リング
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120部分:ヴァルハラの玉座その一
ヴァルハラの玉座その一
ヴァルハラの玉座
その男はある場所を捜し求めていた。長い間その場所を捜し求めていた。
その場所はライン。彼はそこで皇帝となると夢で告げられたのである。
彼の名はジークフリート=ヴァンフリートこのノルン銀河最強の海賊であるワルキューレの首領であり銀河にその勇名を謳われていた。
このワルキューレは他の海賊とは違っていた。決して弱い者を襲うことはなく、帝国軍だけを相手にしていた。捕虜を害することもなかった。そうした意味で彼等は本当の海賊であると言えた。
その首領であるジークフリートは金色の長い髪に紫の瞳を持つ端正な顔立ちの青年であった。その風貌や立ち居振る舞いには気品があり、海賊とはとても思えないものであった。緑の上着と黒いズボンの上に赤いマントを羽織り、義賊として知られていた。その彼がラインを捜して長い戦いを続けていたのである。
彼の本拠地はシュヴァルツバルトにあった。この惑星を本拠地として彼はクリングゾルの帝国軍と激しい戦いを繰り広げているのである。
「首領」
その彼の個室であった。海賊の部屋らしく簡素で装飾は何もなかった。
「どうした」
彼は腹心の部下の一人であるポネルに顔を向けて尋ねた。
「何かあったのか?」
「帝国軍がチューリンゲンに向かっております」
「チューリンゲンに」
「はい」
ポネルは頷いた。
「あそこは確か」
「そうです、オフターディンゲン公爵がおられます」
彼の名は銀河に知れ渡っていた。政戦両略の人物として知られているのだ。これはジークフリートも同じであった。
「そうだったな」
「何か思惑があるのでしょうか」
「チューリンゲンは豊かな星系だ」
ジークフリートはそれに応えた。
「帝国軍、そしてニーベルングが狙っても無理はない」
「それでは」
「いや」
だが彼はここで言った。
「おそらくは。それだけではない」
「といいますと」
「これは私の勘だがな」
ジークフリートはそう断ったうえでポネルに対して述べる。その顔は真摯なものであった。
「はい」
「おそらく彼等はそれだけではないな」
「チューリンゲンだけでは」
「むしろ他のものを狙っている」
「それは」
「そこまではまだわからない」
ジークフリートの顔は真摯で強張ったままであった。
「しかしそれが帝国にとって重要なものは事実だろう」
「帝国にとって」
「それかニーベルング自身にとってな」
「あの男に関することは今だ謎に包まれております」
「うん」
ジークフリートもその言葉に頷いた。
「何もかもな。思えば帝国軍宇宙軍司令官になっただけでも不思議なものだ」
「家柄は確かブラバント家の方が上でしたね」
「それどころか。ニーベルング家なぞというのは聞いたこともない」
「貴族の家であることは間違いないようですが」
「一応はそうなのだろうな」
だがジークフリートの言葉は懐疑的なものであった。
「一応はな」
それは名前でわかる。『フォン』というのは貴族の称号である。出自の知れない海賊の首領であるジークフリートにはそもそも縁のないものではあるが。
「しかし宇宙軍総司令官というのは非常な地位だ」
「はい」
これは言うまでもなかった。帝国軍の基幹戦力である宇宙軍を預かっているのだ。これは道理であった。
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