う言葉で思い出した。
「……あ、〝血筋〟で思い出したんですけど、ヴォルデモートは〝ペベレル家〟と云う家名の後継者でもありましたよね?」
「おお、よく覚えておったの。確かにヴォルデモートは──ゴーント家は〝ペベレル〟の後継者じゃ。……じゃが、〝ペベレル〟について触れておったら学期が終わってしまうから、今はヴォルデモートについてじゃ」
「次は誰の〝記憶〟ですか?」
「ホキーと云う屋敷しもべ妖精の記憶じゃ。……しかし、スラグホーン先生の記憶を見るのを急ぐあまり、ヴォルデモートがホグワーツを卒業した話をするのを忘れておったの」
ヴォルデモートの進路。……スラグホーン先生の記憶の印象によれば、若きトム・リドルは昔ダンブルドア校長先生が言ったように──〝才気煥発〟を絵に描いた様な青年であり、その青年の行く先が地味に気になるところなので、ダンブルドア校長先生の話に耳を傾ける。
「【ホグワーツ魔法魔術学校】を君の予想通り──抜群の成績で卒業したトムは、ホグワーツでの教職を望んだ」
「……何だか意外ですね──ですが、ヴォルデモートが望むとしたらそれは〝闇の魔術に対する防衛術〟でしょうか」
「そうじゃ、その時の校長に儂が忠言していなかったら間違いなくトムは採用されておったじゃろう。ディペット校長はトムを気に入っておったからの」
(おっふ…)
ダンブルドア校長先生の機転に感心した。ヴォルデモートなら甘言を振り撒き、11~17の少年少女を魅了するなんてお茶の子さいさいだったろう。何ともゾッとしない話だ。
「トムはスラグホーン先生やディペット校長などの様々な人物からその輝かしい未来が嘱望されておったが、それら全て袖にして、おおよそ〝栄華〟とは言い難い店に身を寄せた」
「どんな店だったのですか?」
「【ボージン・アンド・バークス】じゃ」
「ああ、確かに〝お誂え向き〟ですね」
【ボージン・アンド・バークス】には様々な物品が集まる。その中には主に表に出せない様なシロモノあっただろう。
「アニーも知っての通り、トムには巧みな話術が備わっておった。……そう時を置くでもなく店主はトムを外回りを任せる様になり、軈てトムは1人のヘプジバ・スミスと云う老魔女に出会った。……あとは〝記憶〟を見た方が早いじゃろう──ほれ、お入り…」
ダンブルドア校長先生の指示で〝憂いの篩〟に頭を突っ込み、今度はホキーとやらの記憶の旅へと出掛けるのだった。
SIDE END
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